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つむぎも眠気をこらえられなくなり、あくびを連発し始めた。蒼は空が白み始めたら起こすと約束し、つむぎはアルミブランケットを頭からかぶって、寝た。起きているならともかく、アルミブランケットだけでは風邪をひく。蒼は2人の上に新聞紙を何枚もかけ、さらに持ってきておいた寝袋を開いて毛布にしてかけた。それでも心配だったので膝掛けをかけ、その上にブルーシートをかけた。もうかけるものはない。
美少女2人が寒空の下で仮眠しているのだから蒼の責任は重大だ。防犯上、寝ることは決して許されない。日の出まで余裕だね、みたいなことを言ったが、それは3人とも起きている想定での話だ。コーヒーを入れて眠気を覚まし、少し、ギターの練習をする。流れ星探しでけっこう時間を潰したが、まだ4時過ぎだ。初日の出まで3時間近くある。頑張るぞ、と思っていたら、普段、犬の散歩で会う男の人に声をかけられた。こんな早い時間に女の子も一緒にいて、不審に思ったのだろう。蒼が事情を話し、1人だと少々不安だと漏らすと笑って、しばらく一緒にいてくれることになった。おとなしい大型犬でも1人と1匹がいてくれることが心強かったし、眠気も覚めた。お茶をごちそうした後、犬のリードを貸してもらってちょっと歩いて、犬と飼い主と一緒に遊んでいるとだんだんと東の空が明るくなってきた。目が覚めたとき、見守っていた騎士は1人の方がいいよね、といい、男の人と犬は散歩に戻っていった。
日の出までまだ1時間ほど残っていたが、蒼は2人を起こした。空が白み始めているのを目の当たりにして瑠璃は、寝ちゃったんだ、とばつが悪そうな顔をしたあと、幾重にも重ねられた防寒対策に驚いた様子だった。つむぎは目をこすり、眼鏡を探してかけると声をあげた。
「きれいですね」
「つむぎと一緒にこの時間の空を見られて嬉しい」
「細野くんとは何度も見ているものね」
蒼は聞こえなかったふりをした。
「素直に言葉をうけとってよ」
「ごめんなさい」
おどけた様子でつむぎが謝る。会話もかわいい。
蒼は2人のリクエストで紅茶を入れ、手渡す。
白かった空が下の方から赤さを増していき、日の出が近いことを知らせている。うっすらとかかった雲が、オレンジ色に染まると河川敷はかなり明るくなっている。だが、まだ日輪は街の輪郭から上に見えていない。
3人は紙コップを手にじっと東の空を無言で眺め、日の出の時間を過ぎ、少ししてから瑠璃と蒼とつむぎの顔を太陽が照らし出した。
「あけましておめでとう!」
瑠璃が蒼とつむぎを交互に見て言った。蒼は大きく頷いた。
「今年もよろしくね」
つむぎは満足そうに頷き、言った。
「ごちそうさまです」
「なんで?!」
蒼と瑠璃は同時にツッコミを入れた。
それからほどなく七輪の火が落ち、完全に灰になった。
「じゃあ、家に帰って寝るとするか」
蒼は片付け始め、女子2人も少々手伝った。折り畳みコンテナに全ての道具と残った食べ物を詰め、ギターと一緒に自転車の荷台にくくりつけ、帰り支度が完了する。堤防上の道路に出るとつむぎが逆方向なので最初に別れた。次に堤防を降りるのは瑠璃だが、もう少し時間がある。
「楽しかったし、きれいだった。星も初日の出も」
瑠璃が声を弾ませた。
「まだ終わっていないよ。初詣に行くはずだったんだよね? もうちょっと一緒にいようよ」
瑠璃は軽く驚いたように口を開けた後、小さく頷いた。
そして自転車で降りられる斜面の道を下って、少し堤防沿いに歩き、小さな祠に至る。これまた小さな鳥居の額に『水神宮』と彫られている。
「水神様に新年最初のご挨拶だね」
蒼は頷いて、二礼したあと、拍手を打ち、拝んだ。
瑠璃には寄り道になってしまったので来た道を引き返し、別れる前に蒼は言った。
「今度は学校で、かな」
「冬休み中にもう2、3回は会うかもよ」
うん、と蒼は大きく頷き、瑠璃は笑って手を小さく振り、去って行った。
蒼は別れがたく、その場で見送っていた。
振り返ってくれないかな、そう考えてしまっていた。
曲がり角の前で、瑠璃が振り返った。
蒼は大きく手を振り、瑠璃も負けずに大きく手を振った。そして角を曲がっていき、彼女の姿が見えなくなった。
今年は受験もあるし、その前に、3年生になったらクラス替えもある。それでも蒼はきっと、今年はいい年になるに違いない、と思った。
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