第4話 ユズキお姉さんの恋愛相談
翌日、沖縄から飛行機に乗って無事羽田に到着。バスに乗って高校に帰ったら解散である。「家に帰るまでが修学旅行だ」なんて定番のセリフを言った担任に別れを告げ、生徒達は帰路に着く。
学校を出たカンナは、自宅では無くユズキの家に向かった。マンションに着くと、ユズキは既にエントランスに出てきてカンナの事を待っていた。
「おかえり。お疲れ様」
事前にこれから向かうと伝えてはいたが、こんな風に出迎えて貰えると嬉しくなる。
「えへへ……、ただいま」
「家に帰る前にウチに来て良かったの?」
「うん。お母さん、今日も帰ってくるの遅いし」
「じゃあしっかり沖縄での土産話を聞かせてもらおうかな」
沖縄での土産話というワードに、カンナは少し顔が強張る。しかし、すぐに笑顔を作ると「うん!」と頷いてユズキと共に部屋に向かった。
「……というわけで、とりあえず海水浴をした以外は沖縄を満喫したと思うんだけどどうだろう?」
「ん? カンナ海水浴したかったの?」
「男子に水着を見られるのは嫌なんだよね。だけど海水浴はしたかったかも。泳ぐのは好きなんだよね」
「じゃあ来年の夏は私と沖縄かな?」
「いいね!」
おみやげのちんすこうを食べながら会話を楽しむ2人。ひと段落すると、ユズキは徐に手を組んでカンナに向き合った。
「それで、何があったの?」
「え?」
「話してくれた事以外にも、何かあったんでしょ?」
「なんでわかるの!?」
「わかるわよ、
と恋人に理解のある女を演じつつ、内心わからいでかと思うユズキ。カンナが無理して明るく振る舞っているのに気付かないほど鈍感でも無い。
言われたカンナは頬を赤く染めて俯いた。
「お姉さんでよければ話、聞くわよ? そんな顔して帰ったらお母さんも心配するだろうし」
「でも、ユズキが嫌な気持ちになるかも知れないよ?」
「そういう話なの?」
「分かんないけど、そうかも」
それでもカンナがこんな顔をしている方が、ユズキにとっては問題だった。
「気を遣ってくれるのは嬉しいけど、私としてはカンナが元気じゃない方がイヤよ?」
「……じゃあ、話だけでも聞いてもらってもいい?」
「もちろん」
お茶を入れ直すと改めて向かい合って座るユズキとカンナ。
「えっとね、修学旅行中ってわりと男子が女子に告白するんだよね」
「開放的な空気がそうさせるのかしら」
「どうなんだろう。まあそんなわけで私にもちょいちょいお誘いがあったの」
「お誘い? 告白された訳じゃなくて?」
「このタイミングで特に仲良くもない男子に呼び出されたら告白されるかもって思ったからお誘い自体、全部断ってたんだよね」
さらりと「告白されるかも」と言えるカンナ。ユズキは男子から告白された事はない――実は高校では幼馴染グループ内で付き合ってるという噂があったため、ユズキに淡い想いを抱く男子も特に行動を起こさなかったというだけで決してユズキに魅力が無いという訳では無いのだが。
女子からの告白だって先日カンナからされたのが初めてである。つまり「告白されるかも」という空気を察知して回避するなんて高等な技術は想像もつかなかった。
「だけど昨日……最後の夜、なんだけど、トモから呼び出しがあって。トモは私のこと好きじゃないはずだったから何か大事な話かなって思って会いに行ったの」
「そこで告白されちゃったのね」
「……うん」
悲しそうな顔で頷くカンナ。ユズキの感覚としては、仲の良い幼馴染とはいえ異性である。こちらにその気が無くても相手に恋愛感情を持たれる事はさほど不自然ではない。告白されてしまった以上これまで通りの関係では居られないだろうが、単純にそういう事情でもなさそうだ。
「私、トモはミサキの事が好きなんだと思ってたんだよ。だっていつも一緒に居るし、よくアイコンタクトしてるし」
「うん」
「なのに私の事がずっと好きだったんだって。前にそういう事じゃないって言って、安心してたのに」
そう言ってカンナはユズキにトモとの過去を語る。父親の不倫により当時は性行為に嫌悪感を持っていた事や、トモが自分に欲情していると思って一時は距離を置いていたこと、それが誤解だとわかって仲直りした際に彼は自分をそういう対象と見ていないと彼が言った事。それからはこれまで通り、幼馴染として、兄妹のような感覚で付き合ってきたのに実はずっと好きだったと言われて裏切られたような気持ちになったこと。
「つまり私に欲情なんてしないって言っておいて、ずっとえっちな目で見てたって事だよね。なんかそう言うのが全部ぐわーってなって、「嘘吐き」って非難しちゃったんだ……。よく考えたら付き合えませんとすら言ってなかったよ」
話している内に気持ちが整理出来てきたのか、少しだけスッキリした顔になるカンナ。ユズキはうんうんと聴きながらもなんて声を掛けようかと考えていた。
(多分この子はトモハル君の想いをずっと勘違いして来たんだろうし、今の話からもそれが分かる部分はあるけど……それをこの場で指摘しても仕方ないかな?)
