第20話 コーラー

 恐る恐る...店内に入った。


 インリンに「「אܒجδאܒجδאܒجδאܒ」の下の、「麻璃奈の店」って文字を読めるか」と聞いてみたら、「あれって文字なのか?イラストだと思っていた」と言われた。


 まあ読めないよな。クラリスとメルは「主様の国の文字ですよね」と、囁くような声で俺に伝えてきた。2人は俺の奴隷として、言語能力を付与されている。だからすぐに気が付いた。


 とりあえず、店に入ってみよう。ドアを開けると、店内にいたおそろいの作務衣サムエを着た男女が一斉に振り向き、「はい!いらっしゃいませ~!」と、日本の居酒屋のように語尾を延ばし、イントネーションを上げて歓迎してくれた。


 お酒は二十歳からだけど、家族と一緒に晩御飯を食べがてらに行った、居酒屋の活気を感じた。


 店内は賑やかで、皆が楽しそうに食事をしている。ただし、男性は獣人の従業員以外はいないようだ。そしてここに来る客たちは店内に入ると仮面を外すようだ。だから俺が入ってきたら、慌てて仮面を付けようとする客が現れた。


 その様子を見たインリンが、「この方は大丈夫だよ。目で見るようなお方ではない。だから連れてきた。あたいが保証するよ」と、大声で言った。


 インリンの言葉を聞いた瞬間、客たちはほっとした表情を見せ、仮面をテーブルの上に置き、食事を再開した。


 しかし、店内の様々な所から、「うわっ、凄い男前のお兄さん♡」や、「獣人の皆もイケメンだよ!」、「獣人の一部は奴隷かい?高級な首輪をしているよ」など、店内から聞こえて来る。


 更には、「あのイケメン、没落貴族?インリンが大金をはたいて買ったのかい?」っという声も聞こえてきて、俺たちがとなり、店内が一気に盛り上がった。


 各テーブルから葡萄酒やハチミツ酒、エールなどを頂戴と、オーダーが入る。


 そんな忙しい中、一人の従業員の獣人男性が俺たちの元へ近寄ってきた。「お客様達は18名ですか?ああ何だ、インリンさん達じゃないですか?えーと、どういうご関係でしょうか?皆さんでお食事を一緒にされるのでしょうか?


 従業員は、俺たちの集団に向かって聞いてきた。


 するとロジンが、「予約したロジンですが、訳があってインリン様達と合流しました。私たちの主人と一緒に食べることになり、インリン様達と共に食事をしたいのですが...可能でしょうか?」と従業員に聞いた。


 秘書みたいだなロジン。


 従業員は、俺の顔を見つめて考えているような素振りをみせた。


「お客様、あの失礼ですが、気分など悪くないでしょうか?無理やり連れてこられたとかじゃないですよね」と心配するような表情で俺に聞いてきた。


「ああ、ありがとう。俺は全然大丈夫だ」


 俺に対してじゃなく、周りに対して失礼だと思うが...。まあ、あまり言及は避けよう。


 いや、俺からすれば、ここにずっといたい。まるで楽園のような場所だから。


 ここには、クラリスやメイ、インリンやサラほどではないが、大学生やOLくらいの綺麗なお姉さんたちが勢ぞろいしている。しかも、メリハリのあるボディーの者が多い。これが天国というものなのかな?


「俺が周囲を見渡していると、インリンが従業員に対して、「大丈夫だよ。このお方の仲間の方々だ。皆信頼できる人たちだよ。あたいが保証するよ」と言ってくれた。


「なら、いつもの2階でいいですか?2階なら20人でも30人でも入れますし、一応マリナ様には告げておきますよ」と彼はインリンに返答した。


 従業員の男性はザイフという虎族の者らしい。俺から見ると格好がいいが、人族から見るとブ男の部類に入るそうだ。


 更に、従業員だろうか?可愛らショートボムヘアーの女性が、元気よく俺の方に近寄ってきて、「2階にご案内します!」と言った。


「何だ、ローファンかい?早速旦那に目を付けたね」と、やれやれという表情でその女性を見つめ、溜息を吐いた。


「旦那、彼女はここの従業員で、ローファンという白豹族の娘だよ。まあ、あたい達と同じくブサイクだから、男に見向きもされなくてね。でも、積極的だからよく問題をおこすんだよ」


