第73話 謀略の渦②●
こうなっては仕方ない。俺も戦うか。
隠していた高周波コンバットナイフを引き抜くと、俺は逆手にナイフを構えた。連邦式ナイフ術の構えだ。
アシェさんはベルトから投擲用のナイフを、クラシッドはブーツから短く薄いサーベルを抜く。
さすがは護衛、抜け目がない。
そこかしこで剣と盾が打ち鳴らされている。
さて、軍人のお仕事を始めようか。
闘志に火がついたところで、マリンが俺たちの前に
「ラスティ様は後ろに、王族の間違いは王族が正しますッ!」
張り切ってはいるが、マリンは丸腰だ。魔法で戦うのかと思っていたら、彼女は光の剣を生みだした。ビームサーベルか?
どうやって光の剣を生みだしたのか、彼女の背後なのでわからない。
フェムトにこの現象の録画を命じるよりも先に、
【マリンが手にしているのは高エネルギーの塊です。この惑星の考え方だと魔力剣といったところですね。非常に良いサンプルです】
魔法の応用技術か、興味があるな。
【録画はしているか】
――高画質モードで録画しています――
【続けてくれ。あと身体強化だ。硬質化と筋力強化を頼む。ティーレにも硬質化を】
――ラスティのリソースが足りません。用途を絞ってください――
【おいおい、この程度ならリソース不足にはならないだろう?】
――マリンの目はまだ完璧ではありません。戦闘にサポートが必要です。――
こんなときに限ってリソース不足か……。仕方ない、魔法剣についてはあとでマリンに協力してもらおう。
【録画は取り消しだ。それでも足りないのなら俺の筋力強化をキャンセルしてくれ】
――筋力強化は三〇%までなら可能です――
【強化比率とか変えられるのかよ】
――士官学校の授業で習ったはずです――
【…………】
そういえば授業を受けたような……。惑星調査課に流されてから、長いこと実戦なんてしてなかったしなぁ。そんなことはどうでもいい。いまは戦闘中だ。
【さっさと片づける。命令変更だ。俺には脚力と腕力の強化、それと魔法を。ティーレは全力でサポートしろ。いいな】
――安心してください。ティーレにコピーした同胞は非常に優秀です――
【信じているぜ、なんせ第七世代は最高傑作だからな】
――当然です!――
相棒の機嫌をとったところで、久々の実戦だ。
「クラシッド、アシェさん、二人の護衛を。俺はマリンを手助けします」
「わかった、若とティレシミール様は守る」
「私もいますので安心してください」
頼もしい騎士たちにティーレとルチャの守りを任せて、玉座へと走るマリンを追った。途中、彼女の背後をとろうとする卑怯者を蹴り倒し、マリンに並ぶ。
「助太刀する」
「ラスティ様、何も危険を冒さずともよろしいのに」
「君は俺の患者だ。最後まで見届ける」
「……ご助力感謝します」
玉座のすぐ下まで来ると、マリンは勢いを殺すことなく壇上の男に飛びかかった。
「ガリウス叔父、覚悟ッ!」
エネルギーの塊――魔力剣を振り下ろす。
「馬鹿な
ガリウスと呼ばれた銀眼異眼の魔族は、呪文を唱えることなく魔法障壁を展開した。
マリンの攻撃を弾くと同時に、ガリウスは横へ飛ぶ。着地と同時に、マリンの刃が着地地点を正確に
ガリウスは間一髪のところでそれを
無詠唱って俺だけじゃなかったんだ。
――ラスティ、無詠唱という単語が存在する時点で、それを行使できる者がいると予測しなかったのですか――
【
――そういうことにしておきましょう。それよりもガリウスという男、様子が変です――
【どう変なんだ】
――突然、
【わかった。情報をありがとう】
――もう一つ報告があります――
【なんだ】
――腰に吊してあるスキャナーですが、プルガートのスキャンは終わっているのですから使用していないときは電源を切ってください。エコではありません――
【…………それは戦闘になることを見越してわざと電源を切らなかったんだ】
――そういうことにしておいてあげましょう――
口うるさい相棒だ。だが有益な情報はあった。敵は、マリンが相手から漏れる魔力で探知しているのを知っている。
マリンの目が視えるようになったのを知らないんだな。それにしても
まったくもって王族らしからぬ、小狡い戦い方だ。しかし、これは好機でもある。マリンの目は治っている。いまの彼女に弱点はない。
相手の弱点を狙う卑怯者だ。こっちも罠をしかけてやろう。まずはマーカーを打ち込んで……。
ガリウスを
