第18話 エラノス開拓
西暦2026(令和8)年8月15日 エラノス平原 自衛隊エラノス基地近郊
「ロシアが資産の不当な強奪を理由に、中国に宣戦布告か…随分と大胆な事をやらかしたものだ」
エラノスに築かれた街の一角、コーヒーと軽食作りが趣味の自衛官が開いたカフェにて、特別地域に進出した総合商社に勤めるサラリーマンは、新聞を読みながら呟く。
船橋に異世界からの侵略者が現れて丸一年。日本各地にて終戦記念式典とともに、船橋攻防戦の犠牲者を慰霊する催しが行われる中、そういった式典はエラノスの地でも行われていた。本土との違いは、この地を巡って争ったラティニア帝国軍や、諸国連合軍の戦死者も慰霊しているという事か。
第三次エラノス平原会戦の後、日本政府は国策として志願者の移住と現地開発を開始。この時点で凡そ5万人に上る民間人が来訪していた。その目的は現地の資源開発であり、リチウムやニッケル、タングステンといった日本では産出されない鉱物が『転移拠点』の周辺やイルビア王国の火山地帯で得られるという情報は、日本の政財界を喜ばせた。
さらに日本の文化や工業製品は、この世界でも十分に流行する見込みがあった。セリアが持ち込んだ日本の産物は、インペラトゥス・ポロス含む帝国諸都市の市民の間で人気を博し、さらにアテリカの商人のネットワークによって国外にも伝わっていた。ある商人は高値で転売するべく安い値段で購入を持ち掛けたところ、予想の倍の数を取り扱う事となり、日本の生産力の高さに驚かされたという話もある。
すでに東部の海岸に面する地域では工場の建設が始まり、各地で採掘された鉱物の加工を主目的とした工業地帯が整備されつつある。同時に防衛産業に従事する国営工場の整備も進んでおり、もし完成すれば1万人分の雇用が生み出せると見込んでいた。
また、『魔法』に対する研究も進められている。特に『転移拠点』を作り出した魔法の研究が盛んで、ラティニア帝国やその外部の国々より高位の魔法使いや秀才として知られる者を招致し、日本の物理学者と共同で『転移拠点』の複製に取り掛かっていた。この地の資源を日本へ持ち出す時に、船舶を用いる事が出来る様になれば、貿易はより増大させる事が出来るからである。
そういった将来を見越した都市計画は、この世界に新しい都市の作り方をもたらしたと言えよう。碁盤の目の様に、十字に走る道路で形成された正方形の区画。シェルターとしての機能も有する地下鉄の整備。長距離移動用には地上にLRT形式の路面電車を敷設し、市民の移動を便利にした。外周には地竜や魔物の侵入に備えて城壁が築かれ、壁上には地対空ミサイルや大口径機関砲を設置。戦車砲を流用した105ミリライフル砲を備えたトーチカも設置され、強固な防御が成されていた。
そして後の時代において、このエラノスの街は、ラティニアのあるこの世界において最も栄える都市と呼ばれる事となるのである。
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