第30話 第一次ノルグス会戦

西暦2026(令和8)年12月8日 ラティニア帝国北西部 ノルグス近郊


 魔王軍がエラノスへ強襲を仕掛けていたその頃、帝国北西部に位置する城塞都市ノルグスにおいても戦闘が繰り広げられていた。


「突撃ぃー!あれは帝国軍でも精強と名高い皇女セリアの親衛隊!忌まわしき勇者の血を継ぐ皇族の首級みしるしを勝ち取り、御名おんみょうを上げるは今ぞ!」


 ハイオークの指揮官が叫び、同時に数十両にも上る装甲車両の集団が突撃を開始する。T-55やT-62といった骨董品にも等しい旧式主力戦車を先頭に立て、BMP歩兵戦闘車やBTR装輪装甲車が続く、ソ連軍形式の突撃陣形に対し、セリア率いる親衛隊は城壁上より必死に攻撃を放つしかなかった。


「相手は鉄の塊だ!弓矢や刀剣で無謀に突っ込めば、鉛の雨で死ぬぞ!今我らにはニホンの支援がある、過去の敵対していた時を忘れ、全力で応戦するのだ!」


 インカムを介してセリアは激励を飛ばし、そして右肩に01式軽対戦車誘導弾のチューブを抱える。そして先頭を突き進む戦車に狙いを定め、発射。敵戦車の1両は爆発し、セリアはそれを確認する間もなく壁に身を隠す。


「殿下自らが武器を手に戦っているのだ!彼女達に気遅れるなよ!」


 第9普通科連隊の指揮官を務める野木のぎ一等陸佐はそう怒鳴り、自身もカール・グスタフ84ミリ無反動砲で後方の装甲車を狙う。


 城塞都市ノルグスとその周辺を巡る争いは激しい。夜明けとともに襲撃してきた魔王軍は、先ず城壁に対して重砲で攻撃して破壊し、悪魔族からなる空挺部隊を乗せた輸送機が突入。上空より強襲を仕掛けつつ、主力の機甲部隊で波状攻撃を行い、これを占領。教範通りの縦深攻撃を仕掛けたのである。


 対する帝国軍は、エラノスに預けた3千弱の将兵を除いた2万7千の軍勢と、救援に駆けつけた陸上自衛隊第16師団1個戦闘団でこれと対峙。魔王軍は現代兵器を用いている事が明らかとなっているため、セリア直属の将兵に対して現代兵器を供与。簡単なレクチャーを施していた。


 だがセリア達は軍人である。初めて触ったであろう銃火器を直ぐに理解し、そして使って見せている。市内に侵入した悪魔族に対しても、魔法具を用いた防御で攻撃を凌ぎつつ、サーベルと機関けん銃のみで格闘戦を演じ、返り討ちにしていた。


 だが、流石に戦力差が厳しすぎた。現在郊外では車やヘリコプターも動員した市民の避難作業が行われており、帝国軍将兵の半数はこれの支援に従事していた。弓矢よりも圧倒的遠距離から、刀剣以上の打撃で甚大な損傷を与えてくる武器を持つ魔王軍に対し、彼らは無力だった。


「隊長、敵よりヘリが!」


 隊員の一人がそう叫んだ直後、上空に数機のヘリコプターが現れる。30ミリ機関砲と対地ロケット弾の驟雨は城壁を粉々に粉砕し、その場にいた者達を吹き飛ばしていく。


 郊外では迂回を目論んだ魔王軍機甲部隊に対し、数両の10式戦車が対応を開始。瓦礫や茂みに潜みながら待ち伏せていた10式は、城塞の南側を進む戦車に向けて砲撃を放つ。


 本土の化学企業メーカーが、主力製品たるエアコンの製造とともに生産している、国産の装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSは敵戦車の砲塔を容易く抉り取り、車体を貫かれた車両は内部の弾薬が誘爆し、火柱とともに砲塔を宙に飛ばす。それに対して敵攻撃ヘリコプターが接近し、対地ロケット弾で炙り出す。


 その直後、別の茂みに潜む隊員が91式携帯地対空誘導弾を発射。不意打ちを受けた攻撃ヘリは爆散し、戦車部隊は急いで下がっていく。


 斯くして、『第一次ノルグス会戦』は帝国・日本連合軍の戦略的撤退が成功して幕を閉じた。しかし帝国軍は1万以上の死傷者を出し、自衛隊も装輪装甲車が1両撃破、20名余りが殉職するという損害を被り、戦術的には惨敗を喫する事となった。実際、魔王軍も攻勢において甚大な損害を受けたものの、戦力の回復が見込める程度のものであり、魔王軍の侵攻を完全に躊躇させる事が出来る程の損害にはなり得なかったのである。

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