「ユズキ、どう思う?」
「トモハル君がどうな気持ちでカンナに接してきたかは私には想像も出来ないけどさ、別に好きだからってえっちな事ばっかり考えてるわけじゃないんじゃない?
私だってずっとカンナが好きだったけど、別にいつでもえっちな事を考えてるわけじゃないわよ。カンナは私の事を好きって言ってくれるけど、私とえっちしたいの?」
「え、えええ、えっちって、えっち?」
顔を真っ赤にするカンナ。初心な反応に思わず笑いつつ、ユズキは続ける。
「あなた未成年だし、そういう話が苦手っぽいし、正直まだちょっと早いかなーって思って実は遠慮してたんだけどね。カンナがそういう事したいなら私はいつでもオッケーだよ」
そう言って上着を脱いでベッドに目を向ける。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!? そういう話じゃなくて……。それはまだちょっと心の準備がね?」
慌てて両手をぶんぶん振るカンナ。その様子に満足したユズキは上着を羽織り直して改めてカンナに向き合った。
「でしょ? 別に好きイコールえっちしたいでは無いんじゃないかな。その点だけは彼の言い分を聞いてあげてもいい気がするけど如何でしょう」
とはいえ思春期の男子の性欲を考えたら当然そういう欲求はあっただろうけれど。
「……じゃあトモは私をえっちな目で見てなかったのかな?」
「そりゃゼロじゃないと思うわよ。カンナは魅力的だし。でも年がら年中そればっかり考えてたわけでも無いんじゃないかしら」
ユズキも恋愛経験がないので偉そうな事は言えないのだが、トモハルくんが性欲モンスターに認定されてしまっているのは流石に不憫に思えたのでそこだけは指摘してあげようと思ったのだ。
「そっかなぁ……、そうなのかも……?」
カンナはぶつぶつと呟いて考え込んでいる。信頼するユズキの言葉なので素直に心に浸透して、ある程度冷静に振り返ることが出来るようになっていた。
「でも、だったらどうして前に話した時に私のことそんな風に見てないって言ったのかな?」
「それは本人に聞かないと分からないわ。でも付き合う気が無いのに「いつから私が好きなの?」とか「今までどんな気持ちで接してきたの」とか聞くのも中々に悪女なムーブじゃないかしら」
ユズキは自分の立場に置き換えて考える。もしもカンナに振られていたら、やはりそんな会話をカンナとするのは精神的に辛いものがあるだろう。
「そっか……そうだよね。うん、じゃあきちんと断らなかった事だけ謝って、改めて付き合えないっていう事にするよ」
とりあえずカンナの中で結論が出たらしい。さっきより随分と表情が柔らかくなった。
「ユズキ、相談に乗ってくれてありがとう!」
「どういたしまして。ところでカンナ」
「何?」
「カンナの準備ができたら、私はいつでもいいからね」
そう言ってベッドをチラリと見るユズキ。カンナは再び赤面した。
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