第25話 夏の探索者応援キャンペーン

 探索者協会による夏の探索者応援キャンペーン。そこでコラボ動画に出演する事で協会との繋がりをアピールしつつ、今後も継続して出演するパートナーシップ契約を結んだ柚子缶。

 動画自体はこれまでに撮ってきた探索時の録画を上手く繋ぎ合わせていい感じのものをイヨが作って提出した。


 1、2回の修正はあったものの無事にOKが貰えて7月から無事に探索者協会のホームページで公開される事になり、リコから「柚子缶の配信の中で告知しても良い」との連絡を貰う。


 

「――そんなわけで、探索者協会さんのホームページの「夏の探索者応援キャンペーン」のページに私達が出ている動画がアップされるので是非見てみてください!」


「ページのリンクはこの配信の概要欄に後で載せておくね」


 配信の中でしっかり告知してアピールするカンナとユズキ。イヨが作った動画をみるとまるで子供向けの変身ヒロインが主役のドラマみたいで恥ずかしかった――しかもカンナとユズキのダブルヒロインのような扱いであったので尚のことである――が、「今まで散々ネットで顔出しておいて今更恥ずかしいとか甘えが過ぎる」とイヨに言われてしまい、リコも動画の出来をべた褒めしていたため頑張って恥ずかしさは我慢する事にしたのだ。


 ちなみに夏の探索者応援キャンペーンの動画が何回再生されても柚子缶には1円も入らないが、リコから許可を得て作成した、動画の裏側を撮ったメイキングプロモーションビデオは柚子缶のチャンネルで公開された。


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【女性配信探索者について語るスレ】


14500:

みんな、探索者応援キャンペーンのサイトはチェックしたか?


14501:

この間の柚子缶の配信で言ってたあれ?


14502:

毎年協会所属の探索者(らしい)が順番にカメラの前で話すだけの寒い動画だろ?


14503:

>>14502

詳しくて草 俺は存在すら知らなかったわ

柚子缶の動画は気合いが違い過ぎるから騙されたと思ってみてこいよ


14504:

ファ!? 俺は何を見せられているんだ……!?


14505:

あ、ありのまま起こったことを話すぜ

探索者応援キャンペーンの動画を見に行ったと思ったら熱い深夜アニメのOPが流れたかと思ったけどやっぱり探索者応援キャンペーンだった……


14506:

それな


14507:

あの曲ってオリジナル?


14508:

作曲 MAFUYU って書いてあった。マフユたんか……?


14509:

サビでカンナとユズキが鍔迫り合いしてるところとか意味わかんないwww


14510:

そこ、柚子缶のチャンネルでメイキング見てみろw

他のシーンは普段の探索の録画を切り貼りしたらしいけど、そこだけイヨ監督の要望でわざわざダンジョンに撮りに行ったらしいw


14511:

バカすw なんでそんなところに全力なんだよww


14512:

主演 KANNA / YUZUKI

作曲 MAFUYU

監督 IYO

ってアホかw


14513:

地味にマフユとイヨの才能が凄いw



14533:

探索者協会ってお堅くてつまんないってイメージだったけど、こんな風に羽目外す事もあるんだな


14534:

>> 14533

わかる 協会に対するイメージが良い意味で変わったわ

コラボ大成功だな


14535:

しれっと協会のホームページに「この度、探索者協会はパーティ【柚子缶】とパートナーシップ契約を結びました」って書いてあるんだけど、これ何?


14536:

マニアック過ぎてよく分からんけど、要は今後柚子缶と協会は仲良くやっていきますよって宣言以上の意味はないっぽい……?


14537:

それ、契約する意味あるんか?


14538:

他の一般企業がスカウト出来なくなる

厳密には出来なくは無いけど、協会にケンカ売る形になるからまあ出来ないと言って良い


14539:

協会に所属はしてないけど協力関係にあるよってアピールしてるから、自分の会社にスカウトすると協会からヘッドハントしてるような形になるって理解でOK?


14540:

大体そんな理解でいいけど、ヘッドハント自体は別に禁止されて無いからな

今回の場合は協会が進めてる企画のビジネスパートナーとして柚子缶がいるから、柚子缶をスカウトするイコール協会の企画に水を差すって形になるからもっと直接的にケンカ売る形になる


14541:

はぇー よく分からんが柚子缶はこれからも個人探索者として頑張ってくれるってことやな


14542:

企業勤め探索者のワイ、万に一つも柚子缶と同僚になれなくなって涙目www


14543:

柚子缶としても今後は企業から勧誘が来なくなって煩わしさがなくなるって事か

そもそも柚子缶ってこれまでに勧誘とかされてたんか?


