第40話 アテリカ攻防戦①

西暦2027(令和9)年2月11日 要塞都市アテリカ西部


 その日、晩冬の夜を越したアテリカとその周辺は、霧に包まれていた。


 多くの市民が寒さに震え、日本よりエラノスを介して購入した電気ストーブで暖を取る中、西より幾つもの遠雷が響く。だがそれは落雷によって発せられたものではなかった。


 直後、郊外のみならず城壁に幾つもの爆発が起きる。それが砲撃による被害だと把握出来たのはごく少数だった。


「敵襲!魔王軍が攻めてきたぞー!」


 報告を聞き、第16師団隷下の混成部隊であるアテリカ戦闘団はどよめく。


「まさか、此処にも攻めてくるとはな…」


 特別地域方面における戦力増強策の影響もあり、訓練指導やら魔獣駆除任務で功績を積み重ねていた米田三等陸佐はそう呟き、即座に指示を出す。


「先ずはアテリカ当主に連絡を繋ぎ、情報を共有せよ。相手は現代兵器を使う、我々がアテリカを裏切った様に見せかけて仕掛けてくる可能性が高い。常に用心しながら応戦せよ」


「了解!」


 アテリカ戦闘団の規模は、魔王軍が転移魔法を用いて奇襲を仕掛けてくるという話もあり、2個普通科中隊と1個戦車中隊で構成される機械化歩兵部隊となっている。魔獣の駆除には戦車の火力も使えるからである。それだけではなく、対ワイバーン迎撃の戦闘データをもとに開発された26式自走高射機関砲からなる高射特科小隊もいる。出来る限りの時間稼ぎは出来る筈だった。


 はたせるかな、西から現れた魔王軍の軍勢は、自衛隊に比して強大だった。T-72を先頭に立たせ、BMP歩兵戦闘車が続く。遥か後方からは自走榴弾砲が152ミリ砲弾を投射し、市街地や城壁へ損害を与えていく。そして戦車部隊の先頭が市街地を目前としたその時、茂みより炎が発せられた。


 幾つもの徹甲弾が真横を捉え、火柱とともに砲塔が宙を舞う。幸運にも転輪やサイドスカートで車体への貫通を防いだものもいたが、それは単なる延命策にしかならず、直後に城壁上より数発の01式軽対戦車誘導弾が飛来。天井より食い破られる。


 戦闘は、始まったばかりだった。

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