第63話 魔族●
順調に進むと思われたトンネル事業だが、思わぬ落とし穴があった。
魔山には
伝承を鵜呑みにしていた俺たちは、人が住んでいるという可能性を見落としていたのだ。
その悲報を知らせてくれたのは、騎馬隊を預かるマクベインだった。
「閣下、魔山の
「わかった。ただちに向かう!」
愛馬デルビッシュに
開発村に到着すると、そこには魔族と呼ばれる人たちがいた。
戦いに不慣れな作業員たちは防戦を強いられている。
「おのれぇ、魔族どもめぇ」
マクベインが馬上で槍を振りまわし、魔族と呼んだ者たちに襲いかかろうとする。
「殺すな、生け捕りにしろ」
「はっ。聞いたか、生け捕りだッ!」
俺も戦いに加わるが、相手が魔物でないだけに
「話し合いをしたい、武器を捨てろ」
言葉が通じないのか、魔族とやらは俺の声に反応したものの、またすぐに作業員たちを襲い始めた。
仕方がないので、魔法をつかうことにした。
【フェムト、射撃アプリを立ち上げろ。死者を出さないように手足だけを狙う】
――了解しました。射撃アプリ立ち上げます――
魔族の手足にマーカーを打ち込む、威力を落とした並列式の〈
これで片が付くと思っていたら、魔族の一人、白装束の女が俺の攻撃にあわせて魔法をつかった。
「魔法を弾け〈
詠唱は即座に終わり、それと同時にガラスのように透明な壁が出現した。
魔法が無効化されたのだ。
【フェムト、あれはなんだ!】
――なんらかのシールドだと思われます――
魔法はエネルギー攻撃だけでなく、エネルギー防御もできるのか。大きな誤算だ。
俺は魔法を防ぐ
シールドの無い戦艦と、シールドの有る戦艦が撃ち合うようなものだ。相手のシールドを無力化する前に、こっちがボロボロになってしまう。
マズい、非常にマズイ。そのことに気づかれたら……。
そんなことを考えているうちに、魔族は次の行動に移った。
蜘蛛の子を散らすように距離をとり、そのまま退却した。
あまりにも見事な退却だったので、元軍人のマクベインたちはもとより、俺までもが呆気にとられて立ち尽くしてしまった。
てっきり交戦するかと思っていたのに、拍子抜けだ。
もしそうだとすれば、次は本腰を入れてくるだろう。より多くの数で攻めてくるはずだ。
駆けつけたマクベインたちをいったん戻らせて、冒険者たちを呼んでもらった。
しばらくして、冒険者たちとなぜか工房のみんながやってきた。
「掘削機が壊されちゃあたまんねぇからな、援軍に来てやったぜ」
「ついでに魔法剣も持ってきてやった。じゃんじゃん堀りな」
飲んだくれの鍛冶士兄弟は、重戦士らしく全身鎧を着込んる。肩に担いだ
「今回は僕も参加します」
フェルールは皮鎧と軽装だ。後方支援要員らしく投擲用のナイフや弓矢で武装している。そういえば大呪界で案内をしていると言っていたな。戦いの心得はあるようだ。
「来てあげたわよ」
ピンク髪のインチキ眼鏡娘は相変わらずのとんがり帽子にローブとマント。いつもと大して変わらない。唯一ちがうのは杖だ。新調したらしくピカピカの杖を大切そうに抱きかかえている。
ティーレの護衛を担当しているはずのアシェさんもいた。その後ろには女性騎士に護られたティーレもいる。
気になったのでアシェさんに尋ねると、
「殿下がどうしても仰るので、お連れしました」
面倒な仕事を増やしてくれましたね、と言わんばかりに眉間に皺を三本も刻んでいる。
「ご苦労をおかけします」
「ラスティが謝ることはありません。それよりも魔族に襲撃されたと聞きましたが、その魔族はどこに?」
「逃げられました」
「その程度でしたら問題はなさそうですね」
俺のことを過剰評価しているだけに、アシェさんは気楽そうだった。本当は強敵かもしれないのに呑気なものだ。
挨拶もすんだことだし、代表者を呼んで対策会議となった。
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