 インリンはそう言いながら、ローファンという名前の女性を俺に紹介してくれた。


 目の前には、美しくて野性味あふれる女性が立っている。彼女は頬を少し赤くして、お盆を両手で持ち、口元を覆い隠している。そのクリンクリンとした瞳は深い緑色で、好奇心の旺盛さが伝わってくる。


 ローファンは18歳だと言った。獣人族の18歳は、まだまだ子供のようなものだ。何でも興味を持ち、遊びにも性にも積極的なお年頃らしい。


 その対象に俺はロックオンされたようで、終始俺の方を見続けてくる。可愛いけど、ストーカー行為はやめてね。


 あと、獣人と言っても、ザイフのように明らかに獣人とわかる者もいれば、ローファンのように、耳と尻尾以外は人間と大差のない者もいるようだ。同じ獣人でも色々た。


「どういう事よ、インリン!仮面も付けずに、信じられないぐらいの男前を連れて来て...しかも私を見ても嫌な顔、一つしない。いや、むしろ照れているじゃない。もしかしたら...私への供物?」


 こわいこわい。


 俺が少し引いたような表情を見せると、彼女は、「じょ、冗談ですよ。白豹ジョークですよ。コホン!それでは2階にご案内します」と言った。


 俺が「ありがとう」と言うと、彼女は持っていたお盆を落とし、「ちょ、ちょっと、こんな素敵な人族の殿方から、お礼を言われちゃった♡」と言って、尻尾をぶんぶん振って喜んだ。


 コロみたい。コロが俺の視線に気が付いたのか、「く~ん♡」と言って、同じように尻尾をぶんぶん振って喜んだ。うん、2匹とも可愛い。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「へへっー、ローファン、あたいなんか手を握られたんだぜ!」と、インリンはどや顔を決めた。「う、うそでしょ」と驚いて、折角拾ったお盆をまた落とした。


 お盆は偶然にも俺の方に転がってきた。俺がそれを拾ってローファンに渡そうとした時、彼女はお盆ではなく俺の手を握り、「よ、よろしければお名前を教えていただけますか?」と尋ねてきた。


「智也ですよ。よろしくお願いしますね。ローファンさん」そう彼女に伝えた。


「はい、こちらこそよろしくお願いします♡智也様♡」


「こ、こらローファンてめ―!どさくさに紛れて何してんだ!早くあっちに行け!」


「ふふふ。私も手を握ったわよ。白豹族は超積極的なのよ。智也様、後ほどお伺いしますね♡」


 本当に食べられそう。


 インリンは「もう二度と来るな、てめーは!」と、大声でローファンに向かって叫んだ。


「もう困ったものですよ。ローファンには」と、少しげんなりとした表情でザイフは言った後、「私が2階にご案内致します」と階段を登り始めた。


「あと、マリナ様の確認も取れました。「ゆっくりとしていって」とのことです。ただ...こんなことはまれですよ。よほどの常連にならない限り、2階にあげる事なんて...。マリナ様も何かを感じたのでしょうかね...」とザイフは付け加えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はい、どーぞ」と言っておしぼりをローファンが持って来た。本当に日本の居酒屋みたい。「智也様もどーぞ♡」そう言って俺の前に来て、俺に直接おしぼりを渡してくれた。


「よろしかったら、身体全体を丁寧にお拭きいたしましょうか?ひい!」


 こらこら、クラリス殺気を放つな。


「冗談です。白豹ジョークパート2ですよ~」と、クラリスに怯えながら俺に話しかけてきた。


「あと、飲み物や食べ物はいかがいたしますか?」そう聞いてきた。まともな会話に戻った。


「とりあえず、俺達は初めてだから、お任せでお願いするよ。何かお勧めの物を沢山持って来て欲しい」


 うちの新人たちは最近、黒パンとチーズと干し肉しか食べていないから。大量に肉や魚などがあれば、食べさせてあげたし。


「あと、お酒も持って来てあげて。ただ、俺はアルコールが含まれていない物を」


 獣人達によると、お酒は豊作の年の収穫祭に出る程度で、凄く贅沢品らしい。このマリナの店には、エールやハチミツ酒、それに葡萄酒などがある様だ。エールって地球でいうビールのことだろ?異世界って感じがするな。


