第51話 目標達成①●
登城の日の朝。
いつものように工房の職人たちと朝食をすませ、城へ向かう準備をしていたら、ロイさんが訪ねてきた。
「ヒューゴから聞きましたよ。ラスティさん、ついに大金貨一〇〇枚をあつめたんですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます。ロイさんの協力あっての結果です。本当にありがとうございます」
感謝の意思を強調して二度言った。ちゃんとお礼を言っておかないと、あとで商業ギルド
「いえ、感謝するのはこちらのほうです。ラスティさんにはいつも良い契約を結ばせて頂いてますから」
「それで、今日はなんのご用ですか?」
「とぼけないでください。私もツェツィーリア様の出した結婚適性試験の立会人です。ラスティさんとご一緒に城へ行く義務がありますから」
そういうルールなんだ。いまさらながらに、この惑星について無知だと知る。
「それでは立ち会いお願いします」
「ええ、不肖ながら立会人を務めさせていただきますよ。そちらの二人は?」
ロイさんの指摘で気づく。俺の後ろに騎士姿のアシェさんと、とんがり帽子を被ったローランがいた。
「私はツェリ閣下の部下ですので、護衛も兼ねて同行します」
「アタシは工房の職人代表」
アシェさんはわかるが、ピンク髪のインチキ眼鏡はちがうと思った。
まあいい。貴族社会の作法とか知らないので、ローランに地雷を踏ませればいい。それで俺の失敗は目立たないはず。
そんな打算もあって、ローランの同行を許可した。
それからしばらくして、馬車に乗ったアマンドさんがやってきた。
商業ギルドの所有する豪華な馬車に乗って城へ向かう。
城までの間、アマンドさんは売り上げの手数料について話してくれた。
「すでにソロバンの利益があがってきています。ラスティさんへの配当は三割なので、貯まっている配当は小金貨一枚と大銀貨二枚です」
「多くないですか!」
「いえ、むしろ少ないくらいです」
「だって、この国は国土の半分以上を聖王国に奪われているんでしょう。どうやったらそんなに利益を出せるんですか?」
疑問を打ち明けると、アマンドとロイさんは笑った。
「これは失敬。ギルマスが言っていた通りですね。ラスティさんは世情に疎いようだ」
「不勉強ですみません」
「謝らなくてもいいんですよ」
「よろしければその辺の事情を詳しく教えてくれませんか」
「いいですよ。ではまず大原則から……。ギルドは中立の勢力です。ですから、どこの国にもギルドはあるし、どこの国でも利用できます。同時にどこの国にも属していません。まあ、取り引きの都合上、王族や貴族とお付き合いはありますがね」
「知らなかった……」
「冒険者ギルドが最たる例でしょう。冒険者は国家間の戦場に出ないし、出られない。いわゆる暗黙の了解というやつですね。絶対というわけではありません。一応の抜け道はあります。故郷を守るという名目で戦場に出る冒険者もいますが、それに見合ったペナルティがあるそうです。最近はどの国もきな臭いというし、今後はどうなるんでしょうかね?」
アマンドが渋い顔をする。
「それって、どういう意味ですか?」
「マキナ聖王国ですよ。宣戦布告もなしに攻めてきたでしょう。それも同盟国だったここ、ベルーガに。ギルドも損害を被っているんですよ。今後の出方によっては聖王国と敵対する可能性も出てきます。それ以外のきな臭い国といえばザーナ都市国家連合でしょう。ベルーガの窮地を知って、侵攻を企んでいるとか……。それに星方教会も怪しいですね。マキナの大聖堂にいるロウェナ枢機卿が、先の戦いに関与していたとか。もちろん教会は否定していますが」
この惑星に来て、まだ日の浅い俺にはさっぱりの話だ。ティーレがベルーガ王国のお姫さまで、マキナ聖王国がベルーガを攻めてきた悪い奴だ。それはわかるけど、ザーナとか知らない国のことを言われてもなぁ。
考え込んでいたら、アマンドが膝を打った。
「私としたことが、話から逸れてしまった。すみません、話を戻します。先ほどお話ししたように、どの国もきな臭い状況なので、引き金となったマキナ聖王国に対してギルドもなんらかの手を打つということです」
「それって戦争が長引くってことですか? ギルドの介入で戦争が激化するとか?」
「まさか、そこまで
「聖王国に嫌がらせをするにしても、ギルドに得はないでしょう。なぜそうなるんですか?」
「得ならありますよ。聖王国に恨みを持つ者から依頼を受ければいい、それだけのことですよ」
う~ん、政治絡みの話みたいだぞ。俺、そういうの苦手なんだけどなぁ。
「アマンドさん、話はそこら辺にしておきましょう。ラスティさん、もうすぐ城に入りますよ」
ロイさんが言うので車窓から頭を出すと、ガンダラクシャ城の城壁がすぐそこまで迫っていた。街を囲っている城壁よりも高い。
「圧巻でしょう。かつての遺跡を増改築した城なんですが、いままで落とされたことがないのです。そのことからガンダラクシャは不落城とも呼ばれています。おかげで商売には持って来いの
「へぇ、そんな歴史があるんだ」
「ええ、ですからこの城を任されるのは代々国王陛下の信任の厚い元帥だと決まっているのですよ。ツェリツィーリア公爵のような王族の血を引いた御方がね」
これは前情報だな。ツェリは王族の忠臣、だからティーレとの
「それも初耳です。いろいろと教えて頂いてありがとうございます」
城に到着して、馬車から降りる。そこからはアシェさんの案内で、すんなりと目的の部屋にたどり着いた。
扉を前にして、アシェさんが再確認する。
「ラスティ、準備はよろしいですか」
「大丈夫です」
「ちょっと待って」
ローランが、着衣の乱れがないか確認して、ついでに髪もととのえる。
「OK、もういいわよ」
「では入りますよ」
アシェさんが扉をノックすると、一拍の間を置いて、
「入れ」
女性にしては良く通る声が返ってきた。元帥らしい凜々しい声だ。
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