第156話 という夢を見……ない





 目が覚めると夜だった。


 窓から射し込む月明かりを頼みに、ぐるっと首をひねって周囲を見まわす。

 ベッドに寝かされた俺の横では、覆い被さるようにティーレが寝ていた。それ以外に近衛の騎士が二人、椅子に座ったまま眠りこけている。


【フェムト、どれくらい寝ていた?】


――29時間13分47秒です――


 丸々一日か……かなり質の悪い毒だったことがわかる。


【体調は?】


――全快といいたいところですが、しばらくは倦怠けんたい感が残るでしょう。活動可能範囲内です――


後遺症こういしょうか?】


――いえ、体力の消耗が激しいので、そのせいでしょう――


 後遺症がないと聞いて安心した。それにしても意外だ。俺のことを暗殺しようとしていた相手――カーラが、倒れた俺に何もしていないとは……。


 ティーレの頭をそっと撫でる。

「あなた様……私もあとを追います」


 寝言を口にする彼女の目元がキラリと光る。俺のために泣いてくれているんだ。とたんに、彼女のことがいとおしくなった。

 ティーレの頬をそっと撫でる。


【俺が倒れてからどうなったんだ?】


――それはもう大変でした。時系列に報告をまとめています。読み上げましょうか?――


【頼む】


――ラスティと接敵した暗殺者ですが、高確率で破滅のメギドと推測されます。唯一の取りこぼしですね。それ以外の暗殺者は…………――


 フェムトからの報告が終わるよりも先に、眠気が襲ってきた。睡魔の見えざる手が無数にからみつき、意識の奥底へと引きずりこまれる。

 助かったという安心感も後押しして、再び夢の世界に落ちた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る