第38話 二頭の龍
「ユズキ、どうしよう!?」
衝撃のニュースに動転するカンナ。放っておけば今にも飛び出して現場に向かいそうだ。ユズキはそんなカンナの両方に手を置いて目を合わせると、ゆっくりと諭す。
「落ち着いて。
(※第4章 2話)
そういってスマホの通知を見せる。
「ある程度避難が出来たら、あとは探索者協会が自衛隊を派遣する。ダンジョンの外なら銃火器が使えるから彼らが討伐してくれるはず」
「あ……そ、そうだったね」
ユズキの言葉を聞けるだけの余裕がかろうじてあって良かった。ユズキはホッとして頷く。
「ええ。
カンナは最近「光の螺旋」のメンバーと
ユズキが言った
「じゃあ私たちはどうすればいいかな?」
「……このホテルがある有楽町から九段下まで2kmも無いんだけど、直線で結ぶと皇居を挟むのよね。多分皇居は死守するだろうし、やむを得ずその場に釘付けに出来ない事態になった場合は逆方向に誘導するだろうから、ここで待機するのが安全かなと思う。逃げるなら神奈川方面かしらね」
「残念だが都内の電車は止まってしまったみたいだぞ。タクシーも捕まるか怪しいし、何より逃げる車が多ければ渋滞で動けなくなる可能性が高い。だったら歩けば良いかと言われると、ここから真っ直ぐ南下しても神奈川までは徒歩で4時間と出ているね」
ユズキの兄が声をかける。彼もどうするべきかと考え避難経路を検索していたのだ。
「結局のところ下手に動くよりはユズキが言った通りここで待機するのが得策かもしれない……少なくとも我先に避難しようとパニックになってる人の波が収まるまでは様子をみるべきかな」
電気などのインフラにも影響は無く、スマホも普通に通じる。災害というよりは不発弾が発見された時の状況に近いのかななどとカンナは考えた。尤も、不発弾の場合はその場から避難すれば災害が広がる事はないが
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結局様子見を選択した一同はホテルのロビーに移動した。ネットニュースやSNSで得られる情報によれば都心から外へ行く道はいずれも大混雑、駅も電車の運転再開を待つ人々で溢れかえっているらしい。しばらく情報収集していると、ロビーの壁に設置された大型モニターがテレビのニュースを映し出した。
「こちら現場から数百メートル離れた現場です! 都心に突如現れたドラゴンは未だその場から動きません!」
ニュースキャスターがヘリコプターから中継する様子がテレビに映し出される。
ドラゴンは二頭。水道橋に現れたドラゴンは東京ドームの屋根を突き破りその中央に鎮座しており、また九段下に現れた方は日本武道館を炎のブレスで破壊するとその瓦礫の上で満足そうに目を閉じている。
テレビは中継からスタジオに移り、アナウンサーとコメンテーターが会話を繰り広げる。
「壊されたのが東京ドーム、そして日本武道館だけというのは不幸中の幸いでしょうか?」
「そうですね。都心に突如現れたわけで、場合よっては高層ビル群がまとめて破壊されていた可能性もあります。その場合人的被害も計り知れない事になっていたと思いますので、そういう意味では一般人がほとんどいない東京ドームと日本武道館だったというのは幸いでしょう」
「自衛隊は既に現地に向かっているとのことですが、すぐに討伐するのでしょうか?」
「まずは周辺の安全確保になります。現場から半径およそ1km以内の一般人の非難が完了次第討伐作戦を決行する事になると思われますが、周囲の病院に入院している方の受け入れ先の確保などにどうしても時間を要しており、そこは行政と連携を取りながら対応していく事になりますね」
「なるほど。しかし時間をかけるほど危険度も高まるのでは?」
「探索者協会が緊急通知した文書にもありますが、
「なるほど、ではその猶予期間内に周辺の方々の避難を完了させて討伐準備を整える事になるんですね」
「万が一の事態に備えて自衛隊はいつでも動けるように配置されますが、基本的には避難が最優先となります」
テレビでは引き続きニュースが流れており、その中で時間には余裕があるので焦らず避難することや、電車は少しずつ運転再開しているので出来るだけ公共交通機関を使うことなどが呼びかけられている。避難指示が出ているのは半径1kmだが、何が起こるか分からないので可能であれば出来るだけ離れるようにという事だった。
「
「規模によるんじゃないかしら? 今回みたいに強いモンスターの場合は周辺に被害が出ることも考慮はするけど、ゴブリンぐらいだったらさっさと殲滅した方が却って安全だと判断されたりするだろうし」
「よりによってドラゴンだもんね」
「電車が動き出したら私達も避難しましょうか」
「明日には新幹線が動いてくれるといいんだけどな」
ユズキの家族は元々新幹線で仙台に帰る予定で明日の指定席を予約していたのでそれまでに運転再開してくれるのがベストではある。
「新幹線が動かなかったら鈍行で帰るの?」
「そうなるかな。俺は良いけど父さんと母さんの体力が心配だな」
「道路の混み具合次第だけど、私の車貸そうか?」
「お、正直助かる」
ユズキが家族達と帰宅方法を相談している一方でカンナとカンナママはニュースで報じている内容について話す。
「今回溢れたモンスターってドラゴンらしいけど、カンナは探索でドラゴンを討伐した事あるの?」
「ないない! ドラゴンは最強モンスターの一種って言われてて、生半可な実力じゃ近づく事すら出来ないんだよ」
「そうなんだ。おっかないわねぇ……じゃあ自衛隊の人達も討伐できるか分からないってこと?」
「それは分からない。でもダンジョン内では銃や爆弾が使えないけど外では使えるから、訓練された人たちなら現代科学の力でやっつけられるんじゃないかな」
カンナの言葉には願望も混じっている。
「そっか。ところで
「そう。ダンジョン内のモンスターは定期的に倒し続けないと中で生み出されるモンスターが外に出てきちゃうの」
「という事はあのドラゴン二頭はどこかのダンジョンから溢れてきたって事よね。そんなドラゴンが溢れるようなダンジョンがこの辺りにあるのかしら」
「それは……どうなんだろう?」
テレビではどこにあるダンジョンが
そこでカンナはふと気づく。「光の螺旋」の活動に同行した時、外に溢れていたモンスターはいずれもそのダンジョンで主に活動しているモンスターであった。つまり主にゴブリンが跋扈するダンジョンからはゴブリンが溢れ、ウルフがメインのダンジョンからはウルフが、オーガの場合はオーガが……。
つまり、ドラゴンが溢れたという事はそのダンジョンにはそこらじゅうにドラゴンが……?
空恐ろしい想像に身を震わせると同時にカンナのスマホが着信を告げる。電話をかけてきたのは「光の螺旋」のサブリーダー、護国寺アリスであった。カンナママに一言断ってから電話に出る。
「はい、カンナです」
「カンナちゃん! 無事だった!?」
「あ、うん」
「良かったー! 私達はさっきダンジョンから出てきたところなんだけど、地上が大変な事になってるって知ってさ。まだ突撃してないよね?」
「うん。というか自衛隊が討伐するつもりみたいだからとりあえず経過を見守ろうと思ってるよ」
「へ? 自衛隊?」
「うん、テレビで言ってた」
「そんなの無理無理無理。ぜえったい、無理! 通常の銃火器じゃドラゴンの身体には傷ひとつ付けられないから!」
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