#017 『執行騎士』
【
迷宮が出来てからしばらく経つと、突如として発生するとされる原因不明の災害。
冒険者ギルドの選定したランクからかけ離れた魔物が出現したり、異常な程の魔物が出現したりなど、その種類は多岐に渡る。
それが、レインとカシュアの共通認識であり、確かにその認識で合っている。
──だが、彼らの認識で違う点があるとすれば。
一度の【
◇
迂闊だった。
俺の目の前に姿を現した
出現する選定ランクからかけ離れた魔物は
迷宮のそこら中に出現するからこそ、【
カシュアがこの事態に気付けなかったのも無理は無い。
元々、魔王が勇者によって打ち倒された事によって、迷宮は誕生したのだ。
つまり、彼女自身が迷宮に挑んだ事は無い。だからこそ、【
それでも、
『──ッ、すぐに逃げるんだレイン君!! 意識を一切あっちに向けるな! 今の魔力欠乏症状態の君なら、奴らに感知される事無くこの場から逃げられる! だから──!』
と、カシュアがそこまで言って再び硬直する。
視線の先にぬぅっと現れたのは、パラサイト・タイタンボア。
『嘘だ、そんな……なんでこんな短期間に集中して……!!』
カシュアの声が震える。
本来あり得ない魔物の出現、そして迷宮において頂点に君臨していた魔物達の
パラサイト・タイタンボア単体でも、全快の状態で挑んでも死闘になるのは確実だというのに、こんな状態で交戦すれば間違いなく死ぬだろう。
「こんな所で終わってたまるか……!」
力の入らぬ身体に鞭を打ち、無理矢理身体を起こそうとして地面に倒れ込む。
それでも、逃げなければ俺はここで終わりだ。何度も立ち上がろうと試みるが、上手く行かない。
ここで死ねと、運命がそう告げているようだった。
「カシュア、どうすれば良い……!?」
それでも一縷の望みに縋るように、カシュアに問う。
だが彼女は、口を真一文字に硬く結び、悔いている表情をしていた。
『……すまない。これはボクの失態だ。……
そして、何かを覚悟したかのように彼女は真剣な眼差しでこちらを見る。
『──だから、この代償はボクが支払う。君を何としてもこの場から生かして帰す為に、本当の本当に
「カシュア……?」
『ヴモォォォォォォォォオオオオ!!!』
その時、パラサイト・タイタンボアがこちらに気付いた。
そして、それに伴って小さな死神の大群もまた、こちらに気付く。
致命的なまでの死の津波が、目前に迫ってくる。
『お師様の守りたかった物は、ボクが守る。だから君は安心して身を委ねてくれ』
「カシュ──」
カシュアが俺の身体に触れ、何かをしようとしたその瞬間──。
「──え」
まるで、時が止まったかのようだった。
紙芝居のページが移り変わるかのように、一瞬にして目の前の光景が一変する。
小さな死神の大群やパラサイト・タイタンボアは俺の目前で
目の前の異常事態と、
(何が起きた!?)
それは、一秒にも満たない出来事だった。
余りにも早すぎて、その瞬間を見逃したのだろうか。
いや、見逃すとしても、本当に瞬きの一瞬だけだった。そんな速度、普通は有り得ない。
S、もしくはAランク冒険者でないと、こんな芸当は出来ないだろう。
「カシュアが、やったのか……!?」
カシュアが言っていた最後の手段とやらの結果だろうか。
そう思いながらカシュアの方を見るが、彼女も困惑しているようだった。
『いや違う、ボクじゃない!! これは……!!』
「すみません、危険と判断したので
「ッ!」
背後から聞こえてきたその声を聞いて、勢い良く振り向いた。
そこに立っていたのは、特殊な形状の剣を持つ、純白の鎧を身に纏った騎士。
顔を覆う兜は身に着けておらず、顔立ちから見るに俺と同じぐらいの年齢の少女だった。
まさかこの光景を生み出したのが女の子だとは思わず、衝撃が走る。
「ああ、今片付けますね」
一拍置いて、チン、と剣を鞘に納める音が響くと、小さな死神達は成すすべも無く粉々に砕け散った。
俺があれだけ苦労して倒した小さな死神の大群を、あの一瞬で片付けて見せた。
今の俺では到底及ばない恐ろしい技量の持ち主を前にして、思わず一歩後ずさってしまう。
『あれは、
「
突如として現れた人物の武器を見て、カシュアがそう呟いた。
そんな国の剣士が、どうしてこんな所に。
「『
そんな俺の疑問に答えるかのように、彼女は自分の身分を明かした。
いや、正確には耳に付けている魔道具に触れながらそう呟いていた。
その名を聞いて、再度の衝撃が走った。
『
ライト神教国を代表する【大聖堂】直属の、最強の騎士達に与えられた名だ。
そして、その頂点──第一席と呼ばれる騎士は、
そんな『
「現地の冒険者さん。情報共有、お願い致します」
氷の海原に佇む可憐な少女は、白い息を吐き出しながらそう言った。
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