第3話
眩し過ぎる太陽、足元のアスファルトからの熱気。暑さを倍増させるような蝉の鬱陶しい鳴き声。夏を実感するこれらが苦手だ。
近くの公園は、子どもたちの声で賑わっていた。
「子どもは気楽でいいよなぁ。夏休みだってあるし。」
愚痴めいたことをこぼすと、
「ミーンミンミンミン…」
今まで暑苦しいだけだと思っていた蝉の声が急に耳に留まった。今まで蝉のことなんて気にしたこともないし、大して生態も知らないのになぜだろう。
僕は無意識に声のする方向へと足を進めていた。
何かを叫んでいるような、訴えているような。
何を言っているのか理解はできないけれど、生きられる喜びを唄うような、短い寿命を嘆くような、そんな声。
足を止め、視線を向けると目線のちょっと上。そこには大きな木の幹にしがみついて誰よりも必死に生きようとしている君がいた。
小さい体ながらに一生懸命に生きている姿。僕の目は君の姿にフォーカスする。背景がぼんやりして、君だけが鮮明に見える。動きの一つ一つ、鳴き声の一つ一つを逃したくない程に,どうしても君を追ってしまう。君が人間だったなら声をかけていただろう。それくらい、君に目を奪われていた。
君が見つめるのは「今」そのものに感じた。明日のことなんてどうでもいいような。それくらいに、ただただ「今」だけを生きていた。
僕は人生のゴールだの、目標だの、生きる意味だのくだらないことを考えて何となく生きていたけれど、君はただ「今」だけを見ていて、活力に溢れていた。そんな純粋な瞳が、僕には眩しかった。と同時に、君が羨ましかった。
君を見ていると、自分は一体何を考えていたんだろうと自分がバカバカしく感じてくる。もっと君の生きる姿を見ていたい。
でもそれは不可能である。きっとこれは最初で最後の出会いだ。だから僕は静かに君に別れを告げた。
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