第11話 日出カンナの記者会見(?)
(イヨさんが言った通りだなぁ……)
カンナは記者達に毅然と接しつつ、先日のロールプレイを思い出す。最初は単純な想定問答だけだったが、イヨが待ったをかけたのだった。
「うーん……記者役のユズキさんがちょっと大人しすぎるなあ」
「そうかしら? テレビとかで見るインタビュアーを意識はしてたんだけど」
「カメラが回ってないところではああいうお上品な記者だけじゃ済まないでしょ、きっと。よし、私過激派の記者をやるわ」
「か、過激派!?」
「コホン……日出さん、ズバリ協会のスキル習得はあなたの『広域化』で武器スキルを対象に広げて、その状態で訓練をする事で身体に正しい動きを覚えさせてますね!?」
「そんなピンポイントで聞いてくる記者がいるかよ!?」
マフユがツッコむが、イヨは至って真剣な顔でカンナにマイクを向けるポーズを崩さない。これはきちんと対応するしか無いだろうとカンナは質問集から覚えた答えを返す。
「協会のスキル習得の事は協会に聞いてください」
「あなたの! そのスキルがあれば多くの探索者がスキルを獲得できる。もっと積極的に開催するよう協会に働きかけるべきです! なのに何故それをしないのですか!?」
「えっと、だから協会に……」
「スキルを持った探索者が増えればダンジョン探索がそれだけ安全になる。つまり痛ましい事故を減らしながらも日本の繁栄に寄与できる。それが出来る以上、するのが義務では無いでしょか!」
「え、義務なの……?」
「はい! ですので協会を通さずにもっとスキル習得できる機会を頻繁に設けないと、国民は納得できないですよ!」
「ふ、ふぇぇ……」
ズイッ! ズイッ! と迫ってくるイヨの気迫に押されて縮こまるカンナ。
「……とまあ、こんな風に強引に自分の結論に持っていこうとする記者もいるんじゃないかと思うわけよ」
パッと笑顔に戻るイヨ。やりすぎだよとマフユは諌めるが、イヨは首を振った。
「確かにちょっと強引だったけど、こういう人が居るかもと予想しておけば対応できるよねって話だよ」
「まあ一理あるね」
「で、でも、こんな風に迫られたらどうしたらいいの……?」
少し涙目になってしまうカンナ。それだけ先ほどのイヨには迫力があった。ユズキは「イヨは憑依系の役者なのね」と感心してしまう。
「うーん、こんな風に迫られないように物理的に距離を取るしか無いかな」
「物理的に……?」
「そう。さっきまでは道で取材を受ける前提で立って質問に答えたけど、そうじゃなくてどこかの部屋……そうだ、学校の前で記者に捕まったとするなら先生に言って空き教室を借りるとかどうかな? カンナさんが教壇に立って、記者には机に座らせるの。そうすればさっきみたいにグイグイ距離を詰められる事もなくなるし」
「それ良い案。学校ならカンナちゃんも慣れてるからリラックスして答えられるだろうし」
「席を立って迫ってくるかもよ?」
「そういうルールを守れない人は退場って空気を最初に作るとか……? でも仮にグイグイ迫ってきたところでカンナさんなら大丈夫だよね」
「大丈夫じゃないよ!」
「だって仮にこんな風に組み伏せられても、『格闘術』が使えるじゃん」
そう言ってカンナの両手首を掴むイヨ。カンナは思わず身体が固まるが、確かに『格闘術』があればこの状態から強引に手を振り解いて逆に腕を捻りあげるくらい簡単ではある。
「流石に一般人にスキルを使うのは……」
「こんな風に危害を加えようとする輩はモンスターみたいなもんだし、遠慮しなくていいでしょ。向こうもまさかカンナさんがダンジョンの外でスキルが使えるとは思ってないだろうし」
「怪我させたらカンナが悪者にならない?」
「ならない程度に対応するしか。先に手を出して貰う?」
「痛いのは嫌だけど」
「閃いた。この間の暗殺者と戦った時みたいに胸ポケットにカメラ入れて配信しながら取材を受ければいいんじゃない?」
「流石に配信を見た人が何事かと思っちゃうわよ。……でも録画なら大丈夫ね。マフユ、ナイスアイデア」
グッとサムズアップするマフユは物凄く得意げな顔だった。
「実際に実力行使しないまでも、要はカンナさんから見たら一般人なんていくら凄んで来たところで実際は怪我ひとつ負わせられないのよ。それこそ加減を考えなきゃならないぐらいにね」
「うん、そう考えたら少しは怖く無くなる……かも?」
「でしょう。よし、じゃあ今から記者が強引に迫ってきた時にあしらう練習しよう」
「イヨさんの演技、怖かったからお手柔らかにお願い……ね?」
イヨはニヤリとした。こうしてイヨ先生のスパルタ教室は深夜まで続いたのだった。
