第25話 スキル覚醒の方法とは
「方法のひとつは親からの遺伝ね。私の場合は母がダンジョンの外でスキルを使える人だったからか生まれつき使えたし、私の子供のリュウキとアリスも生まれつきスキルが使えたから。探索者の子供世代は親のスキルを受け継ぎやすいって統計結果もあるらしいし、ダンジョンの外でスキルを使えるって部分も遺伝するのかなと思う。まあ他にサンプルが無いからウチの家系限定の特性じゃ無いか? って聞かれると否定も出来ないんだけどね。とりあえずこっちはカンナさんには関係ないから置いておくとして、もう一つの方法ね。それはズバリ……」
確かにいつかカンナに子供ができた時にはその後に受け継がれることは気を付けないといけないが、今は気にしなくて良いだろう。
肝心なのはもう一つの方法。カナデの言葉を待ちながらカンナはごくりと息を呑む。
「ダンジョン内でコアをケイコウセッシュすることよ」
「ケイコウセッシュ?」
蛍光? 傾向?
「経口摂取。つまりコアを食べるの」
「はぁ?」
思わず変な声が漏れる。カナデはそんなカンナの反応が面白かったようで、ニヤリと笑った。
「コアってダンジョンコアですよね、壊すとダンジョンが消滅する」
「勿論、そのコアのことよ」
「あれを食べるんですか!? っていうか食べたんですか!?」
「厳密に言うと口に入れて飴みたいに嘗めていれば良いと思うんだけどね。カンナさんも身に覚えあるでしょ? だから今の状況になってるわけだし」
「コアを飴みたいに嘗めたことなんて……」
否定しようとしてカンナは思い当たる。飴のように嘗めたわけではないが、口に入れた事はある。
以前に鎌倉ダンジョンでコアを破壊した際に、カンナはユズキが意識を失ったことでパニックになったのだが(※)その時にふと、頭によぎったのが「もしかしてコアの力を使えばもう一回くらいスキル習得のチャンスは無いかな?」という考えだった。
(※第2章 23話)
ボスを倒してもスキルを得られなかったが、自分に『回復魔法』のスキルがあればユズキを治す事ができる! そう考えたカンナは換金のために集めた鎌倉ダンジョンのコアの欠片をひとつ取り上げて半ば無意識に口に運んだのだった。その様子を見ていた
まさかあれが……?
「カンナちゃん、そんなに食いしん坊なの? 確かにコアってキラキラしててキレイだけど」
「違っ、あの時はなんかその場の勢いみたいな感じでっ」
からかうアリスに慌てて弁明するカンナ。勢いで当時の状況を一通り説明することになる。「スキルを習得できるかもしれないと考えたら自然とコアの破片を口に入れていた」というカンナの証言に苦笑するアリスとリュウキ、だがカナデはむしろ納得するように頷いて説明を続ける。
「他のコアを嘗めた人達の話だけどね。まず
「それが飴だと思ったわけじゃないですよね?」
「その時はただの小石だと思ったらしいわ。ただ伯父が持ってた
「ハツネさんもそれに倣って?」
「そうらしいわ。
「呼ばれた?」
カナデは頷く。
「コアを嘗める事が条件だろうと確信したのはヨイチ達3人も同じ事をしていたからね。彼らも
「ヨイチさんだけじゃなくてハルカさんやサクヤさんまで!? いつも私達に厳しいのにそんな事してたんだ」
「3人とも今のアリス達よりずっと幼い頃の小学校1年生ぐらいの時の話よ?」
驚くアリスに諭すカナデ。それもそうかとアリスは納得する。
「それでも3人とも、道に落ちてるものを拾って食べるような子じゃなかったけどね。
「それがさっき母さんが言った「コアに呼ばれる」っていう事か?」
「そう。無意識にそうするのが自然であるような感覚になってコアを取り込もうとをする。そうさせる作用があるんじゃないかなって思うの。それがコアの力なのかダンジョン自体が意志を持っているのか、その辺りはわからないけどね」
「5人はどれくらいの時間、コアを嘗めていたんですか? 私は周りに出しなさいって言われたからほんの数秒しか口に入れてなかったと思うんですけど……」
「正確な時間は分からないけど、みんなだいたい丸一日くらいは嘗めてたんじゃないかな? 口の中で溶けたりはしなかったらしいわよ」
「スキルが覚醒するためには丸一日コアを嘗め続けないといけないってこと?」
「分からないとしか言えないわね。カンナさんは数秒で吐き出したらしいし、その後すぐに効果が出たわけでもないから個人差もあるのかもしれない。口にしたコアの大きさも違うし……本格的に研究すれば条件や法則が分かるのかもしれないけど」
「それは流石に無理だね。じゃあユズキさん達がスキル覚醒しようと思ったら私達の探索にまた同行してもらって壊したコアの破片を食べて貰えばいいのかな?」
「適当な未発見ダンジョンのコアを壊したタイミングでって考えるとそうなるな。普段は壊したコアはダンジョンが消えるまでコアルームに放置してるから別に誰も損しない
しな!」
アリスとリュウキが提案してくれる。確かに管理されているダンジョンのコアを壊すことは許されていないのでやるとしたら未発見ダンジョンになる、そういう意味では光の螺旋の活動に同行させてもらうのはとても都合が良いのだが……。
「でもどのくらいの時間口に入れればいいか分からないし、やり過ぎると危なかったりしないかな? どう思う?」
「わからないな。出たところ勝負でいいんじゃないか?」
「それは流石に怖いよ! じゃあ、10秒だけ嘗めてダメなら次回もう10秒みたいに刻んでみるのはどう?」
「違うダンジョンのコアを嘗めてもいいのか?」
