第41話 【柚子缶】ドラゴン討伐【緊急配信】

「事前の周知がなくてごめんなさい。今日も緊急で配信になります」


― またゲリラ配信?

― 流石に不謹慎じゃない?

― 確かに。東京がヤベェことになってるってのに

― 他の配信者も自重してるのに柚子缶はゲリラ配信か

― いやこれは流石に柚子缶といえど評価落とすだろ

― まさか都心でのこと知らないんじゃない?

― 柚子缶は余程のことがない限りゲリラ配信しないから、知っててやってると思うわ

 

「今日は東京の都心に出現したドラゴン2頭を、光の螺旋のみんなと一緒に討伐します。……といっても柚子缶はバックアップでメインで戦ってくれるのは光の螺旋なんですけどね。私達は彼らの邪魔にならないようにしっかりお手伝いするので応援よろしくお願いします!」


― は? いまなんつった?

― ドラゴン討伐?

― きたああああああ!!!

― ヤバイヤバイヤバイヤバい

― え、なんで柚子缶が倒すことになってるの?

― 自衛隊仕事しろ

― てか無理だろ スキル使えないし

― よく聞こえなかった

― ドラゴン討伐配信とかマジかよ

― また歴史作るのか柚子缶

― スキルは?

魔物溢れオーバーフロー起こしてる場所だとスキル使えるとかあるのか?

― 使えないはず

― 自衛隊から武器借りるのか?

― だったら柚子缶がやる意味ねえだろ

― 何か裏ワザあるのか?

― どこかのダンジョンからカンナが『広域化』するとかは?

― 『広域化』ってダンジョンの外まで広がるのか?

― 知らんけど、それしか考えられないじゃん

― 説明はしてくれないのか

― 討伐自体は光の螺旋がやるっつってるな

― これまじで歴史的な配信になるやつ

― まじで何がなんでも見ておけよ


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「何を考えているんだ!」

「遊びじゃないんだぞ!」


 探索者協会の本部会議室でも怒号が飛び交う。まさか討伐を配信するなんて。今からでも辞めさせるべきだという意見も飛び交うが、会長の決定は好きにさせようだった。報道陣を除外出来ないという回答に対して素直に引き下がった時点で、どうせ放送されるのなら配信しようぐらいの事は考えているだろうと思っていたのでさほど驚きも無い。下手に口を出して調子を崩されても困るし、配信される事によるデメリットも対して大きく無いのであれば勝手にすれば良い。それでドラゴンが討伐されるなら安いものだ。


「状況が分かりやすくてけっこうじゃないか。それにドラゴンの強さも測りやすい。彼らが負けた場合は自衛隊が戦わざるを得ないんだ、きちんと動画を分析するように伝えてくれ」


 巨大モニターに映されているのはウェブ会議から柚子缶の配信に代わっていた。


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「アリス! ハルカ!」


「『風神』!」

「『風縛り』!」


― なんだあれ?

― 『風魔法』でドラゴンを拘束してるのか

― すげぇ、ドラゴンが地面に押さえつけられてる


「『雷神』!」


― こんどは『雷魔法』かよ

― 光の螺旋、遠慮が無いな

― ドラゴンが苦しんでるぞ! がんばれ!


「……やっぱりこれじゃ足りないか!」


「リュウキさん、アリスちゃん! 範囲を絞って威力を上げる事は出来ますか!?」


「出来るけどこれ以上範囲を狭めると攻撃がカバー出来ない部分から動かれて拘束が剥がれちゃうと思う!」


「それは私が広げるから、目一杯絞って威力を限界まで上げて!」


「――そうか、カンナが居るんだったな!」


― おお!

― やべぇ、風と雷の威力が一気に強くなった!

― これマジでこのまま倒せるんじゃね?

― いけー!

― 倒せ! 倒しきれ!


「……っ! やっぱりこれだけじゃ押し切れないか……っ!」


「アリス! 一気に首を持ち上げてくれ! 俺が逆鱗を撃ち抜く!」


「はいっ! いっ……けぇぇええええ!」


― 風の力でドラゴンを持ち上げたのか

― 『風魔法』強すぎる

― てか『雷魔法』もだけど、光の螺旋が規格外すぎる

― それな どんな威力してるんだよコレ

― 俺も雷魔法使いだけど、これみたら静電気魔法って名乗りたくなるぐらい差があるわ

― まって、いま何が起きた!?

