第1話 光の螺旋のお仕事

 広島県の山奥、光の螺旋のメンバーの待ち合わせ場所に到着した柚子缶一行。集合場所に到着するとハルカが4人を出迎えた。


「こんばんは。遠いところをわざわざありがとう」


「こちらこそ。今日は勉強させてもらいます」


「さて、光の螺旋のメンバーを紹介するね。リュウキとアリスは前回会ってるからあとふたり、こっちの無愛想なオジサンが鹿児かごヨイチで、こちらの女性が大山おおやまサクヤちゃん」


 ハルカに促され、ヨイチとサクヤが頭を軽く下げる。カンナ達もそれに倣った。


「各自のスキルは……まあ今日はいいか。見て貰えればいずれは分かると思うし。私達は普段5人で魔物溢れオーバーフローを起こしたダンジョンの処理とコアの破壊をやってるわ。あとは引退した元リーダー夫妻が事務手続き的な事を手伝ってくれてるわね。リュウキとアリスはまだ未成年だから」


「ああ、お若く見える二人だなって思ってました」


 カンナは素直に感想を口にした。パッと見で自分と同い年くらいに見えたので彼がリーダー? と疑問に思っていたが、本当に若かったのか。


「元リーダー夫妻の双子の子供がリュウキとアリスになるのよ。正直二人にリーダーはまだ早いと思うんだけど「父さんと母さんの意思はオレ達が継ぐ!」って聞かなくて」


「……それでいいんですか?」


「まあ色々と困ることも多いけど、戦闘能力はずば抜けてるし、そのうち精神的にも成長してくれれば若いうちからリーダーをやっていたっていうのは強みにもなるって考え方。私達年長者がフォローもしてるし」


 その色々と困る二人の暴走に巻き込まれたカンナとしては苦笑いをするしかなかった。


 そんな会話をしていると、リュウキとアリスが山道を降ってきた。


「あ! カンナちゃんだ! ハルカさんが呼んでくれるって聞いてたけど、本当に来てくれるなんて嬉しいな! 光の螺旋ウチに移籍してくれるって決心してくれたの?」


 アリスが嬉しそうに駆け寄って来く。カンナは曖昧に笑って誤魔化した。


「アリス。今日は柚子缶の方々に私達の活動を知ってもらうための見学だって言ったでしょ。そんなにがっついたらカンナさんも困っちゃうから」


「はーい……」


「それで、様子はどうだった?」


 どうやらリュウキとアリスは魔物溢れオーバーフローが起きているポイントの様子を先に確認していたらしい。


「うん、あれくらいなら私達だけでやれそう」


「ハルカさん達の出番はダンジョンに入ってからだな!」


「そう。じゃあ外に出てるモンスターの駆除はリュウキ達にお願いしようかな。柚子缶の皆さんは、ここでヨイチさんと待機してて下さい。終わったら呼びに来ますね」


 ハルカがそういうと光の螺旋のメンバーは心得たと言った様子でそれぞれ準備を始める。リュウキ、アリス、ハルカ、サクヤの4人は武器が入ったカバンを担ぐと山道を登って行き、集合場所には柚子缶の4人とヨイチが残された。


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「鹿児さん、でいいんですよね?」


 お留守番になって手持ち無沙汰なので、とりあえず横にいる無愛想な男に声をかけてみるカンナ。


「ヨイチで構わない」


「ではヨイチさん、えっと、今ってどういう状況なんですかね?」


「……見ていなかったのか?」


「見ていても分からないから聞いてます」


「一体、何がわからないんだ?」


 うーん、光の螺旋の人達は全体的に説明不足だなぁ。そう思いつつも聞いたら教えてくれそうな雰囲気を感じたので説明を求めてみる。

 

「とりあえず今の状況と今後の流れを順番に説明して欲しいんですけど」


「……そういうのはハルカ君の仕事なんだがな」


 そうは言いつつ説明してくれるヨイチ。もともと今回の魔物溢れオーバーフローでは数体のモンスターが外に溢れているだけである事は分かっていた。さらにリュウキとアリスが先行してモンスター達を確認したところ、その強さも大したことがなかったようで今回はリュウキとアリスの二人で倒せると判断したとの事である。


「魔物の数や強さって毎回違うんですか?」


「そうだな。ボスクラスのモンスターが1体だけ出てくる事もあれば、一層に出てくるような雑魚がワラワラと群れている事もある。基本的に強さと数は反比例するが、稀に強い魔物が複数体いる事もありそういう時は総力戦になる」


