第6話 第三次エラノス平原会戦②
西暦2026(令和8)年/帝国暦226年4月7日 エラノス平原近郊
最初の突撃から3日が経ち、連合軍は戦力を幾分か再建。二度目の攻勢を夜明けとともに開始しようとしていた。
「今度は三方面にてタイミングを合わせ、文字通りの圧倒的な兵力を存分に活かす形で攻めるのだ。帝国軍は現在、20万にも及ぶ大兵力を準備してこちらに赴こうとしている。それまで何とか粘るのだ」
連合軍に参加する諸侯の一人はそう言い、そしてそれを見つつ小国アゴラ王国より来た国王ロダン伯爵は、第一回の総攻撃を生き延びた兵士達を取りまとめる。人口100万に満たぬアゴラ王国は、何とか無理して1万の兵力を捻出して馳せ参じたものの、戦場において目立った戦働きを出来た訳ではない。だが仕えるべき者を失った兵士の中には復讐を誓う者もいる訳で、ロダンは五体満足な者をかき集めて、南部の山岳地帯へ回り込んでいた。
「相手は平原の大兵力にばかり気を取られているに違いない。ならば我らは背後からの奇襲によって防衛線を崩しに行こう」
山々を上りながら、ロダンは言う。騎馬は麓に残し、歩兵を通常の戦列編制ではなく、数十人規模の集団に分割し、適度に散兵させて薄く広く展開させる事で、あの奇怪な攻撃が来たとしても一網打尽にされるリスクを減らしつつ、果敢に攻め立てる事を可能としていたのだ。
「陛下、アゴラは南より攻めるとの事です。あの様な姑息な手段に打って出るとは、やはりは貧弱な小国の発想ですな」
兵士の一人が嘲る様に言い、ガランは剣の先を向けて戒める。
「だが、圧倒的物量をものともせぬ敵に対してはこの様な攻め方が望ましい。ともかく我らは戦功を得なければならぬ。今の我らに戦い方を選べる余裕はない」
・・・
こうして始まった2回目の総攻撃は、まさに総力戦と言っても過言ではない戦いであった。
第一次世界大戦の塹壕戦にて戦術に変化が見られた様に、連合軍は今までの戦列歩兵方式ではなく、数千の歩兵で構成されていた軍団を数十人規模の集団へ分割し、投石器や魔法攻撃で防御線が薄いであろう地点に攻撃を実施。それを合図に突撃を行い、塹壕を占領する浸透戦術を試みたのである。
だが、悲しき事にこれらの攻撃魔法は射程と火力が火砲に及ばなかった。文字通り地図を書き変える事の出来る威力を持つ魔法は、相当数の時間と手間がかかる代物であり、魔法使いの数が圧倒的に多いラティニア帝国ならいざ知らず、中小の国々の集まりである連合軍にそれを行使する余裕はなかった。
だが40万にも及ぶ大兵力が全方位から押し寄せてきたのである。自衛隊は現有戦力を有効活用するために一時的な後退を余儀なくされ、そして塹壕に取りついた将兵を文字通りの弾幕で出迎える事を強制されたのである。
「くそっ!連中銃弾を食らえど食らえど、攻め立ててきやがる!」
狭い塹壕内にて隊員は叫び、勢いよく振り下ろされたサーベルを20式小銃の銃身を受け止める。樹脂製とアルミ製の2種類が用いられているレシーバーはサーベルの打撃に近しい斬撃を受けて割れ、しかしそれが覆っている銃身にまで届くのを防ぐ。そして隊員は相手の腹を蹴飛ばして距離を取り、即座に腰から9ミリ拳銃を抜く。そして相手が再び突っ込もうとしてきた時に発砲し、9ミリパラベラム弾は金属製の鎧を容易く撃ち抜く。
中近世の金属製の鎧は、斬撃や弓矢の攻撃を容易く防ぐ事から高い耐久力を持つイメージが高い。だが実際には銃弾の様な一点を高い運動エネルギーを借りて貫く武器に対しては意外と弱い。そうして負傷した敵に対し、背後より現れた味方が銃弾を叩き込む。敵は圧倒的な物量で攻め込む事で塹壕の部分的な占領に成功していたが、自衛隊側は各所に配置した機関銃によって最終的に取りつく敵を減らし、反撃を容易にしていた。
さらに格闘戦では、20式小銃の塹壕内における取り回しの高さが光った。全長が85センチ程度の20式小銃は、大人がぎりぎりすれ違う事が出来る程度の狭さである塹壕において、片手に盾を持ちながらサーベルを振り回す相手に対して優位を取る事が出来た。銃口下部に新開発の25式多目的銃剣を取り付け、グラインダーで十分に研がれた刃は相手の鎧の隙間にある可動部を容易く貫く。抜くと同時に下がると、銃としての本来の使い方である発砲によって敵を倒し、戦闘の優勢を相手に一度も握らせぬ展開を進めるのだった。
上空では多数のワイバーンが、塹壕内へ火炎放射を放とうと接近してくるが、塹壕各所には12.7ミリ重機関銃が据え付けられており、非装甲の自動車程度なら蜂の巣に変える威力を持つそれはワイバーンの翼を容易く引き裂く。さらに生物としてはかなり高い体温を持つという特徴は、国産の
戦闘は南でも繰り広げられた。兵士達は斜面を登り、木々を盾に敵陣地へと迫るが、自衛隊員はそれに対して手榴弾や自動てき弾銃で対応。破砕された樹木は斜面を勢いよく転がり落ちていき、麓より上り始めていた兵士に直撃する。それを回避しようと進んだ先には落とし穴や逆茂木があり、果てにはクレイモア指向性散弾によって一網打尽とされていった。
斯くして、戦闘は一夜を超えて2日も続き、連合軍は投じた40万のうち20万を喪失。再び後退を余儀なくされたのである。一方で自衛隊の方も損害は多く、50名の殉職者とその倍はいる負傷者は、本土のメディアが政府と自衛隊を痛烈に批判するには都合のいい材料であった。そういった損害もあり、戦況は再び停滞に至るのだった。
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