 正月などに親戚のおじちゃんにコップに注がれて飲んだけど、美味しいとは思わなかった。まあ、無理して飲む物じゃないよな。俺は水でも、お茶でもなんでもいい。


 ただ、こちらの世界では飲酒においての年齢制限は無いようだ。俺は飲まないが、クラリスやメルが飲みたいなら飲めばいいと思う。


「ご主人様、その、本当によろしいのでしょうか?私たちは奴隷の身分ですよ?まだ何も仕事をしていないのに、好きな物を食べていいなんて...」と、神妙な表情を浮かべながらカクが聞いてきた。


 まあ、他の奴隷たちのことは知らない。ただ、俺が美味しい物をたくさん食べているのに、後ろに立たせたり、軒下に待たせておける神経が俺からすれば信じられない。俺の奴隷なら、一緒に沢山食べて幸せな気分に浸って欲しいと思う。


「今日の主役は君たちだ。たくさん食べてくれればいい。悪いが俺の命令に従って欲しい。ただ、納得のいかないことはちゃんと言って欲しい。許可するから」

 

「かしこまりました。では...たくさん食べさせて頂きます」そう真面目に返事をして、深々と頭を下げてきた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それにしてもインリンやサラたちは、ここの従業員達とも仲がいいようだ。サラに聞くと「殆ど毎日、仕事が終わるとここに帰ってきます。あたしたちはここの常連なんです」と教えてくれた。


「他の飯屋でもインリン姐さんの顔で飯は食べれます...けど、陰口やら嫌がらせを受けるし、何よりも仮面をかぶりながら、気を使って食事をしないといけなくて。美味しいご飯もまずくなるんですよ」と、苦々しい表情をしながら俺に教えてくれた。


 うーん。ちょっと暗くなるような質問をしてしまったかな。


 そんな話題を変えるかのようにクラリスが、「「マリナのお店」って、特に何が美味しいんですか?」と、インリンに話しかけた。


 クラリスは「マリナの店」のメニューに興味深々だ。食いしん坊キャラだったようだ。クラリスはよく奴隷時代、お腹がもったなあ。一応今も奴隷か...。「食事って2日に1回だったんだろう?」と尋ねると、教会で差し入れがあった様だ。


「魔力枯渇を起こすと、黒パンがもらえました。そのため、魔力が枯渇すると黒パンを食べて回復魔法をかけるを、私は繰り返していました。その結果、胃が大きくなり、どれだけでも食べられるようになりました。しかし、体重は増えず胸だけが大きくなってしまいました」


「でも、そのおかげで主様を喜ばせることが出来ます。今では教会に感謝をしております」とクラリスは言い、俺の方を向いてにっこりと微笑んだ。


 俺は少し気恥ずかしくなり「メルも沢山食べなよ」と言うと、「すごく楽しみです!クラリスお姉様も言われておりましたが、私たちが楽しんで食事をとるなんて初めてです。すごく嬉しいです!ご主人様とお会いしてからすごく幸せです♡」


 メルはそう言って俺の顔を見てニコッと笑った。とてつもなく可愛い。は~、俺も幸せだ。


 これからどんな食事が運ばれてくるのか、その話で盛り上がっている俺たちに、インリンが話しかけてきた。


「ここの料理って変わっていてな、調味料に聞いたことのない物を使っているんだよ。「自家製マヨネーズ」や「なんちゃって味噌?」、「醤油っぽい?」、「ケチャップもどき」など、変わった調味料があるんだ。それらがまた美味しくてさ」


 何でもマリナが考案して、作っているらしい。


 もう確定じゃんか...。地球人、それも日本人だ。俺以外にもいたんだ。ナイメール星に。しかもマリナは、ナイメール星に馴染んでいるようだな。


 まあ、あとで聞いてみるか。22,23歳位ってさっき言っていた。俺よりも少し上だな。外見は好ましくないと言っていたから、俺からすればきっと、そうとうな美人さんだろう。


 そんなことを考えているとザイフとローファン、それにあと数人の従業員達が大量の料理と、飲み物を持って来てくれた。さあ皆食べよう!と思ったら、「旦那、挨拶を頼むよ」とインリンに言われた。そういう仕来りはナイメール星にもある様だ。


「カク、モリジン、ヤーロン。仲間になってくれてありがとう。あとロジン、ワイジン、ヨハン、それに「一獲千金」の皆も。せっかく出会ったんだ。これからも頼むよ。さあ、今日は皆で美味しい物を、たらふく食べよう!」


「「おー!」」


「く~!」


 宴会が始まった。皆すごく楽しそう。もちろんメルやクラリスもだ。コロもすごくご機嫌だ。


 俺の目の前には見たことのある料理が並んでいる。うわ唐揚げじゃんか。それに、おにぎりもある。


 やっぱり米からでしょう!おにぎり、いただきま~す。



 ぱく。もぐもぐもぐ...。うん美味しいが...。これはお米じゃないぞ?やはり異世界では、お米の調達は難しいのか?これはもち麦か?それと野菜みたいな味がする?カリフラワーライスか?