(イヨさんの剣幕に比べたらここの記者さん達は穏便なものだよ)
「それでは『広域化』で出来ることを教えてください」
「お断りします。プライベートなので。次の方」
記者達はなんとかスキル習得と『広域化』を結びつけようとやっきになって質問してくる。少し考えればカンナにはその事について答えるつもりがまるで無いことはわかると言うのに、ここまでの流れで完全に冷静さを失っていた。
そしてイヨ達とのロールプレイでも練習した、感情に訴える質問も出始める。
「スキル習得という画期的な技術が協会の匙加減で極端に制限されてしまっている事について、技術を開示してもっと探索者全体に利益を還元するべきだと思いませんか?」
「思いません。次の方」
答えはなるべく完結に。余計な感想つけたり言い回しを捻ると、わざの曲解されるからと叩き込まれた。
「スキル習得の規模が広がれば、これまで有用なスキルが無かった人も安全に探索できるようになります。そういった人を助けたいとは思いませんか?」
「協会に伝えて下さい。次の方」
情に訴える質問への回答は、基本的に否定または協会に話せで返す。ひとつ前の質問つまりは「協会がスキル習得の技術を開示するべきか?」でありカンナの答えはノー。今の質問は「もっとスキル習得できる機会を増やせ」なので協会に言ってくれと答える。
(とはいえ、やっぱりこういうのはやりづらいなぁ)
普段カンナは人に気を遣えるいい子なので、冷徹女子ムーブはかなり神経を遣う。そもそも柚子缶として大人と交渉する時はユズキがやってくれることもあって、こうやって大人達と対峙する事自体がかなりのストレスだ。
救いなのはほとんどの記者は碌な質問をして来ないので回答が楽チンだという事だ。スキル習得や広域化について知りたいのは分かるが、壊れたスピーカーのようにそればかり聞いてくるので回答自体は簡単だった。
(そろそろ全員に聞いたかな? あとはあの人で終わりか)
「では次の方。……こちらの方で最後ですかね」
二巡目に行くつもりも無い。この人も広域化について聞いてくるならさっさと終わらせてしまおう。確かこの会議室を準備した、南関東テレビの
「はい、お願いします。まず、お身体はもう大丈夫なんでしょうか?」
「へ? 身体?」
「先日の暗殺者からの襲撃の配信の中で、お怪我をされておりましたので。最後には気も失われていましたし」
「ああ、そういう事ですか。おかげさまで体調は万全です。回復魔法による治療も受けましたので」
「それは良かった。若いお嬢さんの身体に傷が残ったら大変ですものね」
「……お気遣いありがとうございます」
ニッコリと笑う女性記者に対して、カンナは思わず頭を下げてしまう。
「では、お身体は大丈夫という事ですので質問をさせて頂きますね。まず、いま話した暗殺者の襲撃についてですが彼らに日出さんの暗殺を依頼したのはD3という企業であるという報道はご覧になられましたか?」
「は、はい。テレビでやっておりましたので」
「そうですか。襲撃より前にD3と関わった事はありましたか? 日出さん個人でも、柚子缶としてでも」
「……二度ほどヘッドハンティングを断っています」
「以前にD3から勧誘があり、それを断った経緯があったという事ですね。勧誘はパーティにでしょうか、それとも日出さん個人に?」
「パーティに、ですね」
「ではD3の勧誘を断ったのはパーティの総意という事でしょうか?」
「そうなります」
「ありがとうございます。7月に柚子缶は探索者協会とパートナーシップ契約を結ばれていますが、D3からの勧誘を断ったのはその契約の話があったからでしょうか?」
「時期は重なっていますが、直接の理由ではありません」
「なるほど。ちなみにD3以外の企業からもヘッドハンティングのお話をいただいた事はありますか?」
「何社かメールを頂いています」
「そうですか。では……」
次々と質問をしてくる木ノ葉に対して、やっとまともな人が来たなとカンナは思った。カンナ(柚子缶)だって記者を片っ端から返り討ちにしたいわけじゃない、話せない事以外は聞いてくれたら答えるのもやぶさかでは無い。だというのにここまでに記者は全員がその話せない事しか聞いて来なかっただけなのだ。
例えば柚子缶の今後の目標とか。襲撃についてだってスキル習得や広域化の事が絡まない範囲でなら答えるつもりはあった。
最後の最後で意図を汲み取ってくれる人が現れたことに少しホッとしつつ、次々と出される質問を想定質問集に頭の中で必死で照らし合わせるカンナであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます