第12話 一問一答、取材の終わり

Q.襲撃の怪我はもう治ったか?

A.完治している


Q.暗殺を手引きしたのがD3という報道は見たか?

A.テレビで見た


Q.襲撃以前にD3と関わりはあったか?

A.過去に二度、ヘッドハントを断っている


Q.D3の勧誘はパーティにか、カンナ個人にか?

A.パーティに対して


Q.勧誘を断ったのはパーティの総意で間違いない?

A.そうだ


Q.断った理由は探索者協会とのパートナーシップ契約があるからか?

A.そうではない


Q.D3以外の企業から勧誘はあったか?

A.何社かメールで誘いがあった


Q.今後も企業からの勧誘は断るのか?

A.現時点ではどの企業から勧誘が来ても受けるつもりは無い


Q.個人探索者を続ける理由を知りたい

A.「柚子缶」としての目標があるから


Q.その目標とは?

A.日本一のパーティになること


Q.日本一とは?

A.現時点では「光の螺旋」を目標にしている


Q.柚子缶の保持スキルは開示しないのか?

A.配信動画の中で見せている以上の情報を出すつもりはない


Q.昨年妖精譚フェアリーテイルと実施したような、他パーティとのコラボ予定はあるか?

A.現時点では無い。


Q.コラボ後に新メンバーが加入したが、今後メンバー追加はあり得るか?

A.今は予定はないが、その時の状況次第


Q.先週配信された動画はボス討伐のみだったが、どういう意図でそこまでの探索をカットしたのか?

A.理由があってダンジョンを公に出来ないので特定を防ぐため


Q.今後も同様のボス討伐のみの配信をしていくのか?

A.そういうこともあり得るが、これまで通りの配信をメインにやっていく予定


Q.次回の配信予定は?

A.SNSで告知する


Q.襲撃時の話に戻るが、襲われている状況を生配信をした理由は?

A.いきなり襲われたため通信機を持ち出せなかったので外に状況を知らせる手段として配信をした


Q.逃げずに迎え撃ったのは何故か?

A.袋小路に追い詰められてしまったため、やむを得ず


Q.命の危機は感じなかったか?

A.生きた心地がしない数分間であった


Q.人間相手に攻撃する事に躊躇はなかったか?

A.こちらを殺すと宣言している相手だったので、人間というよりもモンスターを相手にしているような感覚だった


Q.襲撃者を退けた後、配信の最後にユズキリーダーに愛の言葉を伝えていたが、2人は恋人関係なのか?、

A.世間一般にそう呼ばれる関係ではある


Q.最後に、今後もこのような取材の場を設ける予定はあるか?

A.こちらはあくまで一般人なのでこれっきりにしてほしい。家や学校に押しかけるのも遠慮してほしい


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「ありがとうございました。私からの質問は以上です」


 木ノ葉が深く礼をして椅子に座った。


(結局この人に準備してきた質問をかなり答えちゃったな)


 もうちょっと答える対象がバラけると思っていたが、まあ他の記者達も木ノ葉とのやりとりをメモっているはずなので問題ないだろう。これで質問した記者は一周したのでカンナは締める事にする。


「皆さんからの質問には一通り答えたのでこれにて終了で……」


「ちょっと待て! なぜ南関東テレビさんにだけ丁寧に答えたんだ!?」

「我々の質問には碌に答えてなかったじゃないか!」

「そういえばこの会議室を用意したのも南関東テレビだったな、初めから出来レースだったんじゃないか!?」


 終わりの言葉を口にしかけたカンナに抗議の声が上がる。カンナはなんと言おうか考えていると、先に反論したのは木ノ葉記者だった。


「失礼な事を言わないでください。私も日出さんとは初対面ですし、皆さんと同じ立場です。」


「贔屓された本人がそう言って納得できるとでも?」


「みなさんが頭の悪い質問をしているうちに「どんな質問なら答えてもらえるか」を考えていただけです」


「頭が悪いだと!? 我々を馬鹿にしているのか?」


「今回の取材については肯定します。そもそも最初の数名の方と日出さんのやりとりを見て、彼女のスキルについてはお話しされるつもりがない事は分かりましたよね? なのに皆さん馬鹿みたいに『広域化』『広域化』『スキル習得』『スキル習得』って……これを頭が悪いと言わずになんと言うんですか?」


「ぐぅ……」


「協会についての質問は問題外です。パートナーシップまで結んでいるのにNDA機密保持契約が締結されていないわけ無いじゃないですか。それが分かってて質問しているのは、彼女が若いからって強引に迫れば口を滑らせると考えているからではないかと邪推します。流石にそれは同じ記者という立場から非難せざるを得ないのですが」


 まさかの記者側からの攻撃に、気まずそうに俯く記者達。木ノ葉の言う通りで、世間擦れしていなさそうなカンナであれば押し掛ければいくらでも情報を引き出せそうだと侮っていわけだが、そんな彼らの予想を覆してカンナはしっかり準備してきたのだ。それが分かった時点で頭を切り替えられなかった記者達の負けである。


 本音を言えば木ノ葉だってスキル習得や広域化の事を聞き出したい。もしも最初のHHKの質問の段階で他の記者がカンナが一筋縄ではいかない相手だと気付いていたら協力してうまく誘導尋問も出来たかもしれない。それが出来なかったのは彼らが頭の悪い質問を繰り返したからに他ならないのである。


 同業者からも指摘をされて立つ瀬が無い。それでも納得はいかない顔をしていたものの、この場でゴネても自分たちの望む回答は引き出せないと悟ったとこもあり大人しく引き下がらずを得なかった。


