第22話 帝国軍対魔王軍②
帝国暦226年8月26日 帝国西部
「魔王軍が復活するとは…これまでどれ程の時、雌伏の日々を過ごしていたのか…」
天幕の中で、セリアはそう呟きながら報告を受けていた。何せ4万もの軍勢が僅か一日で壊滅したというのである。これ程までの損害は異世界侵攻以来であった。
「どうにか生き残った者からの証言によりますと、全ての魔族が魔法を使える様になっており、無詠唱で強力な攻撃魔法を使って来たとの事です…」
「…何、攻撃魔法だと?しかも無詠唱で?」
幕僚の報告に、セリアは眉を顰める。基本的に魔法というものは、呪文の詠唱や魔法陣の構築によって、確実に行使するものである。過去の偉大な賢者や、一部地域では神として崇められる魔獣は無詠唱で大魔術を成したと言われるが、ヒト種に比して知能が低く、魔力の保有量でも劣るゴブリンやオークに果たしてその様な事が出来るのだろうか。
現時点でセリアが率いるのは、1万の歩兵と4千の騎兵、2千の弓兵を基幹とする親衛隊に、父たる皇帝の助力を得て帝国軍より得た1万の歩兵と2千の騎兵、2千の弓兵からなる総数3万の軍団。ニホンとの戦争で消耗した今、彼らは如何なる財宝よりも貴重である。
「ともかく情報が足りない。ただでさえ北と東に厄介な敵を抱え、ニホンともいつまた戦端が開かれてしまうのか分からぬ状況で、無駄に兵を失いたくはない。負けぬ様に情報を集め、対策を練ろう」
「ははっ…ともかく此度の魔王軍の動向、怪しさが多すぎます。下手に侮ると危険ですな…」
部下の言葉に、セリアは複雑そうな表情を浮かべて頷いた。
・・・
遥か高空を、1機の哨戒機が舞う。〈P-1〉対潜哨戒機はエラノスの飛行場から飛び立った後、帝国西部に向けて飛行し、未知の軍勢の調査を行っていた。
「ウォッチャー1よりベース、高度
機長は報告を上げ、機体を一定の高度に下げながら、占領されたと思しき市街地へ向かう。そうして魔王軍の状況を一望したのであるが、その光景に多くの乗員が愕然となる。
伝承によると、帝国軍が主力とする地竜や飛竜を使役する事で魔王軍は強大な力を誇っていたとされる。同様の兵力を持つ事で帝国軍に対して渡り合ってきたのだと自衛隊は考えていたのだが、実際は全く異なっていた。
広大な平野に並ぶのは、何十両もの戦車。その他の装甲車両も相当数確認されており、その光景に多くが目を疑う。農園ではトラクターが駆けまわり、機械化された農業を成している。その光景は日本の勢力圏外では絶対にあり得ぬものであった。
「馬鹿な…何だこの光景は…!?」
「信じられません…どうして帝国の西側に戦車が…!?」
信じがたい光景に、機長は思わず閉口する。だが動揺する暇はなかった。直後に機体に物理的な激震が走り、武器員の一人が絶叫を上げながら報告してきたからである。
「へ、ヘリコプターが接近してきます!発砲を確に―」
声は不意に途切れた。機長は急いで機体を上昇させ、離脱にかかる。その間、もう片方の武器員がデジタルカメラで撮影し、証拠写真を得る。そして〈P-1〉は慌てる様に、その場を離脱していった。
斯くして、自衛隊は隊員1名の生命を引き換えに、真に信じがたく、そして恐るべき実情を知る事となった。そしてその報告は、本土にも伝えられる事となった。
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