第64話 厄介な魔法①●
対策会議の内容は、魔族の魔法が中心になった。
俺は知らなかったが、襲ってきた魔族たちは全員なんらかの魔法をつかったという。
なかでも防御魔法は脅威で、物理、魔法の攻撃を
なので専門家の意見を聞くことにした。
「防御魔法?」
質問を投げかけると、ローランは指を引っかけて回していたとんがり帽を床に落とした。慌てて拾い上げ、埃を払う。
「ローランは王立魔術学院ってところを卒業したんだろう。魔族のつかった魔法について、何か知っているかなって思って聞いたんだけど」
「知ってはいるけど、ざっくりと聞かれても困るわ。せめて系統と、物理特化型か魔法特化型か教えてくれないと」
物理と魔法の区別はわかるが、しらべるのに系統まで必要だと知って驚いた。魔法って、もっと大雑把なものだと思っていたのに……。
交戦したときのことを思い返す。並列式の〈火球〉を弾いたから、魔法特化型の防御魔法だよな。
「魔法を弾く防御魔法だよ。たしか……〈
口に出してから気づく。このインチキ眼鏡、錬金術はお手の物だが、攻撃魔法は専門ではない。ちゃんと学院とやらで勉強していたことを願う。
「〈
ローランはしばらく視線を宙に泳がせた。どうやら過去の記憶から情報を引っ張り出そうとしているようだ。
静かに待つ。
しばらくして、インチキ眼鏡娘は下がっていた口角をあげた。
「甘い物があったら思い出せそうなんだけどなぁ」
この娘のこういうところが嫌いだ。なんというか人の足下を見る癖がある。非常に質の悪い癖だ。だからといって、ガンダラクシャの魔術師ギルドへ行っている時間の余裕もない。相手がいつ襲ってくるかわからない現状、ここはローランを頼るのがベターだろう。
自分用に持ってきたスイーツを振る舞う。
手の汚れないキャラメルだ。
個包装されたちいさなキャラメルにローランは唇を歪めたが、頬張るなりご機嫌になった。ちょろい娘だ。
「系統までは覚えてないけど、わかるか?」
人が真面目に聞いているのに、ローランはもごもごと口を動かしている。
「魔法防御にどれくらいの強度があるのか、どこまで耐えられるか、それとすべての攻撃を弾けるのか、あとは持続時間だな。知りたいのはそれくらいだ」
もごもごさせていた口を横一文字に引き結ぶと、
「教えるからキャラメル全部ちょうだい。まだ持ってるんでしょう」
「…………」
「等価交換よ、等価交換。〈魔法障壁〉の情報に対する」
「わかったよ。持ってけ」
大切にとっていたキャラメルを入れてある革袋ごと渡した。
インチキ眼鏡は革袋のなかのキャラメルを数えてから、やっと情報を吐き出した。
「〈魔法障壁〉はね、無系統の魔法なの」
「無系統?」
「そう、無系統。だからあらゆる系統の魔法を弾くんだけど、欠点があるの」
「欠点って、なんだ」
「系統が定められていない分、弱いのよ。仮に〈火球〉の魔法を〈
「それで、その魔法はどこまで耐えられるんだ」
「魔力の強さにもよるけど一回ね。二回目以降は弱くなって簡単に貫けるわ。その分、持続時間は長いけど」
「長いってどのくらい?」
「
「なるほど、助かったよ。貴重な情報ありがとう」
会話を終えようとしたら、ローランは大切そうに肩にかけていた鞄から分厚い本をとりだした。
「詳しくことはこっちに書いてあるわ。〈魔法障壁〉の魔導書。一冊、大金貨一枚だけど……買う?」
本当に汚い娘だ。人の弱みにつけ込んで、高額な魔導書を売りつけようとは。きっと相場よりも高いんだろうな。だけど、必要だし……。
とりあえず値切ることにした。ぼったくり価格は避けられないが、すこしでもローランの儲けを減らしてやりたい。どうせ値段を競り合って、小金貨七~八枚くらいに落ち着くのだろうが、それでもいい! ローランに全勝ちはさせない。
「小金貨五枚だ」
「いいわよ。それで売る」
「えっ」
「それでも利益は出るし、あんまり値段交渉を長引かせてもあれでしょう」
眼鏡越しの目が左右に揺れる。厚かましいインチキ眼鏡でも仲間の目は気になるらしい。
会議を再開すべく、魔導書の支払いをする。
まんまと俺から小金貨五枚をせしめたローランは、ほくほく顔だ。
「支払いが終わったから聞くけど。この魔導書、仕入れ値はいくらなんだ」
「大銀貨四枚」
驚きの仕入れ値一割以下。ローランは額に汗することなく小金貨四枚と大銀貨六枚の儲けを手に入れたわけだ。チクショウ、やられた。
「あんまり可哀想だからおまけをあげるわ。こっちは小金貨一枚の
インチキ眼鏡にしては珍しく、やたら装丁が綺麗な魔導書をくれた。
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