第26話 防衛会議
西暦2026(令和8)年9月9日 日本国東京都 首相官邸
「これより、国家戦略会議及び特別地域対策会議を始めます」
議長を務める伊沢臨時総理の言葉に従い、参加する閣僚と自衛官は頷く。
「まず我が国の現状ですが、重工業…エラノス開発に関わる企業や防衛産業に関わる企業を中心に、株価が急激に上昇。当該企業からの所得税及び法人税を社会保障政策に還元する事で、国民からの不満を和らげております」
財務大臣の説明に、伊沢は頷く。ラティニア帝国との戦争で生じた特需景気は、新型ウィルス蔓延などを原因とする不況に喘いでいた日本の産業界に対して改善の契機をもたらしていた。
日本本土にて不満を抱えながら燻っていた者達は挙ってエラノスにて生じた雇用に応え、常に魔物や帝国という危険と隣り合わせである異世界での開拓事業にて活躍する事となったのだ。何せ彼らは、異世界の知らない知識や技術を当たり前の様に持っているのである。大学にて理想的な成績を収めておきながら、その知識が十二分に活かせる事の出来ない現実に不満を抱いていた者達は、エラノス有数の『知識人』として活躍の機会を得たのである。
「また、此度の戦争を契機に、防衛装備移転三原則も改正を実施。台湾やフィリピン、ベトナムといった国々に対して防衛装備品の輸出を成し得る体制を確立させ、防衛費の捻出を容易にする事が出来る様になりました。量産効果による原価の下落はコスト管理において望ましいものであり、特に特別地域における継戦能力の維持及び向上には欠かせないものですので」
調達方法の見直しによって、防衛省は輸出分の名目で定数以上の調達を可能と出来る様にしており、相次ぐ戦闘やら他国に対するデモンストレーションとしての演習の連続によって消費の激しい弾薬や消耗品の増産も可能としていた。この状況に伊沢は、この国の変化を実感する。
「現時点で防衛費は、外国からの大量輸入やら弾薬の増産やらで国家予算の3パーセントを超えており、やはり早期に戦争を終結させねば危険である事が判明しております。国債の発行も無限に出来る訳ではないので、そこは是非ともご理解頂きたい」
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