第135話 職場逃亡①



 エレナ事務官との話を終えたあと、俺はあてがわれている天幕へと戻った。

 ここ数日の軍事行動の報告書をまとめる仕事が残っている。それが終わったら、あの苦手な第一王女様へのご報告だ。


 意地悪な(将来の)義姉のせいで、ティーレと会うことができない。それどころか、ことあるごとに絡んでくるから始末が悪い。

 ああいう口うるさい女性は結婚できないタイプだ。絶対にそうだ。だからティーレと俺の仲をねたんでいるんだ。きっとそうにちがいない!


 義姉問題も大切だが、それよりも新たな問題が……。


 婚姻のために王族を二人捜し出さないといけない。ティーレとの結婚には、王と当事者を除いた王族から過半数の賛成をもらわないといけない。現状、婚姻の成否を握っている王族はただ一人。カーラだ。意地悪な(未来の)義姉は絶対に賛成しないだろう。

 となると、あと二人賛成してくれる王族を探さないといけないわけだが……。


 そもそもの話、聖王国との戦いの折、ベルーガ王都で裏切りがあったせいで王族の多くは望まぬ死を強いられた。わずかに生き残ったとされる王族も消息は不明。王都陥落の際に散り散りになったと聞いている。

 ベルーガ中央に位置する王都と南、南西は聖王国に占領されていて捜査に行けない。東はもうしらべたあとだし、北はカーラたちが捜したあと。可能性があるとすれば西なのだが、そちらで王族が発見されたという報告はない。


 となると王都近辺か……。


 一応、ドローンを差し向けてたが、それらしき一行は見つからなかった。

 そもそも邪教徒、異教徒と国土を蹂躙じゅうりんしてまわる連中だ。捜索に漏れがあるとは思えない。望みは薄いだろう。

 仮に生き残っていたとしても、聖王国の追っ手を警戒して身を隠しているはず。建物のなかに潜んでいたら上空からは見つからない。


 まったくもって無理ゲーだ。


「情報も無い、手勢も少ない、ドローンで捜すにも発見しづらい。おまけに手つかずの場所はどれも危険区域レッドゾーン。どうすりゃいいんだよ」


 ここは下手に動くよりも、有力な情報を待ったほうがいい。


 そんなわけで居心地の悪いベルーガの野戦基地に留まる日々がつづく。

 これといってやることがないので、セモベンテから逃げる口実としてマロッツェ支城の街道向かいに城を建てることを具申した。大呪界で領地開発をした経験が役立つはずだ。


「おもしろい発想ね。いいわ、許可してあげる」

 エレナ事務官の協力もあり、単独行動はすんなり認められた。


 許可が下りたのはいいが、手持ちの兵は五〇〇と少ない。効率的かつ早急に城を建てねば。

 名案が浮かばないので、頼りになる相棒――フェムトに知恵を借りることにした。


【どうやったら迅速じんそくに城を建てられるか、シミュレートしてくれ】


――築城の条件は?――


【なんでもいい、まずは簡単な守りをいて、それからじっくり取りかかるつもりだ】


――二段構えですね――


【そうなるな。大呪界のときみたいに、襲撃を想定して仮の囲いを造ろうと思っているけど人数が足りない】


――なるほど、それで第七世代の有用性を示そうというのですね。良いことです――


 うーん、そうじゃないんだけどな……。フェムトはエレナ事務官をサポートしている第九世代型AI――M2《メタツー》に対抗意識を持っているらしい。まあ、想定の範囲内だ。ムキになって変な方向に突っ走らないでくれればいいのだが……。


 心配をよそに、俺の相棒は素晴らしい解答を導き出してくれた。

――現状に合致した建築データがありました――


【どんなデータだ?】


――惑星地球の古代史に出てくる〝モノノフ〟が建てたという城です――


【どんな城だ?】


――イメージを投影しますので、しばらくお待ちください――


 地球古代史といえば、末期に連合宇宙軍の軍艦の元となった兵器が開発されたので有名だ。それ以前の資料だと原始的過ぎて役に立たない。おそらく末期でもコンクリートが軍事利用されたあたりのデータだろう。

 そう思っていたのだが、投影されたイメージ映像はこの惑星の家屋のような大きな建物。これが城?


――地球古代史中期に建てられた〝スノマタ〟という城です。驚くべきことに、戦時中たった一夜で建てられたと資料に残っています――


 それは凄い! 古代地球史の中期にそれほどの建築技術があったとは……。それに木材をメインにしているのもいい。マロッツェには広い森があるので、木材が取り放題だ。資材を心配しなくていいのはありがたい。


【それでいこう。肝心の手順はどうなっているんだ?】


――データによると、先にパーツをつくってから、現地に運んで組み立てるようです――


 賢いやり方だ。安全地帯でパーツをつくるので敵に襲われる心配もない。リッシュの支城で作業させてもらえれば格段に作業がはかどるだろう。とはいえ人手はほしい。どうしよう?


 旧ノルテ隊の会議で賛同者をつのろう。あまり結果は期待できないだろうけど……。

 ダメ元で会議の場で発言すると、ラスコーとアレクが名乗りをあげてくれた。

「新たに支城を建てるのであれば助力します」

「最近、暇だったんでいいぜ」


 間違いなく相性が悪いであろうセモベンテは、

「俺は残る。緊急の際に誰も動けぬようでは問題になろう」


 筋は通っている。しかし、緊急事態が発生するのは俺のほうだと思うのだが。まあいい、一番面倒な奴から離れられる。黙っておこう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る