第93話 ツイてない女、漁る●
くよくよしても始まらない。私は出兵に備えて武器を調達することにした。
この惑星の武器ではない。この惑星に降下する際に乗ってきた小型艦に積んである武器だ。
旗艦ブラッドノアの生命維持装置が完全にダウンしたので、一時的な待避を余儀なくされた私は提督専用の脱出艦でこの惑星に降り立った。
その降下地点がここカヴァロの城内で、兵士の宿舎を建てる予定地だった。
まあ、ここに降下した時点でこの国――ベルーガの法律で
閉じられた宇宙のことを知っていたら、帝国法なんか無視して個人兵装にものを言わせて突破するという選択肢もあったんだけどね。残念なことに私は政務方だ。血なまぐさいことは遠慮したい。
それに閉じられた宇宙の存在に気づいたのは、この惑星に来てからかなり後のことだ。
過ぎたことはどうでもいい。
警備をしている騎士を下がらせて、着陸したままの小型艦に近づく。
そんな意地を通してくれたおかげで、私としては大助かりなのだが。まさか無駄と思っていた個人兵装に助けられるとは……複雑な心境である。
ちなみに小型艦の兵器はつかえない。提督か、軍属士官の承認がないと攻撃できないようにロックされている。
私は名誉准将という肩書きを持っているけど、いまは軍属じゃない。政務方に転身したことが
そんなわけで、現状、私が扱えるのは個人兵装と、あとはブラッドノアから持ち出した私個人の兵器だけなのだ。
事前に艦にこもって、この惑星の言語を習得したのが幸いして無駄な争いは避けられた。言語習得に集中していたので、小型艦に格納されている個人兵装についてはまだ把握していない。
それを今回たしかめるわけだ。
パスコードを入力して、ハッチを開く。
なかに入って、ハッチを閉じる。
宇宙的な無機質な匂いがした。
私がまっ先に向かったのは携帯食料が貯蔵されている収納庫だ。
「この惑星に来てから、ろくなスイーツを食べてないのよねぇ」
そうなのだ。この惑星の食事は不味い。スイーツも原始的で、砂糖をそのまま食べている感が半端ない。なんと言えばいいのだろうか、そう、文明の味がしない。
そんなわけで、私は連合宇宙軍の兵士に不評なチョコ味の携行食糧を探している。あの喉にへばりつくような甘さが恋しい。ボディに突き刺さるような甘さ。主張しすぎる甘さこそ、私の求める味だ。
出兵のことなんて、そっちのけで探す。
本来、携行食糧は公平を期すため味がわからないようになっている。だけど私は知っている。納入業者だけが知っている隠しコードのことを。
個別包装された携行食糧を片っ端からスキャンする。
「M2、チョコ味を探して」
――ビーフ味ではないのですか?――
「いいからはやく探しなさい。探したらマーカーを打ち込んで」
兵士に不評なチョコ味は実に携行食糧の大半を占めていた。もちろん、根こそぎいただいた。荷物運搬用のキャリーにぶち込む。
ついでに医療キットもいくつか失敬した。
今度は武器庫を漁る。
暴動鎮圧用のレーザーガンはすでに持っているので、それ以外のゴツい武器が欲しい。
ガンガン漁る。閉じられた宇宙なので、帝国法も連邦法も無視だ。
セキュリティの都合上、個人兵装しか扱えないのはネックだけど、この惑星なら英雄になれるくらいの威力はある。
マルチバレット式ライフル、実弾式アサルトライフル、レーザー式狙撃銃、ハンドグレネード、ヒートソード、高周波コンバットナイフ……etcetc。ビームサーベルもあったけど、アレはエネルギー効率が悪いので候補から外した。それら個人兵装に加えて、防衛用の自立型セントリーガンを四台、防衛用の小型ドローンを八台、それに偵察用ドローン三台をありがたくいただいた。携行式のゴツい兵器は、艦のシステムと連動していないので使用できるはずだ。
小型艦に搭載されている武器のおよそ四分の一をいただいたことになる。ちょっと多い気もしたけど、初戦でしくじるわけにもいかない。ここは手堅く攻めていこう、
おっと、セントリーガンは消耗が激しいから、予備の弾倉とバレルも用意しなきゃ。あと武器とドローンのエネルギーパックも。
ああ、はやく侵略者――マキナ聖王国の兵士たちにぶっ放したい。
ここのところ貴族や大臣との腹の探り合いで、私のストレスは天井知らずだ。最近、貴族や大臣の頭を吹っ飛ばしたくなることがしばしばある。ここらで一度リフレッシュしないといけない。
この間なんて、ついうっかりレーザーガンが暴発した。
たまたま、王宮の廊下を歩いていたら、たまたま、気に食わない伯爵がぶつかってきて、たまたま「無礼者!」と剣を抜いて詰め寄られた。なので、自衛のためにレーザーガンを構えたのだが、運の悪いことに暴発した。
そもそも暴動鎮圧用のレーザーガンの仕様が悪い。トリガーは軽すぎだし、高出力モードが実装されているし、私にぶっ放せと言っているようなものだ。
まあ、運悪くレーザーガンの餌食になった伯爵は死ななかったので問題にはならなかったけど。
機会をつくって偶然を装うことなくぶっ放したい。
気がつくと、実弾式アサルトライフルに頬ずりしていた。ストレスが溜まっているのか、はたまた……。いけない
精神面の不備を再認識させられる。
「こういうときは、タバコを吸うに限るわね」
私はタバコが大好きだ。肺で煙を味わう紙巻きタバコが好きだ。酸素税がなければ一日中、吸っていたいくらい。あの白いモヤで肺を満たすと、クラッとくる。その瞬間が好きだ。手足の指先がヒンヤリとする感覚も好きだ。
いままではナノマシンで欲求を抑えていたけど、もう我慢できない。
将官のお歴々は葉巻派が多いが、私は断然、紙巻きだ。あれこそ人類が発明した最高の
武器庫を離れて、座席の並ぶ部屋に入る。
ウィラー提督は葉巻派だったが、紙巻きもいけるクチだった。喫煙室でご一緒したとき、隠しタバコのことを漏らしたのを覚えている。
「たしか、座席の下に隠しているとか言っていたわね。暇なときに隠れて吸う用だとか……」
提督専用の座席のシートを
将官用に配給される紙巻きタバコがあった。それも未開封の箱で。
「ごめんなさい、ウィラー提督。私の精神衛生上のために協力してくださいね」
ブラッドノアで眠るウィラー提督に一言断ってから、タバコを回収する。
いろいろと考えさせられることはあったけど、とりあえず出兵の準備はととのった。
さて出撃と参りますか。
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