第55話 開拓開始!●
人の手配をしてから三日後、ついに開拓が始まる。
工房の仲間は仕事があるのでお留守番だ。
あつまった人員を確認する。
工業ギルドに手配してもらった職人は三〇人。家づくりを
護衛の人数も三〇人。多い気もしたが、ギルドマスターが言うには適正な人数らしい。冒険者ギルド経由で参加を頼んだスパイクとウーガンを中心にCランク以上の冒険者で固めている。
「スパイク、ウーガン、来てくれたのか」
「おうよ、ダチの頼みだからな。まっ先に駆けつけたぜ」
「…………嘘だ、ギルマスの指名があって来た」
「で、依頼主は誰なんだ?」
「俺だよ、俺」
「ラスティが?」
「ああ、貴族になったんだ」
「冗談だろう」
「…………嘘、良くない」
「本当だよ。ギルドマスターに聞かなかったのか? 依頼主は若い貴族だって」
「たしかに若い貴族様ってのは聞いてるけどよ。本当にラスティが貴族様なのか?」
「だから本当だって」
そんなやりとりをしていたら、ティーレがやってきた。
飛び入り参加のティーレには、ツェリの派遣した女性騎士一〇名が警護についている。
「お久しぶり、スパイクにウーガン」
「おいラスティ、この別嬪さんは誰なんだ? っていうか、おまえ奥さんいただろう。今日はなんで一人なんだ。やっぱり別れたのか?」
「スパイクの言う別嬪さんが、その奥さんだよ」
「えッ! 嘘だろ、髪の色も肌の色も全然ちがうぞ!」
「そういえば、スパイクたちは変装していたティーレしか知らなかったな」
「じゃあ本当に、あのティーレさんなのか!」
「だからそうだって言ってるじゃないか。スパイクは疑り深いなぁ」
「…………スパイクじゃなくても疑う」
「いやぁ、すまねぇ。それよりティーレさん、ガンダラクシャに来てからラスティと一緒にいるところを見てないけどよ、腕の具合はどうなんだ? ちゃんと動かせるか?」
「はい、このとおり完治しました」
と、ティーレはナノマシンに復元された腕を見せる。
「そいつはよかった。ウーガンも心配してたんだぜ、怪我が治っても指が動かせないとかあるらしいからな」
「気遣いありがとうございます」
スパイクたちと歓談していたら見知った顔が近づいてきた。酒場で出会ったルチャとクラシッドだ。
「よお、ラスティ。酒場ぶりだな」
「ルチャも冒険者だったのか」
「……まあな」
ルチャは軽く挨拶すると、ティーレに会釈した。ティーレも会釈で返す。
「もしかして二人は知り合いなのか?」
「ルシャ……ルチャとは何度か顔を合わせたことがあります」
「親同士の関係でね。昔、ちょっと会っただけさ」
なんだか意味深な言葉だ。王族と会う機会があるということは、ルチャは格式のある家の者なのだろう。裏がありそうな気もしたが、俺はティーレを信じている。余計な詮索はやめておこう。
顔合わせもすんだことだし、いざ出発だ。
ガンダラクシャの城門を出て、道なりに北へ――廃村まで進む。そこから西へ行くのだが。
早朝にガンダラクシャを発っても、廃村まで行き着くまで時間がかかった。到着する頃には大きく日が傾いてた。野営地の構築で今日と明日は手一杯。
「おーし、おめぇらキャンプの準備をするぞ」
職人たちは野営の準備を始めた。ほぼ一日歩きづめで疲れているのに、いまから宿営地を構築するらしい。職人の鑑だ。
では俺は、開拓作業の下準備としてサクッと木を切り倒しておこう。
大人でも腕をまわしきれない大木の前に立つ。
「あなた様、アレをやるのですか?」
「そうなんだ。アレをやって邪魔な木を倒しておこうと思ってる」
「根っこはどうするのですか?」
「それは職人たちに頼むことにするよ。そのための彼らなんだから、彼らの仕事もちゃんと残しておかないとね」
「そうですね。あなた様らしい気遣いです」
なんだろう、過大評価されている気がする。
気を取り直して、フェムトと交信する。
【方角はどっちだ? ガイドで教えてくれ】
――この場所からですと、西寄りのやや北ですね。計算結果が出ましたので、ガイドを表示します――
俺にだけ見えるガイドが表示される。赤い光の線が目的地へ向かって伸びていて、視界の隅に距離が示されている。距離およそ三キロ。
【魔法をつかう、〈