振り返りつつあるマリンの肩に手を置いて、わざと動き邪魔した。
「何をッ!?」
驚く彼女に目配せしてから、
『演技だよ。俺にあわせて』
わざとらしく周囲をキョロキョロした。
マーカーで位置がバレバレなのだが、ガリウスを見失ったフリをする。
そして、やっと見つけた
「マリン、後ろだッ! さっきまでは壇上にいたのに、いつの間に後ろに回り込んだんだ!」
セリフの短い下手な演技だったが、ガリウスは引っかかってくれたようだ。騙されているとも知らず、自慢げに胸を反らしている。
「フンッ、人間ごときに我が動きは捉えられまい。人間、マリンに泣きついても無駄だぞ。いかに強大な力を持つ純血の魔族であろうと、マリンはまだ小娘。戦いの経験は無いに等しい。そんな小娘に、俺が負けるとでも思っていたのか」
どうでもいいことなので聞き流し、マリンに耳打ちする。
『あの男はマリンの目のことを知っているのか?』
『知っています。おそらく目が視えていることはまだ知らないはずです』
『だろうな。このまま目が視えないフリをしてくれ。油断して近づいてきたところを叩く』
『わかりました』
内緒話も終わったので、俺はガリウスを騙す演技を続けた。
「魔法をつかったな」
「魔法? ハンッ、そのような力をつかわずとも貴様たちくらい容易く血祭りにあげられる。魔王の血統を
血統に
「愚かな姪よ。目の視えぬお前が俺に勝てると本気で思っているのか? 同じ王族のよしみだ、床に
「…………」
「どうした優しい叔父からの
「
「人を
またしてもガリウスは魔力を遮断した。そして
目の視えない少女をこうも汚い手口で
気がつくとガリウスの顔面を殴っていた。遅れて、ガリウスが到達していたであろう場所に魔力剣が振り落とされる。
意図せずガリウスの命を助ける結果になってしまったのだが、この男、かなり空気が読めない。
「人間ごときが、俺に血を流させただとッ! 貴様、一体何をした!」
「可愛い姪御さんに悪い虫がつきそうだったんで追い払っただけさ」
言ったあと、舌を出して肩をすくめた。
「おのれっ、おのれぇーーー。人間ごときにしてやられるとは、貴様ただではすまさんぞ」
大人げなく床を踏みならし、どこから取りだしたのか、ガリウスは幼児の頭ほどはある
――ラスティ危険です。あの珠からとてつもないエネルギーを検出しました――
【なんだって!】
――おそらくあの珠は……――
「あれは宝物殿にあった魔宝石ッ! ガリウス叔父、何をするつもりだッ!」
甲高い声が玉座の間に響きわたった。動揺を隠せないマリン、それに続くように戦いを繰り広げていた魔族の兵たちが動きをとめる。
ガリウスは手にした珠を
「ガリウス様、何をなさるつもりですか」
「知れたこと、人間ごときにしてやられたとあっては一生の恥。その恥を無かったことにする」
「もしや! 魔宝石を暴走させるのですか! そんなことをすれば玉座の間にいる者たちが……」
「その通り、魔宝石を暴走させて、すべてを消し去る。覇者は汚点を残してはならぬッ! それも兄より優れた覇者ならばなおさらのこと!」
要約すると、失敗を隠すために玉座の間にいる全員を殺す気らしい。まったくとんでもない理屈だ。付き合わされる側としてはたまったものではない。だから全力で
ティーレたちも同意見らしく、各々行動に移る。
――ラスティ、緊急事態なのでティーレに〈
【許可する】
コスパの悪い魔法だが、俺とティーレが力をあわせれば魔宝石から放出されるエネルギーを幾分か緩和できるだろう。問題は俺の魔力が持つか……。
魔宝石の明滅する間隔がどんどん短くなっていく。まるで時限爆弾のランプみたいだ。最後は
高速で明滅する魔宝石を上に放り上げると、ガリウスの姿が消えた。
クソッ、謀反に失敗しての自爆じゃないのかよッ!
―――ダウンロード完了しました。ティーレも〈
「ティーレ、〈魔力消失〉をつかってくれ」
「はいッ!」
【フェムト、直列式だ。死なない程度にループ数を上げろ】
――死なない程度ですね、わかりました――
「「〈魔力消失〉!」」
「ラスティ様、私も手伝います。〈魔力消失〉」
マリンの協力を合図に、魔法のつかえる魔族たちも続く。
「「「〈魔力消失〉」」」
落下している魔宝石を魔力消失で包み込む。
魔宝石が床に落ちた瞬間、玉座の間が光に包まれた。
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