第128話 ご挨拶
マリンとローランが駆けつけてくれたおかげで事なきを得た俺は、その足でリッシュが守る
最前線だけあって兵の質は高く、教育が行き届いていた。出迎えも丁寧で、規律ある軍隊だ。
きっとリッシュの手腕が良いのだろう。
「これはスレイド
「結構、かすり傷だ。それよりも野盗に
「はっ、怪我人を医師の元へお連れしろッ!」
俺のほうが権限は上のはずなのに…………一体どこで狂った?
デリートしたい
「無理をなされないように願います。ところで、本日はどういった用件で来られたのですか?」
「近くの森に調査に来たので、リッシュ名誉元帥に挨拶をしていこうと思い、立ち寄りました」
ジェイクを手招きして、荷馬車に積んだ切り裂き
「手土産もこの通り」
「おお、これはありがたい!」
森での戦利品を譲り渡すと、気の利いた部下はリッシュのいる執務室に案内してくれた。
「ラモンド閣下、スレイド伯がお見えです。お通ししてもよろしいですか」
「丁重にお通ししろ」
「はっ!」
星民好みの流線形をふんだんに取り入れた机に椅子。どれも風格のある
「
「喜んでいただけて何よりです」
「さて、わざわざ足を運んでくれたのだ。ワシに用件があるのだろう?」
「はっ、実は…………」
貴族の先輩であるリッシュにセモベンテたちの扱いについて尋ねた。
「
「そ、そんな、そこまでして頂くなんて」
「良い、貴族の先輩として当然のことだ。これからも悩みがあれば相談に乗ろう。それと一つ、ワシの相談にも乗ってほしい」
「俺でよければ喜んで」
優秀と思われたリッシュにも悩みはあるようだ。なんでもかつての政敵であったエレナという女宰相について、今後どのように接すればいいかの相談だった。
そういえばブラッドノアにもエレナって名前の女性事務官がいたな。帝室令嬢だったので覚えている。たしか赤毛で……。
同一人物かと思ったけど、無いな。宰相って器じゃないし……。いくら優秀でも、この惑星に来て半年足らずで
きっと高貴な血筋の女性なのだろう。それでいて長年の功績が認められて……あるいは優秀だったから宰相になった。
エレナ事務官とは、たまたま性別と名前が一致しただけだの赤の他人だろう。
「…………といわけで内務大臣から
これほど優秀な人材を降格させるとは……。詳しく聞くと、リッシュは失策もあるが成功による功績は大きく、それが認められていまでは国を支える
「アデル陛下の仲介で和解したのならば、それでよいのでは? 俺が考えるに、降格は気を引き締めろという意味合いがあったのではないかと思います」
「ほう、宰相はワシに『忠勤せよ』と
「はい、話を聞く限りでは宰相は合理主義者。意味なく降格はありえないでしょう。仮に敵対しているのであれば、降格だけでなくそこから先があったはず」
「降格の先とは?」
「ことあるごとに、ちいさな失敗を突いて権力を
「今後は警戒しなくてもよいと?」
「警戒してはなりません。もし俺の考えた通りだったとすると、それに
「なぜだ? 優秀ならば歓迎されるのではないのか?」
「いえ、優秀すぎるから警戒されるのです」
優秀すぎるというのも厄介なものだ。軍の同僚がそうだった。頭でっかちで融通が利かない同僚は、馬鹿な上司の怒りに触れて、惑星本部の清掃課に飛ばされたのを知っている。
「むう、面倒なことだな」
「悲観することはありません。閣下は名誉元帥と大臣という肩書きがあります。難敵は正規の元帥に任せて、大臣という国家運営に注力するのがよろしいかと」
「なるほど名誉元帥であれば、元帥の真似事をせずとも良いというのだな」
「はい、それに閣下は位人臣を極めておられます。政治軍事ともに発言力があるのですから、これ以上危険を
「ふむ、卿の意見は耳を
プライドだけの帝国貴族とは大違いだ。俺の提案は小賢しいと思われたかもしれない。
「閣下の人望を加味するのを失念していました。ご無礼、お許しください」
「いや、かまわんよ。スレイド卿はまだ若い。貴族のなんたるかを理解していなくて当然。己の至らなさに気づくだけでも素晴らしいと思っている」
「お
「ただ一つだけ、卿に覚えてほしいことがある」
「なんでしょうか?」
「貴族の務め、という言葉の意味を理解してほしい」
「貴族たる者、その力をもって民を守るのですね」
「なんだ、知っていたのか」
「はい。閣下の姿を見て、そのように思いました」
「はははっ、これは嬉しいことを言ってくれる」
挨拶もほどほどに支城を去ろうとすると、リッシュは泊まっていくよう勧めてくれた。
御言葉に甘えて一泊してから、俺は野戦基地へと戻った。
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