 凄いな。モチ麦とカリフラワーライスを半々に混ぜて、ごはん風味にしている。並々ならぬ努力だな。すごいなマリナ。


 唐揚げは竜田揚げだ。それにタルタルソースもある。うわ!ハンバーグにピザまであるよ。すごい!日本の居酒屋だよ。すごいクオリティだな。


 うわっ!かつ丼もどきまである。たまらないな。隣で食べているクラリスはもう、スプーンが止まらない様だ。スプーンを動かすたびに、お胸までプルンプルン動く。ついついそっちに目がいってしまう。


 他の皆も幸せそうだ、特に豚族のメンバーは泣きながら食べている。どれ、明日から村に帰るんだ。少しお土産用に包んでもらうか。


 ローファンに、「からあげとおにぎりを沢山持ち帰りたい」と言うと、「ありがとうございます!」と言って両手を握られた。両手を握られる必要性はあったのかな?


 そんな俺とローファンのやり取りを見ていたインリンが、「お前は下で、おにぎりを死ぬ気で握ってこい!」と言って、ローファンを追い出した。


「美味しいだろ?ここの味は絶品なんだよ。だけどあたい達は、どんなに食べてもあいつ等みたいには太れないんだ。顔は諦めているんだが、せめてプロポーションぐらいと思ってここで沢山食べているんだけどな。胸ばかり成長しちまって」


 そうインリンは、自分の胸を見て嘆いている。そんなご立派な張りのある胸が残念だなんて...どんな教育をしているんだ?ナイメール星は。けしからんなあ...。


「だ、旦那は全然平気なようだな。あたい達とご飯を食べても。他の者達なんて、「お前らと食べると飯が不味くなるって」一緒に食べようとなんてしないのに...」


 そう驚いた表情でインリンは、眼をパチパチとさせた。全然平気だし、逆に天国だよな。


「主様は、まったく気にしていませんよ。はい、主様あ~ん♡」と、自分のスプーンでよそったスープを、俺の口の前に持って来た。恥ずかしいけど口にいれた。


「だ、旦那!凄いな。本当に平気なんだな。男性と一緒にご飯を食べるってこんなに幸せなんだな。旦那!気に入ったぞ!何でも困ったら相談してくれ。あたい達は自分達で助け合って暮らしている。専門的に特化している者の知り合いも多いからな!」


「ありがとうインリン。そして「一攫千金」の皆。沢山食べておくれよ。元々はインリンがくれたダイヤのお金から、夕飯代は払うんだ。結局はインリンの奢りだからな!」


 俺は2階にいる全員に声が届くように、意図的に大きな声で言った。その声は部屋中に響き渡り、皆の耳にしっかりと届いたようだ。


「そうなんですかい姐さん!ありがとうございます。智也さんも、ごちになります!」


「姐さん、ありがとうございます」コールが、いたるところから聞こえる。インリンは照れ臭そうに俺を見つめた。


「わざわざ言わなくてもいいのに...あたいをたててくれて。本当に旦那はいい奴だな...。気に入ったぞ!」そう、また俺に向かって言ってきた。


 その光景を見ていたサラが、「もう何度目ですか。元から気に入っているでしょ。知っていますよ。皆」唐揚げを口にくわえながら、呆れた表情をしながらインリンに言い放った。


「な、何を言うんだてめえ!サラ!」


 真っ赤な顔でインリンは、ポカポカとサラの頭を叩いている。


「い、痛いですよ姐さん!もうすぐにムキになるんだから」そう叩かれながらも、唐揚げの2個目をしっかりと口の中に入れている。


「姐さん~!こっちにも顔を出して下さいよ!」と、遠くの席の者達がインリンを呼んできた。


「おう!そっちに行くよ」そう言って席から立ち上がり、呼ばれた席の方にコップを持って向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 口調がチャキチャキとしていて活気のあるサラは、インリンの妹分的な存在だ。しかし、彼女の見た目は可愛らしい狸顔でショートボブ。大きな瞳で目じりが少し下がっている。そのため、優しさと柔らかさを含んだ、おっとりたした雰囲気を周囲に与える。


