第24話 そして現在に至る

 その後の「光の螺旋」はダンジョンの探索と並行して魔物溢れオーバーフローの早期対処を行う事なった。彼女達の活躍もあり災害級の魔物溢れはほとんど起こらなくなった。


 成年したヨイチが合流し光の螺旋は初めて二人パーティになる。またヨイチ同様に災害孤児でありダンジョン外でスキルを使う事ができたハルカとサクヤを、これまたヨイチ同様に引き取り育てる事になった。


 カナデは情報を渡してくれていた協会員と結婚して、翌年双子を出産する。アリスとリュウキである。


 その後成長したハルカとサクヤも光の螺旋としての活動に加わった。サクヤの『魔物探知』は初期の魔物溢れを発見するのにこれ以上ないスキルであった事で、カナデの夫はついに長年の情報横流し業から足を洗う事ができたというわけだ。悪事がバレる前に協会から退職して今はヨイチ達の遠征に付き添っているという流れになる。


 5年ほど前にボス討伐中に怪我をしたカナデは体力の限界を感じ、リーダーを次世代に譲ろうと考えた。その際にリュウキとアリスが後任になりたいと強く主張したため彼らの光の螺旋への参加と共にリーダー交代、カナデは引退して夫と共に裏側から光の螺旋を支えている。


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「というわけで、私のお母さんの時代から続く光の螺旋は今日も魔物溢れオーバーフローを防ぐため日夜頑張ってるってわけ。主にヨイチとハルカとサクヤが、だけどね。ハルカ達との出会い話は……まぁ良くある救出劇だしアリス達は本人から何度も聞いてるだろうから省略するわね」


 長い話が終わり、ふぅーっと大きく息を吐くカナデアリスママ


「えーっ、これで終わり!? 一番聞きたかったパパとママのラブロマンスの部分が思いっきり省略されてるんだけど!」


「ふふふ、それはパパとママの二人だけの秘密の想い出ってことで。アリスもいつか素敵な人に出会ったら分かるわよ。本当に大切な人との想い出は二人の心の中だけに秘めておきたいの」


 そう言って優しく笑ったカナデはアリスの頭を撫でる。


「光の螺旋は大伯父さんが立ち上げたとは知らなかったな。母さん、大伯父さんにはその後会えたのかい?」


「ううん。ギンタ伯父さんとはあれっきり。だけど私や母さんのところに協会からそれ以上の追及が来なかったから、多分上手く逃げ切ってくれてるんだと思う」


「じゃあ今でも居場所はわからないってことか。昔の話をぜひ聞いてみたかったんだが、残念だな」


「リュウキが光の螺旋のリーダーを立派に務める事が出来れば、孫の顔を見る感覚で会いに来てくれるかもね」


「そうかもな。じゃあ頑張ろう!」


 リュウキは気合十分といった感じだ。


「さて、カンナさんは聞きたい事がいっぱいって顔してるけど」


「そうですね。今の話の中にヒントもあった気がするし、気になることもいっぱいありました。質問してもいいですか?」


「もちろん。だけど少し長くなったし、一度休憩を挟みましょうか」


 そう言ってカナデは立ち上がると台所に向かう。お茶のお代わりを淹れに行ったのだろう。キッチンにいるカナデを見ながらカンナは先程までの話を頭の中で整理する。


 ハツネの時代……ハツネとギンタは覚醒したと思われるやりとりがあった。ハツネは探索者をして居たわけではなさそうだし、覚醒したのは最初の災害のタイミング?


 次にカナデの時代。ハツネの『そよ風』はカナデに『暴風』として受け継がれたという事だろう。だとすると覚醒したスキルはより強力になって遺伝する? アリスの『風神』も風を操るスキルだし、ありそうな気がする。


 そして比較的最近の話、ヨイチとハルカ、サクヤも初めから覚醒していたような口ぶりだった。そして彼らには災害孤児という共通点がある。ハツネとギンタも最初の災害後に覚醒したとすれば、魔物溢れオーバーフロー災害に遭う事が条件か? しかしそんな人間は他にも大勢いる。つまりそれだけが条件というわけでは無いはずだ。


 なにより、親からの遺伝ではなく後天的に覚醒したという意味ではカンナと同じ条件のはず。つまり彼らとカンナには何か共通点があるはずだ。その「何か」についてカナデは知っているのだろうか?


