#016 『VS小さな死神③』
姿を現した
一つは常に揺れ動き、もう一つは静かに佇んでいる。
常に揺れ動いている方は、先ほど自分に敵意を向けた方だろう。奴を殺さないと、安心する事は出来ない。
そう思い、襲い掛かろうとしたが、
もう一つ、静かに佇んでいる方は何なのか。
万全の状態で控え、こちらが油断した瞬間に殺そうとしてくるのではないか。
『ギュイ……』
だが──。
『ギュィイイイイ!?』
動かない魔力の塊に触れた瞬間、突如として全身が燃え上がる。
今の一瞬で反撃された。どうやって? 分からない。怖い。怖くて仕方がない。
地面をのたうち回り、
自己治癒に魔力が持っていかれ、
『キュ……』
今の反撃はまぐれだ。だって、さっき襲い掛かってきた時はあんなに逃げ回っていたのに。
そう思い、再度の突撃を敢行。
『ギュアアアア!?』
何度も地面を跳ねて消火し、跳ねる度にボロボロになっていく。
攻撃すら許されず、即座に反撃される。
闇雲に突っ込んでも反撃されるだけだ。
静かに佇んでいる方は、一向に
これまで襲い掛かろうとしてきた獲物は、必ずと言っていい程何かしらの感情の動きがあった。
だが、その変化が一切ない。それはおかしい。
あれは、生物では無いのかもしれない。
自分を混乱させる為の囮なのだろう、と。
それが
彼らの狙いに気付いた
動かない奴は罠だ。だから、次飛び出してきた奴に、残る全ての力を以て蹴り殺す。
まるで魔力が切れたかのように見せかけて、油断した所を確実に殺す。
そう
動かない
ああ、これでようやく安心する事が出来る。
そう思った
『残念、ハズレだ』
だから、その言葉の意味も、理解する事は出来ない。
──無防備な状態で。
「うおらあぁぁぁぁああああああああッッ!!!!」
次の瞬間、
『ギュァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!??』
先の折れた短剣が身体にねじ込まれ、魔力切れによって自身を防御する事の出来ない
だが、浅い。
ならば、このままで構わない。地面に触れて、魔力を回復さえすれば──。
「【火の理よ・我が身を纏いて・外敵を焼き払え】ッッ!!」
だが、その判断は遅かった。
薄い魔力が何かを唱えると、その魔力が更に薄くなっていく。最早見えない程にまで薄くなっていくにつれて、
「【フレイム・エンチャント】ォォォオオオオ!!!」
『ギュアァァアアアアアアアアアアアアアアア!?!?』
それは、囮としてでは無い、本来の魔法の使い方。
短剣に注ぎ込まれた魔力が、急速に発火、炎上を始める。
身体の内から焼き焦がす炎の激痛に、
『ギ…………ァ……』
そして、そのまま
消し炭となった身体の上に、魔力が空になった少年は倒れ込んだ。
◇
「勝った……!! やってやったぞ畜生……!!」
身体に力がまともに入らないが、歓喜に震える拳を天に突き上げる。
つい昨日までGランクだった自分が、Dランクの魔物を倒した。
正しく偉業とも言える大戦果。魔法を駆使し、戦略によって強敵を打ち倒したのだ。
『本当によくやったよ、レイン君。よくあの状況で
「ああ。あいつが現れた時にすぐ囮の炎を放出したら、こっちに視線が向けられていないって事に気付いたんだ。きっと、あいつが知覚出来ない程、魔力が薄くなっているんだろうって分かったんだよ」
『それに気付き、奴が
フレイム・エンチャントで俺の身体を模した魔力塊が一つ目の罠。
そして、二つ目の罠が、
奴は魔力を通して世界を見ている。ならば、
一つ目の罠に気付いた
それによって混乱し、自己治癒と攻撃によって魔力が切れた所に、トドメの一撃をお見舞いする。
それが、この戦闘の流れだった。
「そ、そんなに褒めてくれると照れるな……」
『ボクは褒めて伸ばすタイプなんだ。お師様がそういうタイプだったからね』
カシュアはそう言って微笑みかけてくる。照れくさくなって思わず顔を背けると、彼女はおかしそうに笑った。
『ふふっ。取り敢えず、褒めちぎるのは後にしようか。体力が回復したらすぐに迷宮、を──』
そこで、カシュアは言葉を詰まらせた。
どうしたのか、とカシュアの見ている方向に視線を向けると──。
「嘘だろ……」
視線の先には地獄が広がっていた。
木の陰から一匹、また一匹と
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