第56話 大呪界の生態●



 大呪界の伐採作業は凄まじい速さで進んだ。


 障害となる樹木をバンバン切り倒し、あっという間に道ができる。

 途中、何度か走竜ダッシュドラゴンという地球の原始生物――Tレックスに似た肉食獣が襲ってきた。そういえば、地球の原始生物は恐竜とあったな。ってことは、古代の娯楽――アニメに出てくる伝説上の生物ドラゴンなのか?


 スパイクやウーガン、ルチャたち冒険者の活躍によって、特に大きな損害も出すこともなく撃退した。戦ったことのある地獄蜘蛛ヘルスパイダー豚人オークが襲ってきたが、あいつらはそれほど強くはないらしい。

 ほかにも巨大なワームの形をした大口獣グリードビースト虐殺熊ジェノサイドベア単眼巨人サイクロプスなども襲ってきたが、走竜に比べると動きが遅いので数にものを言わせて蹴散らした。


「しかし驚いたなぁ。走竜だぜ」


「すばしっこいだけの大きなトカゲだろう」


「ラスティは簡単に言うけどよ、走竜は頭がいいんだ。魔法こそつかわないものの、巧みに隙を突いてくる。おまけに魔物の分際でフェイントなんかも織り交ぜてくるからな、群れで襲われるとヤバいんだよ。Cランクの冒険者でも死人が出るくらいだぜ」


「そうなんだ。近づく前に魔法で仕留めてたから、そんなに強いなんて知らなかったよ」


「普通は近づいて来ても気づかないんだけどな……まあラスティだからな」


「…………だな」

 スパイクだけならまだしも、寡黙なウーガンまで、俺のことを持ち上げる。


「普通だと思うんだけどなぁ。俺ってそんなに変か?」


「自覚が無いみたいなんで言っておいてやるけどよ。ラスティは強すぎなんだよ。なんつーか、アレだ。大魔導師クラスの強さだぜ」


 大魔導師か。そのクラスがどれくらい強いのか知らないけど、凄いのは間違いないな。なんせ頭に〝大〟ってつくんだ。きっとティーレの言っていた賢者と同じくらいなんだろう。


 でも、ルチャやクラシッドも難なく走竜を倒していたな。ぼんやりと光の灯った剣で……。あの現象も魔法なのかな? そういえばノルテさんからもらった剣も光ったことがあったな。


【フェムト、ルチャたちの剣を解析してくれ。あの光が灯る現象を突きとめたい】


――了解しました。地獄極楽蜘蛛との交戦記録が残っているので、そちらで解析作業を進めます――


【しばらくはルチャたちと一緒に行動するから急がなくてもいいぞ。それと可能な限り、冒険者たちの交戦記録を保存しておいてくれ。魔法のレパートリーを増やしたい。俺の知らない魔法をつかう人がいるかもしれないからな】


――それ以外にピックアップする記録はありませんか?――


【強いて言うなら剣術かな。強い人がいたらアクションを録画しておいてくれ。以上だ】


 順調に魔物を駆逐し、森を切り開いていく。


 十日ほどしたある日のこと、その日も走竜が襲ってきた。

 魔法で撃退しようとしたら、こちらの動きを察知したようで魔法を放つ前に距離をとられた。こいつら学習してる。スパイクが強敵だと言うはずだ。


 あまり見せびらかしたくはないが、レーザーガンをつかうか。


 出力を最大にして、射撃用アプリを立ち上げる。

 光学式スキャナーを可視光線不可にして森を走査させる。途端に、森のなかに十を超えるマーカーが出現した。


 威力は減少するが完全自動の追尾モードでレーザーガンを撃つ。森のなかからドサドサと走竜の倒れる音が続いた。


 スパイクたちは何が起こっているのかわからないらしく、武器を構えたまま俺と森を交互に見ている。


 マーカーが消滅したので森に入る。


「おい、ラスティ。深入りするな危険だぞ!」


「大丈夫だ。それより走竜の死骸を回収するぞ」


 ほかの冒険者が足踏みしているなか、スパイクとウーガンだけが俺についてきた。


 地面に転がっている走竜を念のため蹴る。二度蹴る。ちゃんと死んでいるようだ。


「…………みんな死んでる」


「さっきの赤い光か……ラスティ。さっきのは魔導器アーティファクトなのか?」


 魔導器。そういえばティーレも言ってたな。魔導器とか魔導遺産レガシーとか、翻訳はできるけど意味までは知らないからなぁ。まあティーレとスパイクが言うのなら魔導器で通しておこう。


「そうだよ」


「そんなすげぇ。そんな魔導器、一体どこで手に入れたんだ」


「俺に戦い方を教えてくれた人にもらったんだ」


 嘘は言っていない。初めてレーザーガンに触れたのは士官学校だ。そこで鬼教官にバッキバキに鍛え上げられた。トラウマ級の嫌な過去だ。


 このレーザーガンも、解体して組み立てるところから授業は始まった。バラバラになったレーザーガンを六〇秒で組み立てるという無茶振り。制限時間以内に組み立てられなかった者には、六Gからなる加重力室での特別トレーニングが待っている。俺はそこで三回も特別トレーニングを受けさせられた。あの地獄は思い出すだけでも吐きそうになる。


「ってことはお師匠さんにもらったってことか?」


 んー、師匠か。あの鬼教官はそんな生ぬるい存在じゃないと思うけどな。絶対何人か殺す気で訓練してただろう……。


 記憶から消し去りたい過去のフラッシュバックに身震いした。

 

 遅れて、雇った冒険者が来た。


「すえぇ! 走竜の死体の山だ」


「マジかよ! すげぇ!」


 冒険者たちは抜かりなく見張りを立てると、走竜の解体を始めた。


「それギルドに持っていったら高く売れるのか?」


「皮や牙が高く売れる。肉も旨いらしいぜ。冒険者ギルドはいい値はつけてくれないけどよ、商業ギルドへ持っていくと結構な値段で買い取ってくれる。滅多に食えないお高い肉だけあって美味いぞ。晩飯が楽しみだ」


 意外なことを知った。肉は冷凍保存しておこう。


「悪いけど、宿営地まで全部運んでくれるか?」


「おいおい、いくら大所帯っていってもこんなには食えないぜ。腐っちまう」


「凍らせて保存しておく。当分、飯は走竜の肉ばっかりになるけどな」


 俺の言葉を聞くと、走竜の味を知っている何人かの冒険者は大声をあげて喜んだ。


 あまりにも大げさなので理由を聞くと、貴族の入るような高級店にしか出回らないらしい。地球でいうマツザカに近い扱いなのだろう。なるほど喜ぶわけだ。


 その日、夕食に出てきた走竜料理に期待に胸を膨らませて食べてみたが、フィッシュみたいな味だったのでがっかりした。まあ、ガンダラクシャの近くに海はないので、これはこれで高級品なのだろう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る