 ……うん、大体聞きたい事は整理できた。カンナが一人でうんうんと頷いているとカナデがティーポットを持って戻って来た。


「準備はできたみたいね。じゃあ質問コーナーに入りましょうか」


 上品な仕草で紅茶をティーカップに注ぎながらカナデは微笑んだ。


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「ズバリ聞きますが、カナデさんはスキルが覚醒する条件を知ってるんですか?」


「いきなり本命の質問が来たわね」


「カナデさんとリュウキさんとアリスちゃんは、それぞれお母さんから遺伝したのかなって考えました。初めからスキルがダンジョン外でも使えたって事は生まれつき覚醒して居た事になる。つまり遺伝したのかなと思います」


「うんうん、それで?」


「ハツネさんとギンタさん、それにヨイチさんとハルカさんとサクヤさんは魔物溢れオーバーフロー災害後に覚醒した……だとすれば被災中にとった行動に何か共通点があったんじゃ無いかと。そして私も同じ行動を取った事があるからスキルが覚醒しているとすると辻褄が合うんです」


「なるほどね」


「つまり私の仲間達も同じ事をすれば覚醒できる……と思うんですが、その方法を教えてもらうことって出来ますかね?」


 色々と聞きたい事はあるが、つまりこれに尽きる。特に話を聞いた限りギンタは汎用スキルの『剣術』しか持たない時点でスキルが覚醒していたようなので――『剣術』が覚醒したのかまでは分からないが――柚子缶でユニークスキルを持たないイヨとマフユも同じように覚醒する事が可能なのではないかと期待が膨らむ。


 しかしカナデは厳しい表情でカンナを見つめて問いかける。


「それは、あなたの仲間達も世界中から狙われる立場に巻き込もうって事?」


「それは……」


伯父ギンタが失踪した理由は話したわよね。同じ理由で私もこの子達も、そしてヨイチ達も一歩間違えれば研究者に捕まって人体実験や解剖の対象になるリスクがあるの。もちろんあなたもね」


 カンナはハッとした。昔話のように語られた光の螺旋のこれまでだが、覚醒している事がバレてはいけないという前提は現在進行形なのだ。だからこそ光の螺旋は溢れたモンスターの処理やダンジョンの攻略とコアの破壊を秘密裏に行っている。


「事情を知っていることと、当事者になることはまるで意味が違うの。私やこの子達は生まれつきだし、ヨイチ達も決して自分から望んでこの状態になったわけじゃないからね。こうなろうとするっていうなら、それによって受ける不都合も受け入れる覚悟が必要ってこと。カンナさんには仲間をそんな状態にする覚悟はある?」


 そんなふうに言われると胸を張ってハイとは言えないカンナ。カンナのスキルが覚醒したのはここ数ヶ月の話だしその期間も『広域化』だスキル習得だで周囲は騒がしかったが「ダンジョンの外でスキルが使える」という事実に対する懸念や危機感はそこまで持っていなかった。しかし何十年もその事実と向き合って生きて来て、実際に家族ギンタを失ったカナデの言葉には重みがありそれを受け止めきれずにいた。


 ユズキはきっと受け入れてくれるだろうし、それどころかカンナ一人にリスクを抱えさせるくらいにならと喜んで覚醒をしたいというだろう。また仮に自分とユズキの立場が逆だったとしたら自分はユズキと同じ立場に立つために覚醒したいと思う。とはいえそんなリスクがあるとなるとカンナとしてはユズキやイヨ達をそんな立場に巻き込みたくはなくて……。


 自分勝手な意見だとは思うけれど、カンナはどうするのが正解か分からなくなってしまう。


 難しい顔で黙り込んでしまったカンナに、カナデは優しく声をかける。


「そうね、いきなり言われてもどうしたらいいかなんて結論は出ないわよね。やり方は教えてあげるから、みんなできちんと話し合えばいいと思うわ」


「……いいんですか?」


「ひとりで抱え込んでも答えは出ないわよ。あなたが守りたい人達と一緒に悩んで、相談して、どうするか決めれば選択に後悔しないと思う。やろうとしてすぐに出来る事でも無いから考える時間はいくらでもあるしね」



第24話 了


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※※作者より※※

思い切り尻切れ感のある過去編の終了笑


ちらほらと盛り込んだエピソードを膨らませればいくらでも話は作れるのですが(それこそカナデと夫のラブロマンスとか……)これってカンナとユズキの物語なのよね笑

あくまで重要なエピソードのみ抜き出して語る事にしました。


文字数の都合で少し中途半端なところで終わりましたが、次話でついにスキル覚醒の秘密に言及します、お楽しみに!

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