第36話 礼文島沖海戦②

西暦2027(令和9)年1月9日深夜 礼文島沖合


 海上自衛隊の反撃は直ぐだった。


「各艦、撃ち方始め」


「SSM、発射サルヴォ!」


 命令一過、7隻の護衛艦より2発ずつ、艦対艦ミサイルが放たれる。艦中央部の斜めに設置された四連装発射筒より、ロケットブースターによって射出された90式・17式艦対艦誘導弾は、一定の距離にまで到達するとブースターを排除。ターボジェットエンジンに切り替え、マッハ1の音速でロシア艦隊へと迫る。


「敵艦、ミサイル発射!数は凡そ14!」


 「ワリャーグ」の艦橋に報告が届き、提督は即座に指示を発する。


「各艦、対空戦闘!」


 命令一過、「モスクワ」の中央部に設置されている回転式のミサイルVLSが稼働。回転の後にハッチが開かれ、1発のミサイルが射出される。スラヴァ級ミサイル巡洋艦の艦対空ミサイルはS-300F『フォールト』というもので、地上配備型の対空ミサイルを原型としている。発射時に高圧ガスでミサイルを空中へ押し上げ、直後にロケットブースターが点火。ヘリコプター格納庫上に装備するイルミネーターが狙う方向へ飛んでいくというものである。


 同時に行動を開始したのはソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦であった。艦前部と後部に装備する古めかしい単装ミサイル発射機に『ウラガーン』艦対空ミサイルを装着し、旋回。複数装備するイルミネーターで照準を定めるや否や、2発発射する。数分後、水平線の彼方にて互いのミサイルが激突。或いは近接信管が作動し、黒い花が咲き乱れる。


「第二波、来ます!」


「方位334より、複数の航空機が接近中!敵戦闘機が空対艦ミサイル攻撃を仕掛けてきた模様!」


「フリゲート艦、対応せよ!」


 命令が飛び、6隻のステレグシチー級フリゲート艦は自身のレーダーで捕捉。艦前部のVLSハッチを開放し、イルミネーターで狙いを定める。


発射ヴィストレル!」


 命令一過、3K96『リトゥード』艦対空ミサイルシステムの一部を成す専用VLSより、1隻当たり2発の艦対空ミサイルが撃ち上げられる。だが第一波のミサイルはまだ数発が潜り抜けており、第二波の直ぐ後に第三波が迫る。対応能力は直ぐに限界を迎えようとしていた。


 しかもこの時、第3航空団に属するF-35A〈ライトニングⅡ〉戦闘機も、4発のJSMステルス艦対艦ミサイルを装備して出撃。複数方向より飽和攻撃を仕掛けて来ていたのである。


 はたせるかな、2発のミサイルが目視できる距離にまで接近。AK-630・30ミリCIWSが対応に走ったものの、「ワリャーグ」の空になったミサイル発射筒と後部ヘリコプター格納庫を破壊する。続いて2隻のフリゲート艦にも1発ずつ命中し、被害は拡大していった。

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