第50話 特許の売り込み②●
「ところでラスティさん、その四角い物は?」
「ダイスですか?」
双六用のダイスを摘まみ上げる。
「ええ、それです。双六も面白いですが、ダイスもよいですね。ギャンブルにつかえそうです」
「ああ、そういう楽しみ方ですか」
ついでなのでダイスの実演販売もする。
二個と三個のバージョンだ。士官学校時代に
「面白い商品ですね。特許契約を結びましょう。ところでラスティさん、一つ頼み事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「かまいませんよ」
「安い方の特許の支払いを先延ばしにしていただけませんか」
「ええ、ロイさんにはお世話になっていますし」
「ありがとうございます。では先に契約を……」
リバーシは大金貨一〇枚と売り上げ配当が二割。サイコロは大金貨三枚と売り上げ配当が一割。
大金貨三枚分の収入を先延ばしにするのは痛いが、俺にはある腹案があった。紙の特許だ。商業ギルドで個人特許について聞いたときから考えていた。
間違いなく紙は売れる。絶対の自信があるので、紙の特許だけは押さえておきたい。
目指す金額まで残り大金貨二〇枚。
ゴールまであと一歩。残された時間は半分を切っている。早急に稼がねば。
勿体ない気もするが、蒸留釜を手放すことにした。
商業ギルドへ話を持ちかけると、大金貨八〇枚という過去最高の特許料を叩きだした。それも売り上げ配当は四割と驚きのプライスだ。
てっきりヒューゴ付きの職員に文句を言われると思ったが、
「製造方法も教えてくれるとは……この機会を逃す手はありません。ただちに特許契約を結びましょう!」
「特許契約を結びたいが、アマンドよ。先立つものがないぜ。ここは一旦、特許契約を先延ばしにしないか」
「証書を振り出しましょう。それだけの価値はあります」
「その手があったな! よしそれでいこう」
証書ってなんだ? 振り出すって魔法なのか?
疑問に思っていると、ヒューゴ付きの職員――アマンドが「しばらくお待ちください」とヒューゴとともに応接室を出て行った。
しばらくして戻ってくると、馬鹿でかい箱をテーブルに置いた。
もしかしてだけど、証書ってギルド証みたいに金属なのか?
ヒューゴが慎重に箱を開ける。なかから取り出したのは子供の頭はあろう大きなハンコだった。
「いいぞ、アマンド、準備しろ」
「はいッ!」
アマンドがハンコよりも一回り大きい羊皮紙をテーブルに置いて、慎重に四隅に重しを載せる。
「準備できました」
一体何が起こるんだ?!
羊皮紙にハンコを押す。
そこへアマンドがペンを走らせ、その仕上がりをヒューゴが時間をかけて確認する。
「よし、間違いはないな。ラスティ、商業ギルド発行の正式な証書だ。魔法のインクをつかっているから、偽造の心配もない。これを持っていけば、どこの商業ギルドでも換金してくれる」
「そ、そうなんですか」
「なんだ初めて見るのか?」
「ええ、まあ、ここまで高額な取引は初めてなもので」
「ソロバンを売りつけたくせによく言うぜ。ま、知らないのも仕方ないがな。証書を振り出せるのはAランク以上って規約があるんでな。普通の商人にゃお目にかかれない代物よ。それにこの証書は滅多に発行されねぇ。実際に証書を目にできるのはAランクでもごく一握りの商人だけだ」
「あの、俺Bランクですよ」
「ラスティ、おめぇはもうAランクだぜ。この前にソロバンの取り引きしただろう。あれでギルドへの貢献度が上がってな、そんでAランクになったのさ。おい、アマンド、ギルドランクを書き換えてやれ。それと何人か幹部職員を連れてこい。これの最終契約には三人以上の見届け人が必要だ」
「はい、ただちに……ラスティさんギルド証をお願いします」
「あっ、はい」
ギルド証を手にアマンドが応接室を出て行くと、見届け人を連れて戻ってくるまでの間、ヒューゴは蒸留酒を三杯も飲んだ。
「いい酒だ。喉のヒリつく感覚がたまらねぇ、身体が燃えるようだぜ」
「ギルマス。酒はその辺にしておいてください。まだ契約が残っています」
ちなみに見届け人の人たちにも蒸留酒を振る舞った。なんでもあつめられた職員は全員酒好きらしく、満場一致で特許契約は受理された。
「革命ですね」
「たまらん。濃い味付けの肉料理がほしい」
「酔える酒だ。身体の芯から熱くなるのがわかる」
評価は上々。特許契約はつつがなく進行した。証書の内容を確認してサインを交わし終了。
この特許契約でトータル大金貨一六〇枚分稼いだことになる。これでティーレとの仲を認めてもらえるぞ!
証書の名前が俺になっているのが気になったので、金銭の受け取りについてヒューゴたちに聞いた。
「そういった事情でツェリ元帥に大金貨一〇〇枚を支払わないといけないんです」
「惚れた女のためか、いいじゃないか。俺はそういう奴が好きだぜ。アマンド、ラスティについて行ってやれ。ツェツィーリア様に証書のことをちゃんと説明してこい」
「はい」
話はトントン拍子に進んだ。その日は、いままで貯めてきた大金貨を持っていなかったので、城へ行くのは明日になった。
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