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「あの、ありがとうございました」


 記者会見もどきの取材が終わり、木ノ葉が借りた会議室の返却手続きをしてから公民館を出ると、カンナが駆け寄ってきて頭を下げる。


「こちらこそ、押し掛けたにも関わらずこんなきちんと答えてくれて、ありがとうございました」


 木ノ葉もカンナに深く礼をする。


「他の記者さん達を説得して頂いて助かりました」


「まあ彼らのやり方がスマートで無かったのは事実だしね」


 とはいえ木ノ葉自身もそのスマートではないやり方を取ることもある。今回はそのやり方で行くべきではないと判断しただけの話で、カンナを庇う様なポーズを取ったのは今後のことを考えると彼女の印象を良くしておいた方が得策だと思ったからだ。こうしてわざわざ声をかけにきてくれたという事実がそれなりに効果があった事を証明している。


「これで張り込んでる人は居なくなりますかね?」


「そうですね……日出さんに取材しても欲しい情報は引き出せないと骨身に染みたでしょうし、少なくとも今日来ていた会社は一度手を引くと思います」

 

 自分に聞かないで欲しいと思いつつも木ノ葉は所感を述べた。


「そっか、良かった。ちなみに今日の事ってテレビに映したり雑誌に載せたりします?」


「後ろでカメラを回してた人も居たけど、あの取材内容じゃねぇ……うまく切り取れば日出さんを悪者にする映像は作れると思うけど、それをしたらあなた達のチャンネルに今日の取材の様子をアップロードしちゃうんでしょ? 流石にリスクが大きいと考えるのが普通なんだけど……」


「だけど?」


「私がした質問と答えだと視聴者の方が欲しい……と制作側が勝手に考えているものにはマッチしてないだろうなって。だからウチも含めてなんだけど上の方がどんな判断をするかまではちょっと分からないかな。もしかしたらせっかく質問したのにお蔵入りになるかもしれないし」


「なるほど。じゃあどんな報道があるかしっかりチェックしておいた方がいいですね」


「……少なくともウチはカウンターパンチをもらわないように、しっかり釘を刺しておくわね」


 はい、お願いしますとニッコリ笑うカンナと笑顔で別れた木ノ葉は車に乗り込むと大きなため息を吐いた。


「木ノ葉さん、お疲れ様です」


 撮影班の若手が労ってくれる。会議室の後方でカメラを撮っていたスタッフだ。


「ああ、君もお疲れ様。いい画は撮れた?」


「映像と音声は問題なしです。内容は……大変でしたね」


「まあ仕方ないわ。世間知らずのお嬢ちゃんかと思ったらとんだ猛者だったわね」


「猛者ですか」


 木ノ葉はタバコを取り出して火をつける。フーッと一服すると改めてスタッフに話す。


「あんな風に大勢の大人に囲まれて、堂々と自分を通すなんてただの女子高生には普通できないわ。それどころか大人だって並の胆力じゃ無理よ。普段から命を賭けてモンスターと戦ってる分、人間相手ならビビる必要すら無いって事かしら? いずれにせよあの心の壁を突き崩せる手段を私達は持ち合わせていなかったから当たり障りのない質問をして終わるしかなかったってわけ」


「なるほど。近頃の女子高生は肝が座ってるなって思ってました」


「あんな子がそうそう居てたまるもんですか! いずれにせよ、これ以上無理な取材はやめた方がいいし、勝手に都合のいい映像を作らないように上には言っておくべきね。変な編集して報道したら、録画してた映像の配信を本当にやるわよ」


「伝えておきます。だけどその場合使える部分ってあります?」


「それを考えるのがプロデューサーの役目って……キミが言っちゃったらカドが立つか。仕方無い、私から話すわ」


 木ノ葉はスマホを取り出すと馴染みのプロデューサーに電話をかける。若いスタッフはやりづらい仕事を買ってくれた木ノ葉に感謝しつつ、どうにか使えるシーンが無いか改めて映像を見返した。


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 公民館を出たカンナはその足で駅に向かい渋谷に直行した。心配して駅まで迎えに来ていたユズキやイヨ、マフユと共に、訓練のため渋谷ダンジョンに向かいながらの先ほどの取材の顛末を報告する。


「私、頑張ったよ!」


「私のスパルタ訓練の成果が如何なく発揮された様で良かった」


「コイツはまた調子に乗って……」


「でもイヨ先生が鍛えてくれなかったら圧に押されて困っちゃってたかも知れないから、本当に助かったよ。なんだかんだ記者の人たちはイヨさんより怖くなかったし」


「じゃああとでカンナさんがどう答えてたかビデオで確認しようか」


「ええ、恥ずかしいなぁ……」


「でも私達としてもカンナがどう答えたか把握しておくのは大事だからね、事務所に帰ったら上映会しましょうか」


「次に備えて直すべきところはキチンと指摘しないとね!」


「ひぇっ、お手柔らかに……でもこれっきりにして欲しいってお願いしておいたから次は無いといいなあ」


「それで退いてくれるならこんな事態になってないんだけどね。でも毅然と対応できて「カンナちゃんに取材しても無駄だ」って思ってもらえたなら少しは落ち着いてくれる、かも?」


「そうなるといいんだけどね。さて、ダンジョンに着いたしみんな切り替えて。訓練頑張りましょう!」


「はーい!」


 その後たっぷり数時間の訓練を実施した柚子缶。帰ってからスマホと配信用カメラの映像を確認したユズキ達がカンナの堂々とした対応に百点満点をあげるとカンナは嬉しそうに笑ってロールプレイに付き合ってくれた三人に改めてお礼を言った。

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