― ドラゴンの首に遠距離攻撃入ったのか?

― 後ろに吹っ飛んだな


「やったか!?」


「弾は間違いなく逆鱗に命中した。これで倒せていれば良いが……」


 グギャアアアアアアア!!!!!!!!


「ブレスだ! 避けろっ!」


「間に合わな……」


「『障壁』!!」


― あれでドラゴン生きてるのかよ

― てかユズキが咄嗟に『障壁』張らなかったらいまの反撃ブレスで全滅してたな

― ユズキよく動いた

― 一瞬でそれに『広域化』を合わせるカンナもすげぇわ

― 柚子缶居なかったらやばかったな


「ユズキさん、ありがとう!」


「はい!」


「ヨイチさん、逆鱗に当たったんじゃ無いのか!?」


「命中はしている。だけどこの武器ライフルの威力じゃ撃ち抜けなかったんだ」


「ど、どうして!?」


「ドラゴンは身体が大きい程強くなるから、多分逆鱗弱点の防御力も前に倒した個体より強いんだと思う」


「それじゃあどうすれば……」


「バカ、来るぞ!」


「しまっ……」


― うわああああ

― 1人やられたの? だれ?

― 銃持ってた人 多分ヨイチって人

― どうなったの?

― ドラゴンがブレスを止めると同時に飛びかかってきて爪でアリスを引っ掻こうとした それをヨイチが庇って多分攻撃喰らった

― 血がヤベェ

― 回復は!?


「ヨイチさん! ヨイチさん!」


「アリス! ヨイチさんは私が看るからあなたはドラゴンを拘束して!」


「は、はい!」


「『雷神』! くそ、炎を纏って鎧にしてやがる……さっきより効果が薄い!」


「『風神』!」


「だめだ、拘束出来ない!」


「突っ込んでくるぞ!」


「『氷牢』っ!」


― あばばばばばば

― なんでこれ止められるんだよ

― マフユタンきたぁー!

― マフユ! マフユ!

― ここで前に出て氷で檻を作るとか胆力やべぇって

― 間一髪、ドラゴン止まったな

― やっぱりこのまま押し切るしかねぇだろ

― マフユたんがんばれ! アリスたんもがんばれ! リュウキもついでにがんばれ!

― ヨイチは生きてるのか?

― たぶんハルカが治療してる

― 回復魔法持ちだっけ?

― 光魔法で代用してるんだと思う 回復魔法よりは効果の弱いけど応急処置になるぐらいの魔法がある

― てか一転して大ピンチじゃねーか


「ハルカさん! ヨイチさんは!?」


「生きてはいる! だけどさっきの攻撃で肩が砕けちゃってるみたいで、多分もうライフルは撃てないとおもう……」


「なんだって!」


「どうしよう……このまま『風神』『雷神』で押し切れない!?」


「ダメージはゼロじゃ無いけど、やっぱり逆鱗を攻撃しないと先にこっちの魔力が尽きる!」


「回復薬は!?」


「とっくに飲んでる!」


「マフユさん! 『氷牢』であとどれくらい拘束出来る!?」


「魔力は問題ないし、氷は相性が良いみたいでガッチリ拘束できてる。……だけどこっちの耐久が持たない」


「スキル進化リングにヒビがっ!」


「無理して出力を上げすぎてるせいか、リングの方に限界が来てるみたい」


― あれなに?

― バングル?

― カンナが「スキル進化リング」って言ったけど

― 何それ 知らんな

― 名前の通りならスキルを進化させるんじゃねぇの?

― マフユタンの『氷魔法』の威力が半端ねぇのってあのリングの効果?


「コレが割れたら威力が下がって『氷牢』を突破される。高原、なんとかして」


「また来たよ、フユちゃん先輩の無茶振りが……」


「高原なら何とかしてくれるって信じてるんだよ」


「何それ。それで、リングはあと何分で壊れるの?」


「1分から3分くらいだと思う」


「幅広くない?」


「壊したことが無いからね、正確な時間までは」


「じゃあ最低1分かぁ」


― なぁ、こんな事態なんだけどさ

― あ、わかる

― こんなこと言ったら不謹慎なんだけどな

― いや、視聴者みんな思ってる

― イヨ×マフユっててぇてぇよな

― それな!

― フユちゃん先輩の信頼しきった感じがてぇてぇ!


