第46話 記者会見

 記者会見が始まった。探索者協会会長が簡単に挨拶をしたのち、そのまま今回の事態とその対応について説明をする。


 初動の対応としてまずは状況把握から自衛隊への出動依頼、全探索者に対する周辺の一般人への救援対応と併せてドラゴンへの手出し禁止の通達、緊急対策本部の設置と政府との連絡窓口の確立など、これらの作業をおよそ二十分以内で完了させた事を報告する。


 そして周辺への避難指示を行いひとまず一般人の安全が確保される見通しがたったところで柚子缶と光の螺旋から討伐の進言があったと説明した。


 この時点で記者たちは既に聞きたい事が山ほどあったわけだが「質問は一通りの説明が終わってから」という決まりになっているため、手元のメモに質問内容を手早く記していく。


 探索者たち柚子缶と光の螺旋の進言を受け入れる事にしたあとは現場との連携と、また彼女達が負けた際のバックアップ体制の構築を急ピッチで進めて日付が変わる頃、ドラゴンが出現しておよそ十時間後には準備が整った。

 十時間という時間は魔物溢れオーバーフローに対する対応としては平均かそれよりやや時間が掛かっているぐらいの位置付けだが、都心のど真ん中であった事や現れたモンスターがドラゴンであった事を考えると脅威的な速さだったと言える。

 もちろんこれは探索者協会の指揮によってのみ成し得たわけではなく、自衛隊をはじめとした各機関、そして何より協会を信じて素直に避難をしてくれた一般人の協力があってこそであり、改めて全ての人に礼を言いたい。そう言って会長は頭を下げる。


 次にカンナが実際の討伐について報告をする。基本的には午前中に協会で語った内容の繰り返しなので、自分でも驚くほどスムーズに話すことが出来た。


 カンナの説明後に改めて会長が事態の収束を宣言した。


「それではここから質疑応答に入ります。何か質問のある方は挙手をお願いします」


 司会の言葉を受け、待っていましたと言わんばかりにその場にいた全ての記者が勢いよく手を挙げる。


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― 何故自衛隊ではなく、探索者たち柚子缶と光の螺旋に討伐を任せることにしたのか?

 

「それぞれの戦力やモンスターとの戦闘経験の差などを考慮した結果、彼女達に任せた方が討伐の成功確率が高いと判断しました。特に光の螺旋にドラゴンの討伐経験があった事が決め手となっています」


 

― いち探索者に東京の、ひいては国の未来を任せたと言うわけだが、政府の許可は得たのか?

 

「まずいち探索者と言うが、協会に登録している全ての探索者は我々の仲間でありパートナーだと考えています。その上で答えはイエス、我々の判断で彼女達に東京の未来を託しました。ただし先ほども述べたようにバックアップ体制はしっかりと構築していたので丸投げをしたというわけでは無いと言う事をご理解いただきたい。

 政府の許可については、初動で対策本部を立ち上げた段階で本件に関する全ての作戦の決定権は対策本部に委任されています。この記者会見の開催も含め、政府から直接的な指示や命令は一切ありませんでしたし、都度都度許可も得ておりません」

 


― 全世界が注目する事態だった。政府の指示を受けないまでも意見ぐらいは聞くべきではなかったのか?

 

「どんな意見でも聞けばそれは政府の指示として受け取れてしまう恐れがあります。下手に忖度して対策本部の動きが悪くなる事は避けたかったのでこのやり方は間違っていなかったと確信しています」



― 柚子缶と光の螺旋に訊きたいのだが、自衛隊に任せるより自分たちが戦うべきだと判断したとのことだがその理由は?


「ドラゴンはダンジョン内の生物だけあって自衛隊の方々が日々の訓練で想定している相手とは勝手が違うと思いました。私達は普段からダンジョンでモンスターと戦っていて、光の螺旋と一緒であれば合同パーティで討伐可能だと考えました」



― 自衛隊では勝てなかった思うか?


「それは分かりませんが、結果的に犠牲者が出なかった事は良かったと思っています」

 


― ダンジョンの消滅はどう確認したのか?

