第10話 アテリカ接触
西暦2026(令和8)年4月27日 エラノス平原より北に100キロメートル 城塞都市アテリカ
『転移拠点』のあるアテリカの平野から北に100キロメートルの位置にある都市、アテリカ。ここは北に大河を背負う城塞都市であり、ただっぴろい平野にある関係上、周囲を全長60キロメートルの六角形の稜堡式城郭で囲い、その内側に飛竜騎用飛行場や駐屯地などを設置。10万人以上の市民を守りつつ数年単位で籠城する事を可能としていた。
元々は南に存在していた大国との戦争のために築かれた要塞であり、穀倉地帯の集積地にして河川を用いた物流の要所であった事から、ラティニアの防衛線の一つとして重視されていた。件の大国を攻め滅ぼした後はその機能を削減させ、商業都市として発展出来る様に要塞外部にも市街地が築かれる様になっていったが、城郭そのものを堅牢に造り過ぎたのもあって、この都市の歴史を語り継ぐ存在としてその威容を保っていた。
その都市に深部調査隊の一つである第3調査小隊が訪れたのは27日正午の事だった。火を噴く魔物がうようよしているこの世界において防護力を軽視する事は自殺行為であり、AMV装輪装甲車と24式装輪装甲戦闘車、ブッシュマスター輸送防護車の3台で構成されていた。
かつて流行った、自衛隊が異世界の国と争うライトノベル小説では、この手の任務に従事する部隊は高機動車と軽装甲機動車、そして73式小型トラックで構成されていたが、相手は炎を吐くドラゴンを機甲・航空戦力として多数有しており、その他にも一昔前の対戦車火器並の火力を持つ攻撃魔法が存在するのである。コスト優先で下手に侮って調査部隊を全滅させるわけにはいかなかった。
「にしても、相手さんは随分と寛大な様子で迎え入れてくれたな。逆に怪しすぎないか?」
そのアテリカ市内の一角にて、第3調査小隊を率いる
やがて小隊の一行は中心部の邸宅へと案内され、一人の少女が座る椅子のある部屋へ案内される。そして米田の目の前に、一人の女性のメイドが現れる。
「皆さま、このアテリカへようこそおいで下さいました。私はアテリカ伯爵家に仕える侍従総長のミレンダと申します」
「日本国陸上自衛隊に所属する、米田と言います」
50代初めぐらいと思しきメイドは名乗り、米田も挨拶を交わす。
「して、こうして敵である私達をこの場に招いたのはどういう了見なのでしょうか?」
「はい…我がアテリカは過去には10万の大軍に囲まれながら1年も耐え忍んだ、輝かしい歴史を持つ城塞都市であります。ですがエラノスにおける戦いの顛末を聞き及び、責任者で構成される会議を行った結果、貴国に対して降伏する事を決定いたしました」
そしてミレンダは、その決定に至った経緯も説明し始める。
まずアテリカ伯爵家は、先代の当主が開明的な人物であり、種族間の経済的な格差から来る対立に心を痛めており、他の家とは異なり積極的に異種族の住民を迎え入れていたという。実際この街の市民や私兵はヒト族以外の者が割と多く、非常に賑やかに見えた。
だが当主が不慮の事故で帰らぬ人となった後、他の家へ嫁いでいた娘達が、堅牢な城塞と秀逸な経済力を誇るアテリカを巡って対立。そして唯一の相続権を背負う事となった末娘のアドリー・ディ・アテリカの後見人を巡る争いも起きたが、異世界への出兵と大敗は諍いを起こせるだけの余力を奪っていた。
「よって、我らにはあなた方と争うだけの余裕がないのです。ですがアテリカ伯爵家はラティニア帝国の皇族と血縁関係にある栄誉ある一族。もし寛大な処置をしていただけるのでしたら、講和の仲介を担いましょう」
「成程…分かりました、この話は直ちに総合庁舎の方に連絡させて頂きます。私だけの判断では決めかねない事ですので…」
米田はそう言い、ミレンダは「よき返答をお待ちしております」とだけ返した。
そして1時間後、内藤と三田はアテリカに文字通り『飛んできた』。1機のCH-47JA〈チヌーク〉輸送ヘリコプターが2機のAH-1Z〈ヴァイパー〉対戦車ヘリコプターにエスコートされながら現れた時には、市街地は騒然となったものの、飛竜騎用飛行場に着陸した後は米田ら第3調査小隊に警護されながらアテリカ伯爵家邸宅へ訪問。1時間程の会談を経て降伏を受諾した。
一方で私兵部隊については、戦後盗賊が発生している事や、自衛隊もエラノスとその周辺の防備強化のために大多数が留まる事となったため、武装解除は成されず、支援戦力として第16師団より抽出された戦力からなる戦闘団が派遣される事となった。そしてこの決定が、後にアテリカの運命に大きく関わる事となる。
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