fil.14 二人は・・・

「はぁ〜。どうしちゃったんだろう・・・」


先程までの自分の行動を悔やむメアリー。

思ってもいないこと言ったこと、嫉妬しているような言い方をしたこと。


「自分らしくない」


小さな公園のブランコに座る、悩んでいる女性。


 ギーコ、ギーコ


ブランコを知らないメアリーは、とりあえず漕いでいる。


「これからどうすればいいんだろ・・・」


一人つぶやき、悩む。空を見上げ、名も知らぬ鳥たちを目で追う。

自分がいた世界と違い、この世界は発展しており、平和そうに見える。


 この世界でテルキは育ったんだ・・・


自分たちがいた世界とは、価値観も身の周りのものも違う世界。

その世界で、メアリーは一人ブランコを漕いでいた。


しばらく悩んでいると、遠くの方から自分を呼ぶ声がした。一瞬テルキだと思い、顔を上げるが、アスナだど気づき、苦笑いを浮かべる。


「メアリーさ〜ん。探しましたよ!」


そっか・・・


あまり良い感情を向けられない相手のため、気まずくなる。


「隣り、いいですか?」

「どうぞ」


アスナも漕ぎ出す。


しばらく無言だった二人だが、アスナが先に口を開く。


「私の勘違いかもしれない言い訳ですが、聞いてもらえますか?」

「・・・・・・」

「私はてるき兄さんのことが好きというわけではありません。自分のお兄ちゃん的存在だと思っているだけです」

「・・・・・・」


話を続ける。


「あの時抱きついたのも、久しぶりに肉親に会えた的な?感じですよ。だから、誤解はしないでください」

「・・・・・・別に誤解とかしていないわ」


メアリーも返答する。


「最近、テルキとの関係がギクシャクしていたの。だから、楽しそうな二人を見て、嫉妬してしまったのよ。冷静に見れば、あなたの行動は当然の行動で、恋をしているって言うより、尊敬をしている、って感じだったわ」

「そこまで洞察していましたか!さっきの私の発言は忘れてください。テヘッ」

「フフフ」


首をかしげてお茶目ポーズをするアスナを見て、笑うメアリー。

その笑う姿を見て、安堵するアスナ。


「・・・女子同士だから、相談するけど」

「はい!」

「この歳で嫉妬をするのは、やっぱり欲深いかしら?やっぱりダメなのかな?」

「そんなことは無いと思います。女性として恥ずかしいことではありません。もちろん、あまりにすごすぎる、私たちの世界で言うと、”ヤンデレ”と言う、過激すぎるのはいいとは言いません。ですが、見ている限りメアリーさんは普通だと思います。喧嘩をするのだって当然ですし、仲直り出来ればいいのです!悩まず話し合えばいいんですよ」


その言葉を聞き、安堵すると同時に、年齢の割には思考も行動も大人びた対応をするアスナに感心する。


「ありがとう、アスナちゃん」

「いいえ!」

「私、あなたより歳上なのに慰めてもらっちゃって・・・」

「いつでも話し相手になりますよ!メアリー姉さん!」

「ね、姉さんって!」


顔を赤らめるメアリー。

人生で一度もそう呼ばれたことが無く、気恥ずかしさでオロオロする。


「てるき兄さんの奥さんなので、姉さんです!駄目ですか?」


首をかしげるアスナを見て、観念したように言う。


「・・・わかりました。そう呼んでいいわよ」

「やったーー!!」


飛び跳ねて喜ぶアスナを見て呆れるメアリー。この子、大人なんだか子どもなんだか・・・?