「イヨ、作戦は?」


「作戦もなにも、逆鱗を撃ち抜く以外に方法はないんだよね」


「その方法は思いついた?」


「綱渡りの一発勝負で良ければ」


「さすが!」


― なんだなんだ、マフユタン以外が一箇所に集まったぞ

― イヨちゃん作戦思いついたのか

― あの子地味に天才だよな

― 地味っつーか普通にイヨちゃんが居なかったら柚子缶はこれまでに3回くらいは全滅してると思う

― ヤバい『氷牢』にヒビが入ってきてる

― マフユタンがつけてるリングがもうボロボロになってるじゃん

― 時間ねぇぞ


「つまり、ドラゴンが拘束を解いた瞬間に私が『風神』でドラゴンの首を打ち上げる」


「そこで晒した逆鱗に俺が『雷神』を全力で撃ち込むって事か?」


「そうです。そのフォローをうちのふたりユズキさんカンナさんがします」


「ダメだ、さっきも言ったが雷神は威力が高いけどどうしても範囲が拡散するせいで、逆鱗みたいな小さな的を撃ち抜けない。首の他の鱗に電撃を吸われちまう」


「だからユズキさんがフォローするんですって。ユズキさんが『一点集中』でリュウキさんの『雷神』を逆鱗に集中させます。そうすると攻撃はぎゅぎゅっと一箇所に収束するわ威力も爆上がりするわであのドラゴンを倒せるだけの一撃を生み出せるって寸法です」


「俺の『雷神』を!? そんなことが可能なのか!?」


「出来る出来ないじゃなくて、やらないと全滅するんです。大丈夫、ユズキさんはこれまでもこういう場面では一発で決めてきてくれました。本番に強いタイプなんです」


「別にやりたくてやってるわけじゃないけど……でもイヨが考えてくれたなら、これが一番勝率が高いんだと思うし、やりましょう」


― 起死回生の一手クルー!

― これしくじったら全滅とかヤバいだろ

― ユズキ! 決めてくれ!

― 応援してるぞー!

― リュウキもしくじるなよ!


「高原! ユズキちゃん! もう限界! あと10秒ぐらいで拘束が破られるよ!」


「オッケー! フユちゃん先輩、カウントよろしく!」


「……5! 4! 3! 2! 1!」


 グギャアアアアアアア!!!!!!!!


「ゼロッ!」


「『風神』っ!」


「『広域化』っ! よし、首が跳ね上がった! 今!」


「『雷神』っ!」


「…………そこっ!」


 ピシィッッッッ




 ……。


 …………。


― どうなった?

― 作戦通りアリスが風で首を上げてリュウキが雷を撃つ構えをするまでは見えたんだけど

― 肝心の電撃が見えなかったな

― やったか?

― あかん、それはやってないフラグや

― でもドラゴンの動きが止まったぞ


「ユズキっ!」


「……逆鱗は撃ち抜いたと思う」


「電撃が見えなかったけど?」


「『雷神』は間違いなく発動した。極限まで高めた一撃を、さらに一瞬で収束させて撃ち出した事で目に見えないほど細い光の線になったんだと思う」


「じゃあドラゴンが動かないのは、つまり」


「ああ……俺たちの勝ちだ!」


― うおおおおおおお!

― やりよったあああああ!

― ドラゴン倒した!

― ユズキ! ユズキ!

― 柚子缶! 柚子缶!

― いやこれは光の螺旋の手柄か? 『雷神』を撃ったのはリュウキなんだよな?

― 関係ねぇだろ! 全員の勝利だ!

― やべええええええ

― 歴史的瞬間に立ちあっちまったあああ


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 モニターで配信を見ていた協会本部も歓声に包まれる。


「やりましたね!」

「信じられん、まさか本当に倒すとは……」

「怪我人は出たが、死者はゼロか。すばらしい」

「そうだ、怪我人の治療を」

「もう向かわせています!」


 そんな歓喜に沸く本部に、一本の連絡がもたらされる。


「大変です! 日本武道館側にいたドラゴンが目を覚ましました!」


「なんだと!?」


「急に頭を持ち上げると、そのまま水道橋……東京ドームに向かってブレスを発射しました!」


「東京ドームにだと!?」


 全員が慌てて配信画面を注視する。そこにはもう一頭のドラゴンが吐き出した炎のブレスによるものか、一面が真っ赤に染まっていた。

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