「あー……そういう問題もあるのかぁ。そうすると敢えてコアを壊さずに残しておいて嘗めては覚醒するかどうかを何往復もして確かめるしかないかな?」
「それは大変そうだな……」
アリスとリュウキはきゃいきゃい盛り上がっている。すっかりやる気の二人に、むしろカンナの方が及び腰になってしまう。
「ほら二人とも、当事者を置いて盛り上がらないの。そもそも実行するかどうかも一旦カンナさんが持ち帰って
カナデが言うと、アリスとリュウキはそれもそうかと言って話を切り上げる。
「すっかり遅くなっちゃったね。そろそろ寝ようか?」
話もひと段落して、いつの間にか時計の針はもうじき日付をまたごうかという位置に居た。
「今日は貴重なお話を聞かせていただいてありがとうございました」
「いいのよ、私も久しぶりに昔のことを思い出して楽しかったわ。子供達にも一緒に話せたしね」
「カンナちゃん、私の部屋で一緒に寝ようよ! ダブルベッドだから二人で寝ても大丈夫だよ」
「えっ!?」
カンナは驚いて固まってしまう。アリスとしては純粋に友達とのお泊まりを楽しみたいだけでそれ以上の意図はない。しかしカンナ側には2つほど大きな問題点あった。
まず1つ、カンナは寝る時に抱きグセがある。自宅ではお気に入りのシロクマのぬいぐるみ(大)を抱いて寝ているし、遠征や旅行のホテルなどでは掛け布団を丸めて抱きしめる。ユズキと一緒に寝る時は……。そして朝起きた時、基本的には眠りについた時と同じものを抱いてはいるのだが稀に全く違うものを抱きしめている時がある。おそらく寝ている間に無意識に違うものを掴んでしまうのだろう。今日に限ってやらかす事はないとは思うが、万が一寝ながらアリスに抱きついたらとても恥ずかしい。
……というか、2つ目の問題点としてそもそもアリスと同じベッドで寝るって浮気にならないか? なるだろ、と心の中で結論づける。だって自分もユズキが他の女の子と同じベッドで寝るなんて嫌だもん。ただでさえ今日はユズキとのお泊まりの金曜日をドタキャンしてアリスの家に来ているわけで、これ以上悪いことは出来ないなと思う。
しかしアリスは純粋に楽しみたい気持ちで誘ってきてくれていて、彼女を傷つけずに断るには何と言えば……。
困った表情のカンナに気付いたカナデが助け舟を出してくれる。
「こら、アリス。あなた寝相悪いから一緒の布団で寝たらカンナさんを怪我させちゃうでしょう」
「えー? 今日は大丈夫だよ、きっと」
「根拠の無い自信で威張らないの。カンナさん、和室に布団を敷くからそこで寝てもらっていい?」
「じゃあ私も和室で寝たい!」
「はいはい、隣にお布団敷いてあげるからね。カンナさんもそれならいいかな?」
そういって目配せしてくれるカナデに、なんて素敵な気遣いができる人なんだろうと感動しつつカンナは頷いた。
布団を並べて横になる。「朝までお話ししようね!」と言っていたアリスは5分後には規則正しい寝息を立てていて思わず笑ってしまう。
豆電球の明かりをぼんやりと眺めながらカンナは改めて今日のことを振り返る。
(ダンジョンコアを食べるかぁ……間違って飲み込んだら危なくないのかな?)
そういえばカンナが口に入れたのは直径3cm程度の欠片だった気がする。飲み込むつもりだったのかと問われれば当時は本当に気が動転していたので覚えていない。無我夢中でとにかく『回復魔法』スキルが欲しいと考えていたような気がするけれど、それがコアを口に入れるという突飛な行動に結びついたのは「呼ばれた」という事なのかもしれない。大体、呼ばれるとはどういうことだろう? 個人的にはカナデがダンジョンに意志があるような言い方をしていたのが気になった。
そもそもダンジョンってなんなんだろうな。カンナにとってダンジョンは生まれた時から当たり前に世界にあるものだった。だから子供が入ってはいけない場所、危険な場所、大人がお金を稼ぐ場所という意味ではそこで工事している現場と大差ないイメージだった。だけどアリスの祖母、ハツネのダンジョンが世の中になかった時代にそれに翻弄された人の話を聞いた事で急にダンジョンが不気味なものに思えてきた。
(アリスちゃん達も、ずっとスキルが使える事がバレないように生きてこないといけなかったんだよね)
隣でスヤスヤと眠るアリス。穏やかな表情からは想像も出来ないほどの苦労をしてきたのだろうか。そんな事を考えながら気が付けばカンナも意識を手放していた。
「また遊びにきてね!」
「うん、またね。本当にありがとうございました」
翌朝、朝食を頂いたあとカンナは護国寺家を後にする。一度家に帰るか、直接ユズキのところに行くかは少々悩ましいところだ。昨日の流れで制服だしなぁ。そんなふうに考えて家を出たところでカナデが追いかけてきた。
「これ、カンナさんのスマホじゃない?」
「え? あ、ホントだ! すみません、ありがとうございます」
きちんとしまったつもりだったけど、どこに忘れてきたんだろう? そう思いつつスマホをカナデから受け取る。
カサッ
スマホと一緒に小さなメモを手渡される。思わずカナデの顔を見ると、アリス達に聞こえないように、目の前のカンナにぎりぎり聞き取れるくらいの小声で「あとで見て」と呟いた。カンナは頷いてメモをスマホと共にポケットに入れる。
アリス達に手を振って家の前から離れ、念のため駅までの道を半分ほど進んでからカナデから手渡されたメモを読む。
― 話したい事があります。駅の改札前で待ってて。
― アリスママより
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