第95話 subroutine ガーキ_伯爵になる●


◇◇◇ ガーキ視点 ◇◇◇


「ガーキ、上手くいったな」

「伯爵なんてすげーじゃねーか。大出世だぜ」


 ガキの頃からの腐れ縁のイカサとタガーズが、馴れ馴れしく俺様の肩を叩く。ぶっ殺したくなったが、今日だけは許してやろう。なんせ、王都から東の街がすべて俺の領地になったんだからな。

 そうさ、俺は成り上がった。



◇◇◇



 お宝――元帥ノルテの首とマキナ聖王国の辺境伯ヴァルプの遺体を持って、マキナの支配下に置かれいるベルーガの王都へ行った。


 噂じゃあ、聖王の野郎が軍隊を率いて北を攻めるらしい。うかうかしてると、ベルーガが滅ぼされるな。そうなりゃ、ジジイの首がただの生ゴミになっちまう。それだけは御免だ。


 お宝ジジイのクビを高く買ってもらうため、貴族様に面会を求めた。

 王都に来てから、貴族様にへこへこしてやっているのに、あのクソどもときたら……。


 本音を言うと、聖王に謁見えっけんしてそっちから褒美をもらいたかったが、聖王国は遠すぎる。いつ来るかわからない聖王を待っていたら腐っちまう。

 妥協して王都を占拠している貴族どものなかで、小綺麗で金を持ってそうな貴族に接触した。金回りの良さそうな将軍でもよかったが、あいつらは面倒臭い。俺がノルテのジジイを殺ったと言っても嘘だと見抜くだろう。


 だから騙せそうな貴族にしたわけだ。無駄に綺麗なの貴族、ご立派なマントは染み一つない。敵の王都だってのに兜も被らず呑気なもんだ。こういう身なりに五月蠅い奴は、馬鹿な貴族だと相場は決まっている。

 よし、こいつにしよう!


「なんと! 刺壊のノルテを倒したのか!」


「はっ、討ち取られたヴァルプ将軍の遺体も丁重に……」


「お主の名はなんというのだ」


「ガーキと申します。ベルーガでをしていましたが、聖王国の正義に魅せられ馳せ参じました」


「ほう」


 馬鹿貴族は目を細めて髭を摘まんだ。優秀で勇敢ゆうかんな俺のことを値踏みしているのだろう。まあ、馬鹿貴族ごときに俺の能力は推し量れないだろうが……。


 しばらく考え込むと、貴族の阿呆はこう言った。

「聖王国の正義と……となるとお主は星方教会の信徒か?」


 やっぱりコイツは馬鹿だ。金を巻き上げるだけのクソみたいな教会の信徒だって? あんなむしられるだけのクズどもと一緒にするなッ! 反吐へどが出るぜッ!

 ぶっ殺したい気持ちを抑えて、考える。


 よく見ると、コイツは教会から信徒に下される首飾りをぶら下げていた。それも滅多に見かけない金の首飾りだ。馬鹿高い喜捨きしゃと引き換えにもらえる阿呆のしるし。間違いねぇ、教会の犬だ。だったらアレが効きそうだ。


 道中で殺した奴に司祭がいたな。シケた司祭だったが高そうな銀の首飾りをしてやがった。奪って……どこへやったっけ? ポケットをごそごそやると、銀の首飾りが出てきた。


 信徒が馬鹿みたいに口にする例の言葉を言ってやった。


「主神スキーマ様のお導きで、俺は真に仕える国を知りました」

 馬鹿にもわかるように、阿呆の印を掲げてやる。


「なるほど、敬虔けいけんな信徒に与えられる銀の首飾りか。ということは、ノルテなる異教徒の首をスキーマ様にささげると」


 チッ、俺としたことがしくじった。この手の馬鹿どもは、なんでもかんでも教会に献上けんじょうするようしつけられているのを忘れてたぜッ!


 このままだと、せっかくのお宝を教会に奪われちまう。考えろ、考えるんだッ!


 名案が閃く。


「ちがいます。夢のなかにスキーマ様があらわれて、ある貴族に献上しろと言われました」


「その貴族とはッ!」


をお持ちの貴族様です」


「ぬう、立派な髭……それはワシのことだな。それで、夢に出てこられたスキーマ様はなんと仰っていた」


「その貴族様から領地と兵をもらい受け、ベルーガと戦えと」


「それで異教徒ノルテの首とヴァルプ辺境伯の遺体を手に入れたのだな」


「はい、夢に出てきたスキーマ様の言葉通りに」


「そうであろう、そうであろう。スキーマ様のお導きがなければ、元帥の首と辺境伯の遺体は手に入らなかったであろうからな」


 いちいち気に障る野郎だな。これは俺の実力で手に入れたんだよッ!


「あいわかった。カウェンクス聖下にはそのようにお伝えしよう」


 翌日、俺は聖王国の伯爵になった。領地は王都より東、ガンダラクシャの手前までだ。一番うま味のある交易都市を寄越さないところに悪意が見えたが、まあいい。ベルーガにいた頃よりも領地は広くなった。


 どうでもいいことだが、兵士三〇〇〇をもらった。小綺麗な鎧を着た世間知らずの聖騎士。無駄飯食らいの無能どもだ。


 食い物も頂けると思っていたが、当ては外れた。阿呆の証をぶら下げた貴族様は、そっちは自前でまかなえとほざきやがった。


 まったく、教会の犬どもは祈りで腹が満たされると本気で思っていやがるのか? 本当に頭にくるぜ。


 言いたいことは山ほどあったが、これで略奪の免罪符を手に入れることができた。

 心置きなく領地から金と食い物を奪える。その金で今度は何を買おうか?

 寛大な俺様は教会に小銅貨一枚を寄付して、王都を出立した。



◇◇◇



 聖王が親征軍とやらを興して王都にやってきたのは、俺が出立した翌月のことだった。


 あのとき聖王国へ向かっていたら、もっと高く首と死体が売れたかもしれない。そのことを考えるだけで、むしゃくしゃした。どこでもいい、俺の領地にいる信徒どもをぶっ殺して憂さ晴らしをしよう。


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