第47話 パーティー結成②●



 城門を一歩出ると、そこは危険地帯だ。

 大呪界――闇深い森へ入り、奥へと進む。



 メンバーは俺、アシェさん、ローラン、スパイク、ウーガン、そして愛馬デルビッシュ。

 デルビッシュだが、今回は新装備を購入した。四輪タイプの荷車だ。

 ローランは安い二輪タイプを推してきたが、それだとデルビッシュに負担がかかるので、値段は高いが四輪タイプにした。悪党と魔物には容赦ようしゃない俺だが、動物には優しいのだ。


 液体生物の死骸しがいを回収するためのおけも購入してある。抜かりはない。



 奥へ進むにつれて、辺りが暗くなってきた。

 高い木々が生い茂り、頭上を覆い尽くす緑の天蓋。緑の隙間から差し込む陽光がなんとも幻想的だ。


 これといった新発見もなく、大呪界の観察も飽きたところで、お目当ての液体生物が飛び出してきた。


「なんだスライムかよ」


 スライムっていうんだ。あの液体生物。


 スパイクが愚痴りながら、取り出したスリングで石を投げる。アシェさんも同様に石を投げる。

 飛び道具を用意していなかった俺はアレンジした魔法〈氷針アイスニードル〉で攻撃した。

氷針アイスニードル〉はティーレと別れてから創作したオリジナル魔法だ。〈氷槍アイシクルランス〉の威力を落としたバージョンで、一発あたりの魔力の消費が少ない分、散弾のように数を増やして撃てる。威力は低いが、スライム程度なら余裕だろう。

 氷の針が命中すると、スライムは例の如く、悲鳴なのか音なのかを発してはじけた。

湧水スプリングウォーター〉で酸の体液を洗い流して死骸を回収する。


「驚いた。ラスティって無詠唱で魔法つかえるの」


「ん、まあね」


「暇なときでいいから、教えて。ね、いいでしょう」


 好感度をあげようと思っているのか、ローランは腕に抱きついてくる。


 ……貧相な胸だった。


 彼女なりにサービスしているつもりなのだろう。まな板よりちょっとマシ程度の胸をぐいぐいこすりつけてくる。


 助けを求めて、アシェさんに視線を送る。アシェさんは一瞬、眉間の皺ゲージをマックスにしたが、すぐに皺は消えた。

 やれやれといった様子で、ローランを引き剥がすと、

「もう少し自覚を持って頂きたい」


「自覚?」


「ラスティは女性から言い寄られるタイプです。将来を誓った相手がおられるのなら、しっかりと自覚を持って誘惑を払いのけて頂きたい」


「すみません。ですけど俺モテないですよ」


「はぁ、どこから話せばよいのでしょう。これだから自覚のない人は扱いにくい」

 どこかで聞いたセリフだ。


「本当にすみません」


「謝る必要はありません。ただ……」


「ただ」


「ティーレ様を泣かせるようなことをしでかしたら、タダではすみませんよ。わかりますよね」

 アシェさんは最後の部分だけ、恐ろしいほどに慈愛のこもった笑顔で言った。いつも気難しい顔をしているだけに凄まじい圧を感じる。あえて王女殿下と付けないところも怖い。


「肝に銘じておきます」


「わかればよろしい。さっ、先を急ぎましょう」


 スライムの死骸入手という目的は達成された。あとはゴブリンとやらを倒して、紙の材料である木を伐採して持ち帰るくらいだ。


 早く帰りたい気持ちを抑え、森を進む。

 魔物との遭遇はなく、パーティーメンバーとお喋りしながら進んだ。

 離れた場所で、鼻で土を掘り返しているオークを発見した。


「お宝発見! みんなオークを狩るわよ」

 言うなり、ローランが魔法の詠唱を始める。


猛々たけだけしき原初の赤、その力を示せ。邪悪なる者を焼き尽くせ〈火弾の雨バレットレイン〉」


 威力を落とした〈火球〉の散弾バージョンをオークたちに降らせる。


 その光景に、珍しくフェムトから交信してきた。

――なるほど、対象の頭上に魔法を発現させてエネルギーのロスを抑えているのですね。実に効率的です。ただ命中率が落ちますね――


 フェムトの指摘通り、ローランの放った魔法の大半は地面をくに終わっている。

 ダメージ換算で効率を考えるならば、俺のほうが上だ。

 しかし、あのインチキ眼鏡娘がこんな高度な魔法をつかえるとは…………この惑星の人間ってわからない。


 それから仲間たちと力を合わせてオークを倒した。

 みんな息があがっているなか、ローランだけが目を爛々らんらんと輝かせている。


「ちょっとコレ借りるわよ」


 荷車のスコップを引ったくると、オークたちが鼻を突っ込んでいた場所を掘る。

 一体何が彼女を突き動かしているのだろう。


 ローランは取り憑かれたように土を掘り続け、そして突然動きをとめた。

「あったわよ大地の宝石」

 掘り当てたお宝を掲げる。あれってもしかして……。


「貴族に高く売れるわ」


 そう言って見せてくれたのは拳ほどもあるトリュフだった。

 とすると、オークたちはトリュフの匂いがわかるのか? もしかするとオークって豚の変異種だったりして……。


 気になったのでオークの死骸をスキャンした。


――オークが豚である可能性はゼロではありません。DNAが豚のそれに酷似しています。同様に人類との共通点もいくつかありました――


【ってことはベースは人間なのか?】


――その可能性は低いと思われます。進化の過程で人類のDNAをとりこんだ線が濃厚です――


【なんだ。そうだったのか、安心した】


 ガンダラクシャでは、オーク肉は普通に売られている。ジリの街でも見た。美味いという言葉は一度も聞いたことはないが、一応、食えるのだろう。

 食糧として割とポピュラーらしいだが、生きたオークの姿を見てしまっては食べる気が湧かない。なんといえばいいんだろう、人間みたいな二足歩行は駄目なんだよ……。


 この惑星の食糧事情を詳しくしらべる必要性が出てきた。むろん、俺はオーク肉は食わない。絶対にだ!