 サラの魅力は、彼女の態度と容姿のギャップにあると思う。それが彼女を一層魅力的に見せている思うのだが...。ナイメール星では、その魅力が十分に評価されていない様だ。


 サラも身長が高く、180cmはあるだろう。いや、182mはあるだろうか?本当に背が高いな。本当にこっちの世界の女性は背が高い。背が低い者でも女性なら160cmは優にある。いいな...羨ましい。


 あとサラは、メルやクラリスと引けを取らないほどの、破壊的なお胸を持っていらっしゃる。


 サラの顔立ちや、プロポーションは非常に高いレベルにあると思うが、こちらの世界だとインリン同様に、究極のブサイクに見なされているんだろうな。


 だから「一攫千金」の中で、インリンとサラの仲が、よくなった理由の一つなのかもな。


 インリンが席を離れると同時に、サラが「本当にあの時はありがとうございました」と言って深く頭を下げてきた。それに対して、「気にしないで」と俺は軽く返した。


「私はインリン姐さんに、大きな恩があります。小さな頃、両親からブサイクという理由で捨てられ、鉱山で働いていました。ただ、採掘作業は非常に過酷な労働で、体調を崩した時に高熱が出て...」


 サラはそう言ったあと下を向き、声を詰まらせた。当時を思い出したのだろう。それに今までのチャキチャキとした話し方とは全く異なり、外見に合った優しくおっとりとした話し方だ。


「奴隷だし、ブサイクだし...治療もしてもらえず、もう...終わりかなーと思った時に、姐さんが稼いだダイヤを売って、ポーションを買って治しくれました。優しいお方です。それ以来少しでも姐さんに近づこうと、態度や言葉使いを真似て...」


 サラはそう言って、俺の仲間や「一攫千金」たちと騒いでいるインリンを見つめた。


「あたし...私も...あなた様に、智也様に惚れました。でも、姐さんが幸せになるのが最優先です。姐さんをお願いします。絶対に尽くすタイプです。姐さんも仲間に加えてあげて下さい!」


 そう、俺の目を真直ぐに見つめて言ってきた。


 サラ...。


「す、すみません。しみったれた話になってしまって。すぐにとは言いません。考えておいて下さい。そ、それよりもたくさん食べましょう。メニューを見ましたか?色々書いてありますよ」


 サラは照れくさいのか、急に早口になり、メニューを俺に渡して来た。


 へー色々あるな。どれどれ...。


 チーズ盛り合わせ

 木のみの3種盛り

 ゆるく炙ったチーズとジャガイモ和え

 うちの店お勧めサラダ

 ジンジャーをまぶした肉炒め

 コーンサラダ

 ラーメン(塩あじ)

 たまごスープ

 飲めるほど煮込んだオークの角煮

 無限ポテト盛り


 何だか...まとまりのないメニューだな。肉料理と、サラダ、スープなどがごちゃごちゃだ。ラーメンまであるじゃないか。


 何でも、店主であるマリナがメニューきを作ったらしい。「それに「並べている順番にも意味があるんだよ」ってマリナは言うんですけど。あたしには何のことだか」とサラが教えてくれた。


 へー意味があるんだ。意味が...。へー...。



 気がついてしまった...。



 左の一番頭を読んだら「ち・き・ゆ・う・じん・こー・ら・た・の・む。つまり「地球人、コーラー頼む」だ。コーラーを注文しろという事なんだな。


 俺は慌ててお品書きをパラパラとめくった。無い、コーラーなどメニューに見当たらない。


 同郷に対しての、マリナからのメッセージ何だろう。


 それならば...頼んでみるか。合ってみたい。俺よりも早くからナイメール星に来ていた地球人に。色々聞いてみたい。


「すみません。コーラーをお願いします...」


 ザイフに注文をした。するとザイフは、「コーラー?そんなものメニューにありましたか?」と、俺に対して少し困ったような表情をしながら聞いてきた。


「いえ...多分、マリナさんに言えば分かると思いますよ」と、ザイフに告げると、「はあ...」と言いながら、下に降りて行った。


 すると1分後...。


 ガラガラガッシャーン!バタン!バタバタバタ!


 階段を駆け上がる足音が、驚くほどの勢いで近づいてくる。ついに、対面の時が来た。マリナさん、いや、麻璃奈さんか...。

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