「それで、今回は数は少ないけどモンスターも強くないっていう事は当たりをひいた感じでしょうか」


「いや、あくまでリュウキ達の感覚で「なんとかなりそう」だ。数の少なさを考えれば、一般的な感覚で言えばそれなりのクラスのモンスターが溢れ出ているはずだ」


「お二人って強いんですね」


「まあ戦闘に関して言えば圧倒的だな。ユニークスキルはクセがある分、型にハマればというタイプだがそれを難なく使いこないしている」


 数が多い場合は全員で対処するけれど、今回のようにリュウキとアリスのみで対応できると判断した場合は基本的に残りの3人は戦闘行為はしないらしい。


「その場合はこんな風に待機ですかね?」


「いや、普通は移動も全員で行う。溢れたモンスターを狩り尽くしたらそのままダンジョンに入ってコアを破壊するからな。行き帰りの手間を考えたら全員で移動するのが効率的だ。今回は君たちに万が一の事がないようにと安全に配慮した結果だな」


「それはなんというか……ありがとうございます?」


「我々のことを知ってもらう大切なイベントだ。構わんよ」


「ちなみに、私以外の覚醒者を勧誘する時もこんな感じなんでしょうか?」


「むぅ……」


 言い淀むヨイチ。しばらく考えたあと、観念したように答えてくれた。


「実はリュウキがリーダーになってからの勧誘は君が初めてだ。だからこそあいつらも暴走気味に勧誘をしてしまっているんだろうけどな」


「あ、そうなんですか……じゃあ今のメンバーはリュウキさん達のご両親がリーダーの頃に?」


「まあそうなる。その辺りの話もしてあげたいが、リーダーのご帰還だ」


 ヨイチが顔を上げると、リュウキ達が意気揚々と戻って来たところであった。


「ヨイチさん、終わりました!」


「全部で7体、魔石も回収済みです。サクヤさんに探って貰って取りこぼしがないのも確認済です!」


 ピシッと敬礼のようなポーズをとってヨイチに報告をするリュウキとアリス。なるほど、一番の年長者であるヨイチが監督役を兼ねているということか。名ばかりリーダーがいつか本当の司令塔になるため、このパーティも今は成長段階というわけだ。


 ハルカがカンナ達のところに駆け寄ってくる。


「お待たせしました。ではこのあとはダンジョンに突入、そのままコアの破壊をしてダンジョンを消失させてしまいます」


「それって協会の許可は取ってるんですか?」


 ハルカは首を振った。


「無許可でコアを破壊するのが禁止されているダンジョンは、協会がいずれかの形で管理しているものに限ります。今日消失させるダンジョンは協会が……というより、今回魔物溢れオーバーフローを起こすまで誰一人存在すら認識していなかったダンジョンなので、現時点で協会の管理下に無いんです。だからコアを破壊してダンジョンを消失させても何の問題も無いんですよ」


「協会が管理していないって事は、データベースにも無いんですよね? そんなダンジョンに入って行って、いきなりコアを破壊……つまりボス討伐までするって危険じゃ無いですか? どんなモンスターが出るかとか、強さはとかそういうのが分からない状況で探索するって事ですよね……」


 柚子缶は基本的に協会が提供しているダンジョンデータベースを参照して探索計画を立てる。その際に「自分達で勝てるか」と言った想定に安全マージンを加えた上でダンジョンや討伐するモンスターを決定するため――もちろんダンジョンである以上絶対は無いが――確実に攻略できるという自信を持った上で探索に挑んでいる。しかし光の螺旋のスタイルはその真逆、出たところ勝負のように思えた。


「確かにそうだけど、外に溢れているモンスターの種類や強さからある程度は想定出来るの。そのあたりは今後も同行してもらえればカンナさんにも分かってくるとは思うわ。今日のダンジョンなら一般的にいえば中級クラスのダンジョンになるから、それこそ柚子缶のみんなでもボス討伐できると思うわ」


 どうする? と訊かれたがもちろんカンナは首を大きく横に振った。そんな行き当たりばったりでボスを倒すなんてとんでもないと思ったからだ。


 ハルカは残念、と笑うとリュウキ達に声をかける。


「それじゃあこの後は予定通りダンジョンを攻略してコアを破壊しましょう。柚子缶の皆さんも、ダンジョン内であればスキルが使えて自衛は出来ると思うので是非ご一緒に」

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