 

「私達が『気配察知』のスキルでダンジョンの存在する気配を察知できなくなった事で消滅を確認しています」


 

― 現地に言って入り口の消滅を確認したわけでは無いということか?

 

「地下深くだったので具体的な場所や行き方が分からなかったので、『気配察知』でダンジョンの場所を特定してそこにドラゴンの自爆のエネルギーを収束させて収束させて撃ち込んだ結果、ダンジョンの気配が無くなったという流れです」



― ダンジョンの気配を察知出来るというのがそちらの言い分しか無い。根拠に欠けるのでは?


「そうおっしゃられても、申し訳ないですがそうだとしか言えなくて」



― そもそもダンジョンの気配とは?


「ダンジョンの外で『気配察知』をすれば分かると思います」



― 当たり前のように話しているが、そもそもダンジョンの外でスキルが使えるという事で良いのか?


「見て頂いた通りです。ほら、この通り」

 パフォーマンスとしてカンナの隣にいたマフユが手元に氷を作って見せると、会場は騒めく。



― 柚子缶と光の螺旋は全員がダンジョン外でスキルを使えるということか?


「現在在籍しているメンバーに関してはその認識で間違いありません」



― その「ダンジョンの外でスキルを使える」という特性は初めから所持していたのか?


「ダンジョンの外ではスキルは使えないという先入観があったので、初めから使えたかどうかは分かりません。ただ、おそらく後天的なものだと思います」



― 後天的だとする根拠はあるのか?


「ある共通する条件を満たした後にスキルが使えるようになったことを確認したからです」



― その条件とは?


「ダンジョン内のコアルーム内で、ダンジョンコアを口に含むことだと考えています」



― それがダンジョンの外でスキルを使えるようになる方法なのか?

 

「きちんと検証したわけでは無いですが、私たちに共通する条件としてこれの可能性が高いと考えています」



― 全員がコアを飲み込んだという事か?


「飲み込む必要は無くて、私達の場合は口に含む程度で大丈夫でした。あとコアも完全なものではなくて破壊した状態の破片であっても大丈夫です」



― コアを破壊してその破片を口に含む、それが条件で間違いないか?


「必ずしも壊す必要も無くて、口に入るサイズのコアならそのままでも平気です。あと私達の場合はそれをしたら使えるようになったと言うだけであって、それが間違いないかと言われると検証は必要かなと思います」



― これまで秘匿していた方法を今回公にしようとした理由は?


「ドラゴンを倒すためにスキルを使わざるを得なかったので、見た人たちはみんなダンジョンの外でスキルを使う方法があると確信されたと思います。何のヒントもなしに無理をする人が出るよりは、私達が知る情報を開示するべきだと判断しました」



― この情報を公開する事で逆に世間が混乱する可能性もあるが?


「情報公開の是非については協会とも相談した上でした方が良いと判断しました」



― これまで柚子缶と光の螺旋だけが持っていたアドバンテージを手放す事になったが、それについてどう思う?


「別にダンジョンの外でスキルが使える事が他の探索者さんに対するアドバンテージだったとは思ってはいないんですが……仮にそうだったとして、じゃあ今回ドラゴンの討伐を私達がやらなかったらもしかしたら自衛隊の方や、最悪一般人にも犠牲が出たかも知れない。それが無かったということが、結果論にはなるけれどそのアドバンテージを手放した甲斐があったかなって思いますね」



― 自分達の優位性を手放してでも人助けができて良かったと?


「うーん、人助けというよりは出来ることをしたって感じです。直接討伐したのは私達ですが、たくさんの方の協力があっての結果なのであくまでも自分達の役割を果たしたと言うべきでしょうか。それが出来たことは満足していますし、後悔は無いです」


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 その後も質問は続き、当初予定していたより一時間ほど延長した記者会見だが一応無事に終了した。


 今回明かされた情報によりすぐに世界中でコアペロの検証が始まる事になるし、世の中は全ての人間がダンジョン外でもスキルが使えることを前提とした仕組みに変わっていかざるを得ない。


 賽は投げられてしまった。世界はこれまで以上にスキルの重要性が増していく事になる。

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