第122話 配属①
旧ノルテ隊の陣地へ到着すると、軍隊らしい歓迎を受けた。
しかめっ面をした指揮官たちが、俺とマリン、ローランを出迎える。こういうのは宇宙軍でも経験した。士官学校を出て実戦経験も無く少尉からスタートしたときなんかがそうだ。
実戦経験を積んだ兵士からすれば、右も左もわからない新米士官は目の上のたんこぶなのだろう。昔の俺だったら彼らの意見を素直に聞いていただろうが、あいにくと実戦経験者だ。
「新しくこの隊を任されたラスティ・スレイドだ。ここの責任者に会わせてくれ」
「俺が責任者です」
出迎えの列から一歩踏み出したのは
「名前は?」
「セモベンテ、ノルテ元帥閣下の副官を務めておりました」
「ほかに隊を預かる責任者は?」
今度は二人、列から出てきた。
「千騎長の任についているラスコーです」
「同じく、閣下より千騎長を拝命しているアレク」
ラスコーは四十代半ばの穏やかな笑みを
最後に名乗ったアレクは、二十代と見ていいだろう。髭を
好意的ではない視線を真っ正面から受けとめ、順番に視線を
「よろしく頼む」
旧ノルテ隊代表のセモベンテが握手を求めてきた。
その手を握ろうとすると、一瞬セモベンテが笑ったように見えた。なんとなく予想はつく。対抗措置としてフェムトに身体強化を命じた。
――相手は敵ではありませんが、よろしいですか?――
【戦闘はないと思うけど、それなりに手痛い歓迎になりそうだからな。念のためだよ】
――軍隊式の歓迎ですか?――
【ああ、軍隊式の歓迎だ】
――了解しました――
身体強化もすんだことだし、熱烈な歓迎を受けるとしよう。
セモベンテの手を握ると、思いっきり引っぱられた。予想通りの展開だ。
踏み出していた足をさらに半歩前に出して、踏ん張る。そこからの反撃! 思いっきり引っぱる。
「うわぁあっ!」
バランスを
俺は一方的に殴られないように先手を打って、
「手合わせをしよう」
動きかけた騎士たちがとまる。
「腕に自信のある者は前に出てくれ、順番に相手をする」
「ラスティ殿、何を仰っているのですか? 我々はそのようなつもりで……」
年長者のラスコーが場を収めようとするするが、ほかの騎士たちの鋭い眼光からして手合わせで間違っていないようだ。
「ラスコー隊長の言い分はごもっともだ。しかし、ノルテ元帥の部下だった騎士たちが俺の命令を素直に聞くとは思っていない。死ぬか生きるかの戦場でみんなを指揮する立場になるんだからな。俺みたいなぽっと出の貴族は信頼なんてできないだろう」
「そのようなことはありません。アデル陛下からの勅命とあらば従うまでです」
「それはいい、だが逆の立場だったら俺は気に入らない。命を預けるに足る指揮官か確かめる」
「……それを我々にやれと?」
「そうだ。もし俺が無能だったら、いままで通りセモベンテたちが指揮すればいい。俺はみんなの足を引っぱらないようにお飾りになっているよ。どうだ?」
最後の部分だけ、ほかの騎士たちに投げかける。
返事はない。しかし、何名かの騎士が前に出てきた。どれも腕に覚えのありそうな面構えをしている。
騎士たちから並々ならぬ気迫を感じとったのか、控えていたマリンが
「私が出ます」
「いや、いい。これは俺の問題だ。それよりも、マリンは戦い方を見ておいてくれ。いずれ君も戦うことになる。
「承知しました。ご武運を」
「ありがとう」
そうしている間に、腕に覚えのある騎士たちが俺の前に立ち並ぶ。
セモベンテを筆頭に、ラスコー、アレク、それに名前の知らない騎士が五名。
さて、鬼教官の真似事といこうか。
「誰か訓練用の
若手の騎士が木剣を運んでくる。良さそうなの選ぶと、対戦する騎士たちも木製の武器を手にとった。帝国同様、この惑星にも騎士道精神が根付いているようだ。となると対戦も一人ずつか。
「あの……盾はいらないのですか?」
「守るのは苦手なんだよ。剣があればそれでいい」
「わかりました。健闘を期待しています」
盾を持ってきてくれた若い騎士には悪いが、俺は盾の扱いを知らない。必要に駆られて剣術のデータしかあつめていないからな。まあ、なんとかなるだろう。
軽く柔軟運動をしてから、地面に線を引いただけの闘技場に足を踏み入れる。
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