第3話

 自己紹介の時間も終わり、次の時限は役員決めとなった。


 周りのクラスメイト達は何の係をするかとか出来れば同じものにしようとか、すっかり役員決め談義に花を咲かせている。


 騒がしいのは言うまでもない。


 彼らはたかが10分の休み時間すらも喋り通さなくてはいけない使命があるのだろうか、喋らないと死ぬのだろうか…なんて。


 さすがにそこまでは思っていないけれど割とストレスだなあこの空間…




 思わず失笑しそうになったところで予鈴が鳴った。




 やる気のない担任が入場してきて、適当に挨拶をした後にゆるっと役員決めの進行が始まった。


「じゃあ今から役員決めを始めます。…まずは学級委員長から、立候補者挙手ー」


 シーン…



 さっきまでの盛り上がり具合はどこに行ったと言わんばかりに場は静まり返った。



 まあそうだよな。学級委員っていろいろと仕事ありそうだし。はっきり言ってこのクラスの大半はやりたくなさそう。



 誰もやらなそうだし俺がやろう。

 スーっと手を挙げると先生はすぐに気がついてくれた。



「……お。雨宮な。他にやりたい人は?……いない…っと。じゃあ雨宮が学級委員長な。次、副委員長」




 また再び静かになる、と思いきや今度はそうではなかった。


 学級委員長が決まった反動で男子が安堵し、少しずつ会話が増えていく。

 一方、副委員長を自分がやらなければいけないかもしれないという空気に、女子が圧迫されていく。


 いや、ここまで嫌われる役職でもないと思うけどな、学級委員。むしろ上手くいけば高校受験で使えるし役得ではないか?


 まあ女子の大半はさっきの休み時間に一緒にやろう的な約束をしているのだろう。名乗りにくいのも無理ない。



 この微妙な空気の中、先生が口を開いた。


「別に男女どっちでもいいよ。学級委員は男子と女子1人ずつって決まりがある訳でもないし。

 それとも何、この学校はそういう伝統でもあったりするの?」



 静かになる教室。目配せを始めるクラスメイト。

 困惑する俺。


 この先生割とまともな事言うのか!と感心すると同時に、副委員長を決めるための手段は提示してくれないのかともどかしくなる。



「全然決まらないな。まあゆっくりでいいよ、いざとなったら俺の授業返上でもう1時間とるから」



 あ、この人授業サボりたいだけだな。

 前言撤回。

 俺はこの先生には全く感心の気持ちは寄せていない。



「………じゃあやります」



 先生の期待とは裏腹に、意外とすぐに立候補者は現れた。


「おう、じゃあ副委員長は春川で決まりな、後は2人で進行よろしく」



 春川はるかわあきら。このクラスでは静かな方、というかあまり群がっているところも見ない男子。



 良かった、まともそうな人が一緒で。


「あ、春川君どっちやる?」


「……………黒板の方で」



 冷徹な目で俺の方を見て素っ気なく言った彼とはその後何の会話もなかった。




 ちなみに役員決めは1時間で難なく終わった。



「俺の授業返上作戦が…」




 先生、ドンマイです。

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2年3組の無気力教師 逢野悠 @ounoharu

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