第5話 動画の評価とユズキの不在

【女性配信探索者について語るスレ から】

18050:

すっかり柚子缶スレになっちまったな、ここも

 

18051:

そんな柚子缶の動画がアップされたわけだが


18052:

久々のボス討伐動画だったな

それもガチンコバトルの


18053:

イヨちゃんはカメラ係?

全然映ってなかったな


18054:

実質3人でボス倒したってことか


18055:

ところであれ、どこのダンジョン?


18056:

どこのダンジョンかは言えないって概要欄にあったな。どこかをプライベートダンジョン化したとかかな?


18057:

確かに柚子缶ぐらい稼いでれば個人でダンジョンのプライベート化も出来るかもな


18058:

ダンジョンデータベースでは最近プライベート化されたダンジョンって無いからそれも違う気がするけどなぁ



18090:

それで肝心のボス討伐は


18091:

相変わらずすごいとしか言えないんだよな……動画がボスとの戦闘の5分弱しかないから語る事が少なすぎる


18092:

> 18091

あの戦闘をみて凄いしか感想が無いなら探索者辞めた方がいい


18093:

は? じゃあお前は詳しく解説できるのかよ


18094:

> 18091 - 18092

喧嘩するなって 確かに色々と言いたいことはあるけど、一言で言うなら「凄い」だしな


18095:

人間辞めた動きは前からだけどさ、マフユたんの氷魔法も前より明らかに強いよな?


18096:

あの威力だとスキル進化して『上級氷魔法』になってる可能性が高いな


18097:

だよな!? ボスの身体を一瞬で凍らせるとかさすが上級スキルだな……半端ねぇや


18098:

上級魔法スキルってあんなに威力出るのか?


18099:

上級はサンプルが少なくて正直分からないけど、確かにボスを一撃で凍らせるとなると上級氷魔法でも強すぎるか?……上級のさらに上ってあるんだっけ?


18100:

汎用スキルでは確認されてないな、その上のレベルになるとユニークスキルになるんじゃ無いかっていうのが通説


18101:

実はマフユたんのスキルがユニークスキルだったとかなら胸熱な展開だな


18102:

妖精譚時代から5年以上見てきた限りそれは無いと思うぞ


18103:

それもそうか、じゃあ最近の活動の中でスキル進化したって考えるのが妥当かな?


18104:

もともとスキルの練度が高かったから、上級氷魔法スキルも威力が上がったって事かな


18105:

詳しいことは分からんなぁ



18119:

ボスを一刀両断したユズキの必殺技は『上級剣術』の『一点集中』ってことでいいのかな?


18120:

多分そういうことだと思う

そう考えると柚子缶、上級スキル持ち多すぎじゃないか?


18121:

この間の暗殺者と戦ってるとき、イヨちゃんも『上級格闘術』を使ってたよな? 手から衝撃波を出してたし


18122:

確かに出してたな


18123:

マフユタンが『上級氷魔法』、ユズキが『上級剣術』、イヨちゃんが『上級格闘術』とか、恵まれすぎじゃね?


18124:

それプラスユニークスキル二つあるからな……もう完全に手が届かない存在になっちまっただ……


18125:

> 18124

初めから届かないからそこは安心していいぞw


---------------------------


「まあ概ね好評かな? どこのボスかって気にしてる人もいるけど、そんなに多いわけでも無さそうだし」


「しばらく探索動画を投稿できてなかったし、待ってたって言ってくれてる人も多いね」


「「スキル習得について説明責任を果たせ」ってコメントもあるけど……」


「そういうのは気にしなくていいよ。カンナちゃんに説明責任なんてないんだから」


「そうそう、偉そうな事を言う奴は俺様理論で勝手に解釈してるだけなんだから。つまんない意見は無視していいコメントだけ反応するのが正解」


 イヨとマフユに励まされてカンナはほっとする。自分のスキルが原因で世間も色々と騒ぎになっているという自覚があるのでやはりネガティブな意見は気になってしまう。イヨとマフユはそういったコメント見て、悪意のある人間がいる事を認識した上で気にしないようにとカンナに伝える。


「ユズキはこういう嫌な意見があるから、あんまりコメントを見ない方がいいよって言うんだよね」


「ユズキちゃんは過保護だね。そこまでしなくてもカンナちゃんは強いからこんなコメントに負けたりしないのに」


「フユちゃん先輩は乙女心が分かってないなー。それが本人の成長に繋がらないと分かっていても、傷付くのを見たくなくて過剰に護りたくなっちゃうぐらい溺愛してるって事でしょ」


 イヨはノートパソコンを閉じて片付ける。


 広島の遠征から帰ってきて三日、相変わらずタワーマンションの付近にはマスコミが陣取っているためカンナは缶詰を強いられていた。カンナママやミサキからの情報によれば、自宅付近にも記者らしき人がチラホラしているとのことで、このまま新学期が始まってしまったら事務所から毎日ユズキに送迎してもらって学校に通うことも考慮に入ってきている。


