第27話 スキル習得訓練の詳細

 明日からのスキル習得訓練。前半は協会の所属探索者に3日かけて『剣術』を、1日休日を挟んで次は3日かけて『格闘術』を習得させる。2日間の休日を挟んで後半は一般公募した探索者に5日間で『剣術』を習得させる事となった。

 

「まず協会所属探索者について、春の訓練では10人とも2日でスキルを覚えましたけど、3日でいいんですか?」


 カンナの質問に札幌支部長が頷く。


「前回は探索経験の多いベテランを集めたからスムーズに行ったのかもしれない。今回は全国から、それこそこの春探索者デビューした若手も対象に召集をかけているから期間を3日間とした」


「逆に3日で覚えきれない場合は、後半の『格闘術』のスキル習得期間に引き続き『剣術』の習得を目指す事になりますかね?」


「春にやったように(※)2つの武器スキルを並行して習得させるというやり方か。あれはカンナ君の負担が相当大きいと思うし、そのやり方を公式なものにしたくないな。後半の一般公募のメンバーに混ざって貰おうと考えている」

(※第3章6話)


「ああなるほど。確かにそこに混ざって貰えば対象を広げるだけでいいから『剣術』と『格闘術』を切り替えながら使い続けるよりだいぶ楽チンですね」


「『広域化』については協会側としても未知なのだが、対象を拡大するのは負担にならないのかね?」


 支部長の質問に、カンナはうーんと考えながら答える。


「「人」を対象にするとちょっと神経使うんですけど、「場所」を対象にすると1人2人増えても変わらないと思います。一度に50人も対象にするのは初めてなので、実際にやってみないと分からないんですけどね」


 そう、今回のスキル習得訓練。前半は協会所属の探索者50人が対象だった。予め長瀬課長が全国の各支部からメンバーを選定し「技能研修」の名目で札幌に集めている。春に札幌支部のメンバーがスキルを習得したあの札幌ダンジョンの広場に全員集め、例のプレハブ小屋からカンナが50人に『剣術』を『広域化』するという計画であった。


 これは事前に「今回のスキル習得訓練、何人まで行けるか?」と聞かれた際に「あの広場に入るくらいの人数なら大丈夫だと思う」とカンナが答えた事からそれではと言う事で50人を集める事にしたのであった。実際にやってみて春と同じ10名程度までにしか『広域化』が出来なかったとしても、上限を知っておく事は今後のためにも必要なコストだと札幌支部長も長瀬課長も割り切っている。


 うまく50人に『剣術』と『格闘術』を習得させられれば、6日間で述べ100個のスキルを習得出来る事になる。これは会長達も納得した数字であった。


 ちなみに事前に50名を選定して札幌に召集していたことで、技能部長は長瀬課長自分の部下も札幌支部長とグルであったことに気付き、苦虫を噛み潰した顔をしたのであった。

  


 後半の一般公募はとりあえず40名を定員として協会のホームページで募集をかけた。「5日間」で「『剣術』スキルのみ」としたのは、一般参加者の基本的な水準が分からなかったからである。これが一般人でも3日で十分と判断できれば次回以降はそうしようという事だ。

 応募者多数の場合は抽選として、またこれ迄の探索履歴なども考慮する。合格した場合は指定した期間中――後半の5日間のことだが――自費で札幌に滞在することなどを条件として募集をかけたのだが、当日中に500名以上の応募があり、すぐに募集を締め切る事となった。この協会の対応については掲示板が荒れる事になりネット記事にもとりあげられたばかりか、「スキル習得訓練の一般モニター募集」というセンセーショナルな見出しは日本のみならず世界中のテレビでもニュースになった。


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 さておき、柚子缶がやる事は変わらない。明日の朝イチで例のプレバブ小屋に向かって春と同様のスケジュールをこなすのみである。プレハブ小屋の鍵を受け取った柚子缶一行は協会が用意してくれたホテルに移動、明日に備えて早めに休む事にした。


「夏休みの宿題とテスト勉強はこの期間に終わらせないと」


 明日の支度として、カンナは問題集や参考書、プリントが入った手提げをチェックする。1日7時間、11日間もの訓練期間中に夏休みの宿題と休み明けのテスト勉強をやってしまう。そうすれば東京に帰ったあとはユズキとデートし放題だと考えている。ユズキもそんなカンナへのご褒美として2人で旅行に行こうとカンナを励ましており、すでに有名テーマパークのチケットと園内の高級ホテルの宿泊まで手配済みだ。


「でもカンナちゃん。ぶっつけ本番で50人なんて本当に大丈夫なの?」


 マフユが心配そうに聞いてきた。


「多分ね。最近探索で色々と『広域化』を使ってるのもあって、前よりもこのスキルが当たり前になってきた気がするんだよね」


「当たり前?」


「感覚的な話なんだけど、ユズキの『障壁』やマフユさんの『氷魔法』って「今からスキルを使うぞっ!」って意識して使うけど、剣を持った時の『剣術』とかイヨさんの『毒耐性』なんかはほぼ無意識に発動してるよね? 『広域化』も前は「これを広域化するぞ!」って意識してたんだけど、今はほぼ無意識に出来るようになってきたというか」


