第123話 配属②



 一番手は大鎚ハンマーを構えた騎士だ。ZOCを彷彿とさせる筋骨隆々の大男で、背丈はウーガンの倍はある。ガンスという名前で、傭兵ようへいくずれらしくほほや肩に傷が走っている。


「いくぞッ!」


 ガンスは気合全開で突っ込んでくるが、身体強化をした俺の敵ではない。

 速度の乗った大鎚の一撃をかわすと同時に、がら空きになった胴体へ木剣を叩き込んだ。

 ガタイがいいもんだから手加減無しでぶっ放したら派手に吹っ飛んだ。


 ギャラリーの騎士たちがざわめく。


「どんどんいこう、次は誰だ?」


「俺が行くッ!」

 今度は剣と盾を手にした正統派の騎士だ。ガンスの敗北を警戒してか、慎重に攻めてくる。相手の木剣を弾くと、大げさに盾で胴体を守った。


 学習能力はあるようだが、ビビりすぎた。

 がら空きになった足を、蹴りで払う。たったこれだけで騎士は尻餅をついて降参した。


 次の相手も正統派の騎士で、剣を弾いて盾を無視。今度は死角に回って、首筋を打ちえてやった。


 三人目を倒すと、また大男が出てきた。今度は巨大な戦斧せんぶだ。


「さあ、かかってこい!」


「……行くぞぉ!」


 大男は自身をじくに風車のように戦斧を振りまわしている。


 まともに打ち合うのは面倒なので、相手が疲れるのを待ってから脳天のうてんに一撃。呆気あっけない勝利だ。


「俺はいままでの奴らとはちがうぞッ!」

 見事に伝説の負けフラグをおっ立ててくれたのは、ゴブリンより一回り大きい小男。

 無数のナイフを差した帯を、両の肩からバッテンに掛けている。

 飛び道具がメインの騎士だ。珍しい。


 ちょい本気だな。


 相棒にサポートを頼むことにした。


【フェムト、射撃アプリを立ち上げてくれ、弾道予測をしてほしい】


――了解しました――


「食らいやがれ」


 律儀りちぎに木製のナイフを飛ばしてきた。それも十を超える数をいっぺんにだ。なかなかの遣い手だが相手が悪かった。


 赤いラインで示されたナイフの軌道を躱しつつ、適当に木剣で叩き落とす。危うく一本食らいかけたが、籠手こてで弾いた。


「も、もう一度だ!」


 そんな攻防が四度続き、弾切れになった小男をゆっくり近づいて殴り倒す。


「これで五人」


 次の相手、アレクもなかなかの遣い手だったが、スパイクの剣技に比べれば稚拙ちせつだ。あっという間に押しやられ、最後には尻餅をついた。


「いまのは足がからまっただけだ、まだやれる」


「戦場に次はないぞ」

 喉元に木剣の切っ先を突きつけ、勝利。


 ラスコーはかなり手こずった。

 正統派の剣と盾だが、熟練の騎士は巧みにこちらの攻撃を捌き、隙を見てはバランスを崩さない程度の攻撃を仕掛けてくる。


「どうですかな? やりづらい相手でしょう」


「たしかにやりづらい。だけど打つ手無しって相手でもないな」


「ほう、ではラスティ殿のお手並み拝見といきましょう」


 これまで受け身だったラスコーが果敢に攻めてくる。隙のない浅い攻撃ばかりで、こちらが攻めると堅実に盾で守る。なるほどやりづらい相手だ。

 しかしこの戦い方には欠点がある。体力の温存はできるものの、攻防が単調で時間がかかりすぎる。

 俺はその隙を突いた。


 浅い攻撃を引く瞬間を狙って、木剣を大上段に構える。ラスコーは慌てて盾を構えた。やや上向きに傾いた盾を下から上へ蹴り飛ばし、素早く引き戻した木剣で突く。


 カンッと鎧が鳴った瞬間、全体重を乗せて一気に押した。


 すっ転ぶラスコー。


「いやはや参りましたな。まさか初見で技を撃ち破られるとは」


 転んだラスコーを助け起こし、

「こちらこそ、いい勉強になった。ありがとう。実を言うと一対一の戦いは不得手でね、予想以上に手こずったよ」


「そうは見えませんでしたが」


「ははっ、褒め言葉と受け取っておくよ」


 最後の相手はセモベンテだ。

 こちらは俺と同じ木剣一本の戦闘スタイルだ。


「ラスティ殿、手加減無用で願いたい!」


「こちらこそ」


 挨拶もそこそこに剣を交える。

 ノルテさんの副官だけあって強い。木剣で打ち合うこと数十合。勝敗どころか優劣も定まらない。こちらは連戦だが、ナノマシンの恩恵を受けている。対するセモベンテは普通の人間だ。それなのに勝てない。

 疲労が蓄積しているのか?


「なかなかやりますな」


「褒めて頂きありがとうございます。俺としては楽に勝ちたかったんですけどね」


「ハハッ、そう簡単に勝たせてはノルテ閣下に申し開きが立ちません。残念ですがここは負けて頂きましょう」


 言い終えると、セモベンテの顔つきが豹変ひょうへんした。殺意のこもった目を向けてくる。


 なるほど、これが彼の本気か。だったらこっちも全力で戦うことにしよう。


 剣で打ち合う瞬間、筋力強化を最大出力にした。

 力に耐えきれず俺の木剣が折れる。


 引き分けといきたいところだが、ここは白黒はっきりさせよう。


 折れた木剣を投げつけて、セモベンテがひるんだすきに、木剣を握る腕に飛びついた。そのままセモベンテを引き倒す。宇宙軍で習った関節技を決める。腕ひしぎだ。


 セモベンテは必死の抵抗を試みるが、俺の仕掛けた技は完璧だ。腕をへし折るように力を入れると、さすがの強者も諦めたようだ。


「痛いッ、参った! 降参だ、負けを認める」


 関節技をめていた腕を解放する。


 セモベンテは痛そうに腕をさすりながら、立ちあがると、

「さすがは隊を任される方、お強い」


「運がよかっただけですよ。セモベンテ副官も強かったです。木剣が折れていなかったら勝負の行方ゆくえはわからなかったでしょう」


「そうは仰っても、木剣が折れてなお戦う闘志。感服しました。我らノルテ隊、ラスティ殿の命令に従いましょう」


「そう言ってくれると助かる。しかし、個人の強さと隊を率いる能力は別だ。セモベンテ副官が指揮するに値すると認めてくれたら俺が指揮官になろう。それまでは、あなたにこの隊を率いてほしい」


「畏まりました」


 新任の挨拶もすんだので、俺はあてがわれた天幕へ向かうことにした。


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