第61話 新事業●
大呪界の開拓事業に着手して約三ヵ月、この惑星に来て半年以上が過ぎている。
ときどき母艦ブラッドノアに信号を送っているが、
いまとなっては調査なんてどうでもいいけど。
連合宇宙軍の士官として、
中央の領主の館を中心に東西南北に石畳の道を整備している。その幅は馬車四台が並んでも余裕のある造りとなっている。これはガンダラクシャの城門を基準に造ったからだ。街の区画割は北東に富裕層の居住区画、北西に商業・工業区画、南東に農耕地、南西に一般の居住区画となっている。
人口は少なく家屋もまばらだが、これからどんどん発展していくだろう。
現在、建築中の外壁ができれば、農耕地をそちらへ移して、空いた場所は富裕層の居住区にする予定だ。
いまある街は〝内地〟、開発途中の外周を〝外地〟と呼んでいる。外地が完成したらさらに街を拡張しようと考えている。
拡張事業はすでにツェリから了承をとっている。見返りにツェリから共同事業を申し込まれた。俺の街とガンダラクシャの間に広大な農耕地帯を造る計画だ。
内地のインフラ整備も終わったことだし、あとは人任せでも問題ないだろう。
俺はいままで温めていた腹案を実行に移すことにした。
責任者一同をあつめて会議を開く。情報共有のために開いている定例会議だ。そこで俺の腹案を発表しよう。
みんなが賛成してくれるかわからないが、とりあえず議題にあげて、問題点を指摘されたらそのつど修正しよう。なんせ一人で考えたことだし、不備もあるだろう。
失敗を恐れてはいけない。とりあえず一歩踏み出す、悩むのはそれからだ。当たって砕けろの精神で会議に挑む。
いつものように各自の報告が始まる。進行役は傷痍軍人のオズマだ。両足を負傷しているので、車椅子を利用している。この車椅子も俺が開発した品で、車輪にはサスペンション、座面にはクッションと長時間使用を見据えた快適性。オズマはいたくこれを気に入って、予備に二台も注文している。
「…………第三期領地拡張作業、外地の進捗状況ですが、完成度は三割ほどです。作業範囲が広いため難航しています。居住者向けの家屋建築は順調なので、来月はそちらの人員を領地拡張に割り振りたいと思います。外地のインフラ整備ですが、人口もそれほど増えていないので後まわしにしても良いかと思います。優先するとすれば水路ですね。排水、給水から着手するべきかと思われます。報告は以上です」
元が軍属の文官だけあって、オズマの報告は的確だ。問題点をあげるだけでなく、対処法も明確に提示されている。仕事のできる男だ。
「わかった。オズマの提案を採用しよう。ただしインフラ整備の人員には休息を。その後、作業員全員に交代で休暇を与えよう」
「閣下、領地拡張作業の短縮できるチャンスを見送るのですか?」
「
「かしこまりました。では休暇を優先させましょう」
「その方向で頼む」
この通り、俺は報告を聞いて
このあと、警備を任せているマクベインとヒックスから魔物の撃退数の報告を受け、冒険者代表のスパイク、商業ギルドのアマンドと報告が続く。
それらの報告に指示を出し終えると、俺は温めていた腹案をみんなに打ち明けた。
北の
どのようにトンネルを掘り進めるか、作業方法と工事の必要性、それにトンネルを開通させたあとのことを説明する。
最初は半信半疑だったみんなだが、根気よく説明を続けているうちに賛同者がちらほら出始めた。その代表格がティーレだ。
「あなた様、素晴らしい事業です」
彼女は俺の計画を絶賛し、そして大いに喜んだ。
なんでも北に
交易面でも、国の現状を打破するにも、非常に有用な事業である。ただし、成功すればの話だが……。
みんなの顔色を伺う。賛成派は三割といったところだ。全員反対の可能性もあったので、及第点といったところか。あとは地道に説得していこう。
とりあえずは保留か……。
「手掘りではなく、専用の機械を用いてトンネルを掘り進めるのですか。面白そうですね。やりましょう!」
反対派だと思っていたアマンドが声をあげた。それに続いてみんなも賛同の意思を言葉にする。
「北と連携が取れれば、奪われた国土を取り返せる」
「通行税だけでも莫大な利益をあげられますね」
「上手くいけば、この街も交易都市になるな」
反対どころか、みんな賛成だった。嬉しい誤算だ。
しかし、一つだけ問題がある。トンネルを掘るために必要な掘削機だ。トンネル用の大型掘削機は完成している。動力は魔道具式の原動機を採用している。出力は高く、掘削作業にも十分つかえる特別製だ。問題は掘削機の刃だ。
魔法剣の性質を利用した超硬度の刃を使用したいのだが、その刃を造れる職人を呼ばなければならない。
「アドン、ソドム。魔法剣のような刃を打てる鍛冶士に心当たりはないか?」
「「んぁッ」」
話を振られると思っていなかったのだろう。兄弟揃って変な声を出した。
「なんでぇ、
「そんな奴はいらねぇぜ」
なんだ知らないのか。優秀な鍛冶士だから魔法剣を打てる鍛冶士を知っていると思っていたのだが……。アテが外れたな。
アドンが言葉を投げかかけてくる。
「魔法剣なら俺らでも打てるぜ」
「本当か!」
「あったりめぇよ。俺ら兄弟に鍛えられねぇ金属は無ぇ!」
「ただの飲んだくれじゃなかったんだ」
うっかり思っていたことが口に出てしまった。しかし兄弟は怒らず、
「おうよ。俺たちは飲んだくれだからな、褒美の酒、期待してるぜ。なあ兄者」
「そうだなソドム」
上手い返しだ。いいだろう。問題を解決してくれるのならば安い出費だ。いくらでもくれてやる。
「わかった、好きな酒を用意しておく。
「俺たち兄弟に一樽づつだぞ」
どうやら兄弟にとって大切なことらしい。交渉を切り出すアドンの横で、ソドムが俺のことをじっと見つめている。吠える直前のチワワみたいな顔でだ。
「何樽でも買ってやるよ。それに休暇もやる。どうせ朝から晩まで飲み明かすんだろう。いい機会だ。たまには息抜きしろ」
「わかってるじゃねーか」
「おうし、兄者。さっそく魔法剣を打とうぜ!」
「おうよ! 勝利の美酒は目の前だ!」
翌日、アドンとソドム五本の魔法剣を持ってきてくれた。嬉々とした表情で魔法剣を突きつけてくる兄弟の目の下には色濃い
約束通り酒と休暇を与える。
鍛冶士兄弟はハイテンションで踊りながら、蒸留酒の入った樽を抱きかかえて自宅へ帰っていった。
「あれ、絶対に子供に見せちゃ駄目なやつだ」
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