「スキルの熟練度的なものが上がったのかな」


 イヨは「熟練度」と口にしたが、経験値やレベルがないように、スキルにも熟練度やスキルレベルのようなものは特に存在しない。しかし同じスキルを使い続ける事で慣れて来るのか、より少ない魔力で強い威力を発揮出来るようになるのは探索者の中では周知の事実でもあった。


 例えばマフユは何年も『氷魔法』を愛用しているが、その威力も燃費も、探索者を始めた頃とは比べるべくもない。


 『広域化』のようなユニークスキルは未知の部分が多いが、使い続けた事により適用範囲が広がっていてもおかしくは無いのかも知れないなと納得した。


「さて、明日も早いから今日は寝るわよ。イヨもマフユもお酒は我慢してね」


「ユズキ、一緒に寝ていい?」


「えっちな事しないなら良いけど」


「流石にマフユさんとイヨさんが隣のベッドにいるのにそんなことしないよ!?」


「私は別に隣でシても構わないよ。その場合は耳栓して寝るから」


「私はガッツリ聞き耳立ててるけど、お構いなく」


「だからしないって!」


「ほらカンナ、お姉さん方に気を遣わせちゃうから自分のベッドで寝なさい」


「はーい」


 素直に応じるカンナ。……マフユとイヨとしてはユズ×カンが目の前でイチャつくのは既に慣れっこだったし、イヨとしては推し同士の添い寝が見れるのはむしろウェルカムだったのだが。


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【適正?】探索者協会について語ろう【ピンハネ?】

 

32366:

みんな、協会のページ見たか?


32367:

まだそんな事いってるのか

とっくに申し込み済だ


32368:

あれってマジなの?

ホームページが乗っ取られたとかじゃ無いよな?


32369:

大丈夫っぽいから安心して申し込って


32370:

『剣術』スキルをただで習得させてくれるとか、本当だとしたら気前良すぎないか?


32371:

一応「新しい技術に対するモニター」って位置付けだから、治験みたいなものなのかな


32372:

なにするんだろうな?

ヤバい薬とか飲まされる可能性とかあるのか?


32373:

今日唐突に募集開始して、今週中に当選連絡、来週スキル習得って詐欺を疑われてもおかしくないレベルのスケジュールだよな


32374:

夜のテレビのニュースにもなってたな

探索者協会の会長が緊急で記者会見してたけど、詐欺じゃ無いらしい


32375:

「急に決まった事だったから事前の告知と十分な募集期間が確保できなかった事は謝罪する。次回以降の課題としたい」って次回もあるのか?


32376:

すげー質問飛んでたな


32377:

QAまとめ作った

[探索者協会会長記者会見 質疑応答]


32378:

>> 32377 有能


32379:

>> 32377 お前さん、仕事できるタイプだな



○ 37377 が作った質疑応答まとめ

Q1:本当にスキルを習得できるのか

A1:それを確認するためのモニター募集である


Q2:一般募集した探索者を実験台にすると言うことか

A2:協会所属の探索者数名は今回の手法でスキルを習得した実績がある


Q3:どのようにしてスキルを習得させるのか、ボスを倒してスキルを習得するのか

A3:スキルを習得する手法は明かせないが、ボスを倒すわけでは無いので探索による危険は低い


Q4:薬物の投与などの場合は副作用が無いか懸念する声もある

A4:薬物によるものではないが、副作用のリスクはゼロでは無い。対象者には説明をして納得してもらった者のみにスキルを習得させる


Q5:今回応募資格に「企業に在籍していないこと」とありいわゆる個人探索者のみが対象となっているが、協会とダンジョンの資源を取り合うライバルである企業の締め出しではないか

A5:募集人数が少ないこともあり、特定の企業に所属している探索者にスキルを習得させると他のすべての企業に対して不公平となるための措置で、締め出しの意図は無い


Q6:では次回以降は企業枠を設けるなどするのか

A6:次回が開催できるかは未定だが、するとしたら不公平感のないやり方を考える


Q7:「探索者としての活動経歴が1年以上あること」「直近の3ヶ月以内に探索実績があること」となっている理由は?

A7:ライセンスだけ持った事実上引退している者を対象外とするため


Q8:既に募集を締め切ってしまい、早い者勝ちになった側面がある

A8:正直に言って現時点で申し込まれた者から40名を選出するのが精一杯なので締め切らせてもらった


Q9:スケジュールが急すぎて、来週の予定に都合をつけられなかった探索者も居たのではないか

A9:スケジュールについては申し訳ないとしか言えない、それでもこういった形で募集をすることが全探索者に対する精一杯の誠意であると判断して今回の募集に至ったことは理解して貰いたい

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