14544:

あれだけ実力と人気があってされてないわけなく無い?

しかも全員クソカワイイんだぞ?


14545:

じゃあ柚子缶としても協会っていう後ろだてを得てウィンウィンって事か


14546:

もしかしてかなりしつこい勧誘や悪質な勧誘があったのかもな


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「くそっ!」


 ジュンペイはスマホを壁に投げつけた。先日の柚子缶との交渉はバカな義妹のせいで不調に終わった。


 だからと言って諦めるわけにはいかない。ある程度ほとぼりが冷めてから再度交渉がするにあたって、自分は警戒されているから社内の、出来れば同じ女性の方が警戒されずに話が出来ないかと信用できる知り合いに話を持ちかけているところだった。


 しかし『広域化』によるスキル習得のカードを明かすわけには行かない。この情報が社内で公になれば、自分を差し置いて他の人間が企画を上に上げてしまうからだ。こんな窓際部署にいる自分より、本部の中枢部署にいる者の方が決算を取りやすいのは間違いない。自分がそんな人間に勝つには、なんとしても自分の名前で柚子缶と契約してしまう必要がある。


 そう考えて以前の部署の部下や同期の女性に声をかけてみたものの梨の礫であった。


 声をかけられた方からしたら、昨年までイケイケだったが失脚して窓際に飛ばされたジュンペイは沈んでいく船にしか見えず、しかも肝心の切り札である『広域化』については情報を伏せられたまま、「勧誘したいパーティがあるから協力してくれ」と言われても触れる気が起きなかったのである。


 そうこうしている内に今回のパートナーシップ契約だ。


「これで余程の事がなければ勧誘なんて出来なくなった……。」


 それこそこの企画書、「『広域化』の活用によるスキル習得計画」を見せれば多少協会との軋轢を生む事になったとしても会社は動くだろう。しかし今さらこれを提出したら自分の立場がさらに悪くなるのではないだろうか? 「何故もっと早く持ってこなかった」「何故独断で柚子缶と交渉して印象を悪くした」と、自分を責める理由はいくらでもある。それでいて手柄は自分の手元に残らない可能性が高い。


「詰みか……。」


「なんだ、窓際部署に飛ばされて将棋でもやっているのか?」


 突然声をかけられた事に驚き顔を上げると、そこには自分と出世レースをしてきた同期の顔があった。


「……何の用だ?」


「おいおい、辛辣だな。久しぶりに会う同期なんだから歓迎してくれよ、。」


「こんな何も無いところにわざわざ来るほど暇な立場でもないだろう。」


 彼は昨年自分とコンペで争った相手であった。コンペでは自分が勝利し、鎌倉ダンジョンのプライベート化に向けて社内で動いていたがその計画は文字通りダンジョンごと消えさった。そのまま次点であった彼の案を進めることとなり、今はそのプロジェクトリーダーとして忙しい日々を送っているはずだ。


 もとはと言えばコイツがコンペで自分に勝ってくれれば、あんなタイミングで鎌倉ダンジョンが消えても会社全体の期待を裏切る形にはならなかったはずで、出世こそ無かったがここまでの失脚もなかったんだよなと筋違いの恨みを抱くジュンペイ。そんな彼の恨めしそうな視線を知ってか知らずか、同期は「超革新開発室」スーパーイノベーションルームと名付けられた資料室に楽しげに足を踏み入れてくる。


「なに、お前が困ってそうだから助けに来たんだよ。」


 そう言ってニヤリと笑った。優秀な彼はジュンペイが秘密裏にコソコソしている事に気付いていた。部下から上がってきた情報によればジュンペイは柚子缶とかいうパーティを勧誘したいと考えているらしい。彼女達が鎌倉ダンジョンの消失に関わっていた事は把握してる。そんなパーティを勧誘したがるなんて、何かあるなとピンと来たのだ。ジュンペイは特大の不運に見舞われてこんな部署に飛ばされてこそいるが、本来非常に優秀な人物である。それは昨年自分がコンペで負けた事からも明らかだ。そんな彼が窓際で腐らずに何かしているのであれば、それは逆転可能な一手なのだろう。


 あわよくばその成果を奪うつもりで「超革新開発室」スーパーイノベーションルームを訪れたわけだが、先ほどの詰み発言を聞くに、


「俺で良ければ話を聞くぜ? なに、お前なら俺から手柄を掻っ攫われるようなヘマはしないだろ?」


 軽く挑発しつつジュンペイから情報を引き出す事にする。

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