「あなたって、絶対男子に人気あるよね。付き合っている相手はいるの?」

「・・・!!!」


突然動きを止めるアスナ。


「ま、まさかいないの!?」

「え、ええそうですよ!私は女子校、女子しか入れない学校に在席しているので、男子と会うこともほとんど無いんです!だから、彼氏なんていません!」


可愛らしく怒るアスナを見て、意外に思うメアリー。


「へぇ〜そうなんだ〜」

「!そうだ、てるき兄さんを落とした方法を教えてください!」

「え!い〜や、どうしようかな〜」


女性二人は愉快に話をするのであった。


小一時間ほど経ち、二人は我に返る。


「あ!てるき兄さんをほったらかしにしちゃった!」

「私たち、話に夢中になりすぎたわね」

「どうしよう〜」


慌てるアスナに声を掛ける。


「心配しなくていいわ。最悪、あと半日もすれば向こうの世界に戻るわ。ただ、それまでにはテルキを見つけておかないとね」

「はい」


アスナが立ち上がり、メアリーも立ち上がろうとした。が、不意にあることを思い出した。


「ま、待って。早く見つけないといけないかもしれない!」

「どうしたんですか」


急に大きな声を上げるメアリーに恐る恐るアスナは尋ねる。


「魔法中毒の症状よ!」

「え!なんですか、それ?」


アスナの質問に、メアリーは魔法中毒について説明する。


「それって、やばいやつですよね」


説明を聞き、驚くアスナ。


「ええ、そうよ。そして、その症状が最後の起こったのが三日前」

「つ、つまり、」

「今日、その症状が起こる」


そう言って空を見上げる。

太陽の位置はだんだん低くなり、夜に近づいている。


「早くテルキを見つけて、なんとかしないと」

「そうですね」


メアリーはアスナの側に近寄る。


「ちょっとごめん」


そう言ってアスナをお姫様抱っこする。


「あまり、これはやりたくなかったけど・・・」


アスナを抱えたまま宙に浮く。


「え、え、えー!!」

「行くよ! アスナちゃん、しっかり捕まって!」


そう言って、メアリーは空中高くまで行き、空からテルキを捜索し始めた。



「見つからないわね・・・」

「え、え、そうですね」


いまだに空を飛んでることが信じられず、上ずった声を出すアスナ。


「ここからだとわか―」


 バッッーーーーンンン!!!


 キャーーーーー!!!


大きな爆発音と共に、人々の叫び声が響き渡る。


「ま、まさか・・・」

「は、早く行こう!」


方向転換し、メアリーは爆発音の聞こえた方向へと向かった。





「お、おい!本当か!」


グレースの話を聞いて、驚くルイス。


「ええ、間違いないわ。暴走があったのは三日前よ」

「・・・我としたことが、それを忘れていた。どうしたものか」

「あんた達兄妹って、どこか間抜けな部分があるわね」


呆れるグレースの言葉を聞いて、ルイスは不貞腐れる。


「さっきも宰相に言われたよ!」

「だって、みんなが思っていることだもの。心配して言ってるの・・・でも、メアリーとテルキなら、きっと解決してくれるはずよ」


ルイスもうなずく。


しばらく二人は雑談をしていた。すると、誰かが駆け込んでくる。


「ルイス王子はいらっしゃいますか!?」

「中にいる。入って良い」

「は!」


先程とは違い、威厳たっぷりに言うルイスを見て、グレースは笑いそうになるのを堪える。


「失礼します!・・・」


入ってきた伝令の兵士はグレースを見て一瞬固まるが、グレースに促された。


「私は気にしないで」

「は!では―」


その兵士の報告を聞いて、二人は唖然とする。


「そ、その話は真か!」

「はい、ここにその手紙が」


手紙の内容を読み終わると、ルイスはそれを握りつぶした。


「あいつめ!!」


鬼の形相をする二人を見て、逃げるように去ろうとする伝令役をルイスは呼び止める。


「アルラス宰相に、直ちに兵を動員するよう命じよ!」

「は!」


ルイスたちの剣幕に、兵士は逃げるようにその場を立ち去る。


「「あいつめ!絶対許さん!」」


期せずして、二人の言葉は重なるのであった。


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