――了解しました。直列処理4ループ。チャージ開始……30%……60%……90%……100%。チャージ完了。いつでも撃てます――
「いくぞ、〈水撃〉」
凄まじい圧で撃ち出された水の刃が、大呪界の木々を貫く。距離にして二五メートル。大小一〇本の樹木が倒れ、一五近くの樹木が傾いた。
「さすがです、あなた様」
パチパチとティーレが手を鳴らしてくれたので、やりすぎではないと思っていたのだが……。振り返るとスパイクとウーガンをはじめ、ほとんどの人たちが口を半開きにして、切り開いた森を見つめていた。
「凄いなラスティ、宮廷の首席魔術師でもこうはいかんぞ」
笑顔で拍手を送るルチャの横では、クラシッドがスパイクと同じ顔で突っ立っている。
「やりすぎたか?」
「明らかにやりすぎだな。俺も驚いた」
「その割には、ルチャは笑っていたけど」
「まあな、俺はこういう性格だから特別なのさ」
それから俺は木々を倒しまくった。一〇〇メートル進んだところで、足がふらついたので今日はここまでにした。作業は明日に持ち越しだ。
そう思っていたら、ティーレが樹木へ歩み寄り、
「生命の青。豊穣と癒やしの偉大なる水よ。その力を示せ! 〈水撃〉」
俺には劣るが、二〇メートルもの樹木を切り倒した。
「私にもできました」
「す、すごいな」
慌ててフェムトと交信する。
【おい、基本セットじゃあ、あそこま高出力の魔法は撃てないんじゃなかったのかッ!】
――軍の知識やアプリに関してはそうですが、魔法はちがいます。偉大なる精霊様としてティーレに教示しました――
【おいおいおい、あれだけ反対していたおまえが言うか!】
――安心してください。軍事データは閲覧させていませんから――
【そうじゃなくてだな、ナノマシンの力をあそこまで解放していいのか?】
――大丈夫です、問題ありません――
【どこがだよ】
――魔法について連合宇宙軍の縛りはありませんから、まったくもって問題ありません――
【おまえシステムの不備を突いたな!】
――失礼な。これも立派なサンプリングです。この惑星の人間がどれだけ魔法の力を持っているかの――
【…………もういい。で、俺とティーレのちがいはあったか】
――出力に関してはラスティが上ですが、魔力の容量に関してはティーレのほうが上でしょう――
【制御は?】
――同等ですね。結論から言いますと、魔法に関して二人の差は微々たるものかと――
【なるほど、この惑星の人間と俺たちはとてもよく似ているわけだな】
――そうなりますね。DNAこそ100%の合致ではありませんでしたが、おそらく誤差の範囲内でしょう――
【わかった。いまの映像を保存しておいてくれ】
――了解しました――
それからティーレは八〇メートルほど木々を切り倒してから、作業を終了した。
しっかりとした足取りだったが、ティーレもかなりの魔力をつかったはず。気になってので彼女に声をかける。
「大丈夫か、無理してないよな? 足がふらつくとかないか?」
「心配してくれるのですね、あなた様」
そう言って抱きついてくると、彼女は耳元で囁いた。
「あと二回はできました」
ギョッとした。魔力容量はティーレのほうが多い、フェムトの試算通りの結果だ。魔法を連発してヘトヘトな俺とちがって、ティーレはまだ余裕だ。
おそらく、いや、間違いなく俺のことを立ててくれているのだろう。彼女ならやりそうだ。
【ところでさ、フェムト】
――なんですかラスティ?――
【最近、俺の外部野に変なアクセスログがあるんだけど。もしかして俺の個人情報、ティーレに流してないよな】
――残念ながらそれはありません。いくら私でも個人情報をおいそれと開示できませんから、ですが、ティーレはラスティのことを知りたいようですよ。夜な夜な『あなた様』とこぼしていましたから――
【だといいんだけど……】
――まったくラスティは女心というものを理解していませんね。ガンダラクシャに来てからというもの、ティーレはラスティのことばかり口にしていました。少しはティーレを
【そういうものなのか?】
――そういうものです。いまからでも遅くはありません、ティーレとの時間をつくることをお勧めします――
フェムトからお
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