「あと1週間で落ち着かないかなぁ……」


「取材? むしろ新学期が始まってからの方が激化するんじゃないかな。高校の入り口で張ってれば確実に会えるんだし」


「それもそうか……はぁ」


「カンナちゃん、おっきなため息だね」


「私達じゃユズキさんの代わりには成れないしねー、仕方ない」


「あ、ごめんね。イヨさんとマフユさんじゃ物足りないとかそういうのじゃなくて、暫く帰ってないしお母さん元気かなって思っちゃったりしてて」


柚子缶のみんなと――もちろん一番大好きなのはユズキだが――ずっと一緒にいられるのは嬉しいけど、それはそれ。もう1ヶ月以上自宅に帰れてないのでカンナは軽いホームシックを患っていた。 


「ああそういうことか……そもそも札幌遠征終わったら休養期間で家族水入らずの予定だったもんね。それがなし崩し的に事務所に避難してそのまま缶詰生活だもん、参っちゃうよね」


「それでいつもはユズキさんにくっついて寂しさを埋めているけど、今日は居ないから不安になっちゃうと言うことだね」


「べべべ、べつにそんないつもベタベタくっついてるわけじゃないよ!? たまになんだから!」


 イヨの揶揄いに慌てて手を振るカンナだが、最後の一言は余計である。失言に気付き、頬を真っ赤に染めるカンナを、イヨとマフユは慣れた様子で見守った。


「それで愛しのユズキちゃんはいつ帰ってくるの?」


「……とりあえず明日の夕方の予定って言ってた。今日は仙台のホテルに泊まって、明日の午前中にご家族に会うんだって」


「カンナちゃんは一緒に行かなくて良かったの?」


「うーん……お父さんから呼び出されたらしいけど、なんかあまり良い話じゃなさそうな雰囲気なんだって。少なくとも恋人を親に紹介するような流れにはならないと思うから今回はユズキだけで帰省するって言われちゃった」


 今朝、急な電話で家族から呼び出されたユズキは昼過ぎに身支度をして実家のある仙台に向かった。カンナを連れて行くような空気ではなかったが、かといってこの状況下、一人事務所に残して行くのも不安ということでイヨとマフユに相談したところ二人の部屋にお泊まりする事が即決したのだ。


 同じマンションに住みながらも実は二人の部屋に泊まるのは初めてのカンナは少し緊張しながらもお姉さんズとの時間を満喫していた。今は晩御飯を食べ終わり、団欒タイムである。みんなで紅茶を飲んでいたところでイヨが思い出したように掲示板を開いて柚子缶へのコメントを拾い上げたのたのが先程までの流れだ。


「さて、じゃあ今日もぼちぼちスキル発動の練習しますか!」


 徐にストレッチを始めるイヨとマフユ。


「本当に出来るの?」


「今のところ全く兆しは無いね。というかそもそもダンジョンの中でだってどうやってスキルを発動してるのか、理屈がわかってないし」


「なんとなくで、出来ちゃってるんだよね」


 そう言って笑う2人だが、表情は真剣そのものだった。


 ユニークスキルが覚醒したカンナや光の螺旋はダンジョンの外でもスキルが使える。カンナが色々と試したところは『広域化』はもちろん、『剣術』などの武器スキルも使うことができた。であれば、汎用スキルしか持っていなくても訓練すればダンジョン外でスキルを使えるのでは無いかと考えたイヨとマフユは思い思いのやり方でスキルの発動が出来ないから訓練を始めていた。


「ユズキちゃんはユニークスキル持ちだから、『一点集中』が覚醒すればいいと思うんだけどね。私達はなんとかして汎用スキルを外で使えるようにならないと」


「光の螺旋に喧嘩も売ったわけだしね」


「ボス討伐の動画を渡しただけで、別に喧嘩を売ったわけじゃないと思うけど……」


「日本一のパーティがなんぼのもんだ。うちの子を引き抜こうとするやつらに負けるつもりなんてないから」


「ほら、フユちゃん先輩だってバチバチにやる気だし」


「はぁ……」


 ユズキによると、先日のボス討伐時に光の螺旋の前で全力を出したことや、撮影した動画データを渡したことは「今はこの程度だけどすぐに成長してそちらに追いつくから(カンナは渡さないぞ)」という意思表示なのだそうだ。事実、3人は広島から帰ってきてからやる気に満ちている。そんなやる気に水を差したのがユズキの実家からの呼び出しであったというわけだが……。


「ほら、カンナさん! 覚醒者の立場から私達にアドバイスを!」


 そう言って手招きするイヨにカンナは苦笑する。自分に何が起きてるのかすらまだよく分かっていないのに、アドバイスなんて碌に出来ないからだ。だけど大好きな人達が自分を守るために頑張ってくれている姿は、素直に嬉しい。カンナはよく分からないなりに一生懸命イヨとマフユにアドバイスをするのであった。

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