 決意を固める俺の前で、スパイクとウーガンは嬉々ききとしてオークをさばいている。


「取り放題だな。俺はタンを持っていく、ウーガンは?」


「バラ肉。脂、美味い。ニンニキあるともっと美味い」


 旅で振る舞った料理の影響がここに出るとは…………。


 オークを無視してトリュフを探した。


 それらトロルを探して、さらに森の奥へ。

 途中、ゴブリンと遭遇した。緑の肌をした子供みたいな姿の魔物だ。スパイクが言うには一体一体は強くないが、連携をとられると危険らしい。


 何やら言葉を交わしていたので言語データベースに似た言語がないかしらべているうちに仲間が倒した。


――合致する言語を検索するにはサンプルが足りません――

 と、残念な結果に終わった。でもまあ、ギルドの依頼は達成できたからいいか。凶悪な魔物だっていうし、言語解析は次の機会でいいか。


 しかし、魔物を倒したあとの作業は嫌いだ。魔物の体内の魔石をとる作業も嫌だが、討伐証明になる部位を切り取るのも嫌だ。さらに嫌なのがゴブリンの討伐証明が耳だということ。

 耳を切り取るたびに、ゴブリンと目が合う。死んでいるのはわかっているが、なまじっか人に似ているので、目が合うたびに見つめられている気がして後味が悪い。これだったらオークのほうがまだいい。あの豚鼻から人間は連想できないからな。

 ゴブリンの言語解析は無しだ。次からは見かけてもスルーすることにしよう。


 昼も近付いてきたことだし、食事の準備だ。開けた場所を探していると、俺たちの前に巨大な生物が立ちはだかった。一つ目の巨人だ。腕は大人の胴体ほどもあり、それに負けないくらい背丈も高い。ゆうに三メートルはあるだろう。森に広がる緑の天蓋すれすれに頭がある。


「いたわ、トロルよ」


 俺は食事に時間をかける男だ。ただでさえローランにペースを乱されて、昼食をつくる時間をけずられている。悪いが早々に死んで頂こう。

 詠唱を開始するローランを尻目に、俺は巨大な〈氷槍〉でトロルの土手っ腹に風穴を開けた。


 トロル討伐の証明部位を採取して、昼食の仕度に移ろうとしたら、アシェさんにとめられた。

「こんなところで料理をするつもりですか? 匂いで魔物があつまってきますよ」


「そうだぜラスティ、大呪界の奥ともなれば魔物は凶暴な奴ばかり。旅で遭遇したのと桁違いだ。悪いことは言わねぇ、諦めな」


 大呪界の奥にいる魔物は凶暴なので、奴らを刺激するような行為を控えるよう注意された。

 不本意ながら調理用に持ってきたパンをかじる。異様に硬いパンから敗北の味がした。


 帰り道、コッコと遭遇して戦闘になる。

 戦いのさなか、コッコが言葉を操る魔物だと判明する。


――宇宙生物のニルーンと同じ言語です――


【でかしたフェムト!】


 魔物と初の対話を試みる。残り三羽になってしまったが、交渉してみよう。


?』

『よくも仲間を!』

『仇を討ってやる』


 巨大な火の球を頭上にちらつかせる。


『もう一度聞く、おまえたちは卵が生めるのか。答えない場合は即座に焼き殺す』

『卑怯な人間めッ!』

『森の平和を乱す悪魔めッ!』

『ぶっ殺してやる』


 面倒なので転がっているコッコの死骸を焼く。脅迫ともいえる行為だったが、ほかの仲間たちのように問答無用で殺されるよりはマシだろう。

 一瞬で消し炭になった同胞を見て、コッコたちはその場で飛び跳ねた。ひっきりなしに羽をばたつかせて動揺している。あと一押しか?


『次はないぞ』

『『『…………』』』


『これが最後の質問だ。卵を生めるのか?』

『『『はい』』』


『なら俺の家に来い。安全と三食昼寝付きの生活を保証する』

『三食昼寝付き……』

『悪い話じゃないな』

『本当に安全なのか?』


『返事は?』

 炎を一回り大きくする。

『『『はい』』』

 こうして俺は卵生産機を手に入れた。


 三羽は名前が無いので、気分的にリッキー、サミュエル、マイケルとどこにでもいそうな名前をつけた。


 アシェさんが言うにはコッコの卵は、普通の鶏のものとちがって味が濃厚らしい。肉質も素晴らしいと聞いたが、魔物とはえ安全を保障すると約束した手前、反故ほごにするわけにもいかない。最後まで面倒をみることを伝えた。


 肉が食べたいのかアシェさんは不服だったが、このあと教えるスイーツに卵が不可欠だと教えたら、とろけるような笑みで了承してくれた。


 食べ物で容易に釣れるアシェさんの将来が不安だ。しかし、騎士という職業の人はみんな彼女みたいにチョロいのだろうか? 非常に気になる。


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