第98話 宴の準備●



 翌日から、私は防戦に徹した。


 ドローンやセントリーガン、レーザー式狙撃銃を封印して、手持ちの兵だけで防戦を演じる。


 それから半月もしないうちに、敵が慌ただしくなってきた。集積地を構築するための工兵部隊がやってくる。


 ほどほどに戦って撤退。事前に構築した後方の城へ移る。川を挟んだ向こう岸に造った城だ。こちらは石を積んだ堅牢けんろうな造り。しかも、ちいさい。


 聖王国にとって、石造りの小城などどうでもいいのだろう。

 奴らは川沿いに木柵を並べると、私が本陣を置いていた場所に糧秣りょうまつ集積用の基地を建て始めた。


 こうなることは予想していた。だって、私が本陣を置いていた場所はきっちりかっちり測量して造ったから。おまけに井戸も掘って、整地もしてある。なので、敵さんはそれを利用するとんでいたのだけれど……まさかここまで狙い通りに事が進むとはね。笑いがとまらないわ。


「すべて閣下の目論見もくろみ通りですね。あとは糧秣があつまるのを待つばかりです」と、ロビン。


「そうね。そうなってくれれば嬉しいんだけど」


 私は、しくじったときのことも考慮こうりょして、いろいろと悪戯いたずらを考えていた。

 ドローンにハンドグレネードを投下させる作戦に、病原菌をまき散らす作戦、片っ端から指揮官を狙い撃つ作戦。それ以外にも自然死に見せかけた聖王カウェンクスの暗殺や、軍のトップである大将軍の暗殺なども視野に入れていた。失敗したときのことを考えていくつも悪戯を用意していたけど、最初の作戦で大丈夫みたい。


 あれこれ考えていた私が馬鹿みたいじゃない。まったく拍子抜けする連中ね。ま、その分、楽しませてもらうけど。


 敵の集積基地はひと月ほどで完成した。


 それからさらにひと月、集積基地に食糧が貯め込まれ、ついに聖王国の本体――聖王カウェンクス率いる親征軍がやってきた。五千ぽっちの私たちなんか無視して北へ進む。


 奴らにとっては城に引きこもっている五千のベルーガ兵よりも、マロッツェの森に棲んでいる魔物のほうが脅威きょういらしい。その考えが災いするのだが……。


 それから一週間後、集積基地を襲うことにした。


「私の予定だと、集積基地が完成するまであと一月はかかると思ってたんだけど。随分とはやいのね」


「聖王国は建築技術が進んでいるので、当然のことかと」


「ロビン、あなた知ってて話さなかったのね」


「いえ、それも含めて閣下にお考えがあると思っていましたので」


「まあいいわ、それよりもトベラたちへ伝えてちょうだい。今夜、仕掛けるって」


「集積基地での騒ぎ?」


「そうよ。騒ぎを起こさせるから、それが落ち着いたら、この新しい城から出撃するように」


「かしこまりました」


「それと目立ちたがり屋のお馬鹿さんが、抜け駆けしないように釘を刺すのを忘れないでね」


「心得ております」


 さて、準備はととのった。あとは待つだけ。


 曇天どんてんを見上げる。


 ゆっくりと白い物体が降ってくる。雪だ。

 昔、一度だけ見たことがある。白い物体は手に触れると水に変わり、とても冷たい。


 季節はもう冬だ。北部の冬は厳しい。

 聖王カウェンクスは冬に入る前に一気に片を付けるつもりなのだろう。だけど、私はそれを許さない。


 私のいる国を攻めるのだ。それなりのむくいを受けてもらおう。まずは軽く牽制けんせいから……。


 開幕のセレモニーに相応しいイベントを用意してある。今夜はそれを楽しみましょう。

 最高のエンターテイメント、映画鑑賞だ。それも一方的に蹂躙じゅうりんする戦争映画を。


 その夜、私はM2に命じて作戦を実行に移させた。


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