第14話 エピローグ


次の日の朝、父から通話があった。


「いやー、ようやく今回の宿に着いたよ。そっちはどうだい?その、楽しくやれてるかい?」


「うん。楽しいよ。みんなやさしいし」


「そっか」


父はホッとしたようだ。


「そっちはなかなか自然が豊かだろう?昨日は何をして遊んだんだい?ポーちゃんやテイラーくんと遊んだのかな?」


アマゾンにいる人に自然が豊かと言われるのもどうかと思うが、あたしは答えた。


「んー?昨日はね、ポーと図書館に行ったよー」


「へえ、ポーちゃんは読書家なんだね」


「うん。あと、テイラーとオムライス作ったよー」


「へえ、いいなあ。もう日本食が恋しいよ」


「はは、あっ、呼ばれてる!もう切るね」


「あ、うん、それじゃ…」


あたしは父との通話を切って、下に向かった。




「さあ、とってみなさい!」


「はい!」


テイラーにネコのトイレ用シャベルをわたされて、あたしはトラ子さんのおしっこを処理した。


「ふむ、いいぞ!トラ子はおしっこをしたら鳴いて教えてくれるからな!」


「はい!ありがとうございます!トラ子センパイ!」


あたしはネコのトイレをそうじできて幸せだった。テンションも上がろうというものだ。


昨日はほんとうにいろんなことがあった。


テイラーの顔に落書きしたことから始まり、木彫りの大熊が盗まれ、ゲンゾーさんは誤解され、小春子ちゃんはこわかったし、チェリ山は根性はあるが腐ってたし、強盗は出るわ、メガネウラは出るわ、ポーは悪魔で、テイラーは狼人間だし。


あたしはぜんぶおぼえていた。記憶を消さないことを選んだのだ。父には悪いが、さっきはウソをついた。


というか、こんな濃い一日をわすれてなるものか。


最高の夏の思い出じゃないか。


よくよく考えれば、いや、考えるまでもないことだったが、モンスター一家の一員になれるなんて、最高にワクワクする!まるでアダムス・ファミリーのなかに入ったみたいだ!


ここだけの話、テイラーとポー以外も、なんらかの特殊な力を秘めているのではないかとにらんでいる。


それに記憶を消さなくてよかったことは、ほかにもある。


昨日の約束通り、ネコちゃんのお世話をテイラーに教われることだ。


「…ふふっ」


「どうしたあ!?なにを笑っているネコ世話係二等兵ィ!?笑うなんて百年早いぞぉああ!泣いたり笑ったりできなくしてやろうかああい!?」


テイラーはノリノリだった。たぶん鬼軍曹とかの設定なのだろう。というか、あたしのへんなテンションに合わせてくれているのだ。


透子さんに「テイラーうるさい~」と言われてもやめる気配はない。


ほんとテイラーって…。


「どうしたぁああい!?」


「ありがとね、テイラーお兄ちゃん」


テイラーは一気に真っ赤になった。とても熱そうだ。


あたしはついニヤリと笑う。


「なんだいなんだい。テイラーだけお兄ちゃん呼びとはずるいじゃないか。ほら、ボクのこともお姉ちゃん、いや、お姉様とよんでごらん…」


突然背後から現れて、ポーはあたしをうしろから抱きしめた。


あたしはじっーとポーのうつくしい顔を見つめた。


そして、一気にポーの顔を引き寄せると、ポーのほっぺたにキスしてやった。


「な、な…!」


ポーは真っ赤になった。意外にも攻められるのは弱いみたい。


「ポーお姉様、油断大敵でしてよ」


あたしはまたもニヤリと笑った。


ユッコさんがヴィヴィをかかげて近づいてくる。あたしはヴィヴィの小さなアンヨにタッチした。勝利の感触はプニプニしていた。ヴィヴィはムスッとしていた。


この屋敷沢家についてすこしわかったことがある。


この家族はだれかをおどろかせることが大好きだ。


そして、まだまだわかっていないことがいっぱいある。


でも、それでいい。


だって、夏休みはまだまだある!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏休みのパープルアイズ 楽使天行太 @payapayap

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