fil.10 世界は

「どこまで調査は進んでいる?」


きらびやかな服装の男が隣の従者に聞く。


「は!勇者がどうやら何かの病にかかり、現在それを治療中だというところまでは調べがついています」

「そうか。ご苦労」


男は従者を下がらせ、一人になる。


「ククク。あいつが、あいつが。ククク。よーやく尻尾を出しやがった」


不気味な笑い声が部屋に響く。


「ククク。ハーハハハハ!」



「国王様!またも失敗との連絡が」


その言葉を聞き、王はため息をつく。


「そうか、・・・わかった」


椅子にもたれかかり、天井を見上げる。


治療が始まり早二ヶ月。今だ治っておらず、ある程度、症状を抑えれているだけ。

国王にとって悩みの種だった。


 勇者様はワシの義理の息子であり、孫までいる。なんとしても助けたい。だが、国王としての体面もある。ほとんどの大臣は治療に国家予算を使うことを反対はしなかった。むしろ積極的な者までいた。だが、事情を知らない貴族で不審がる輩もいる。内政問題の火種にもなりかねない。しかもテルキ殿と対立関係にある輩ばかり。それを抑えるのも一苦労だ・・・


もう一度深いため息をつく。


「はぁ〜〜〜」


だが、国王はいつもの毅然とした態度に戻った。


 どんなことがあろうと、必ず娘たちを守ってみせる。



王都内で、まことしやかに囁かれている一つの噂があった。


「勇者様が病気?」

「いや、あくまで噂の話だ」


小さな酒場で、二人の冒険者達が話をしていた。


「本当なのか?」


ロングソードを持つ男が聞く。


「だから、あくまで噂だ。不治の病だったり、寄生虫に寄生されてるだの・・・。

ただ、一個信憑性の高い噂がある」

「何だ?」

「実は魔法中毒になっているんじゃないのか、っていう話だ」

「本当か!」

「しっ、声がでかい。

最近王家が所有する森の方から爆発音が聞こえるじゃないか、小さくだが。あれは勇者様が暴走したからだ、ともっぱらの噂だ」

「でも、国は、あれは魔法研究のための実験をしているからだと―」

「バカ!そんなことを馬鹿正直に国民に言えるわけねーだろ。もしも勇者様が魔法中毒になったとしたら、この世界が滅びかねん。国中、パニックに陥る。だから、その不安を俺らが抱かないために国は事実を隠してんだろ!」

「なるほど」


この噂は王都内の随所でささやかれていた。

噂だけに、国民たちは余計不安に駆られていくのであった。



「次は〜所沢〜所沢〜」


電車内にアナウンスが響く。


「じゃあね!」

「うん!また明日!」


一人の少女が友達と別れ、電車を降りる。

改札を抜け、閑静な住宅街へと進む。


家に着き、門を開けようとする。が、すんでのところで手を止め、隣の空き地を見る。


「兄さん。どこに行ったの・・・」


悲しくつぶやく。

カバンの中にある携帯を取り出し、アドレス帳から番号を探す。


「あった」


ボタンを押し、電話をかける。


「・・・おかけになった電話番号は現在使われておりません―」


いつも通りの返答が返ってくる。


「どこに行ったの?」


空を見上げ、つぶやくのであった。



「はぁー・・・、はぁー・・・」


暗く薄気味悪い場所。


フードを被った二人の男がいた。

小さな箱を大事に抱え、豪勢な棚に置く。


「できるんだろうな?」

「ええ、もちろん。何とか回収しましたし、可能です」


男は答える。


「そうか、あの方がもうすぐ・・・。一族たちに、この事を伝えろ!」

「は!しかし、勇者については・・・」

「心配ない。あやつは不治の病にかかっている。治るわけが無いし、まともに戦えない。心配するだけ無駄だ!」

「わかりました」


命令を受けた男は暗闇に消えた。それを見届け、男はつぶやく。


「これでこの世界は・・・」



「はぁ〜」


開いた窓から外を眺め、テルキはため息をつく。


ここ最近の半分を過ごす医務室で、先程までテルキは寝ていた。


大きく伸びをしてもう一度ため息をつく。


「最近昔のことをよく思い出すな〜」


独り言を言った。


『地球』の『日本』で過ごしていた日々。寿司やラーメン、漫画やアニメ。沢山の文化のこと。別れを言えなかったあの少女のこと・・・。


「心残りは無い、とは言ってみたものの、やっぱり未練があったんだな~」


テルキといつも遊び、いつしか心の支えにもなっていた少女。この感情は誰にも言えなかった。


空を見上げ、想いを噛みしめていた。



医務室のドアの前。


メアリーは一人でドアの前に立ち、開けるのをためらっていた。

ドアを開けようとしたとき、部屋の中からテルキの独り言を聞いてしまったからだ。メアリーは部屋に入るのをやめ、医務室を後にした。


「そっか・・・やっぱり未練がある、か・・・」


目に涙があふれてきた。


「もうこれしか方法は無いのかな・・・」


メアリーは悩みに悩み、ルイスのところに向かった。


 トントン


部屋をノックする。


「どうぞ〜!」

「失礼します、兄上」

「メアリーか。どうした?」


メアリーは近くの椅子に静かに座る。


「兄様」

「どうしたの~?メアリーちゃ~ん?」


軽口でふざけるルイスだが、メアリーが、いつになく真剣な表情をしているのを見て、すぐにやめる。


「兄様、大事な話です」

「・・・何だ・テルキのことか?」

「ええ。考えたんですが、やっぱり、あの話を・・・」

「メアリー。前に言ったはずだ。やめておけ!」


声を荒げて言う。


「ですが、兄様。もうそれしか・・・」

「・・・メアリーよ。わかっているのか?お前が苦しむかもしれんのだぞ!!」

「はい。覚悟はできています」


まっすぐにルイスの目を見つめるメアリー。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


兄妹に長い沈黙があったが、先にルイスが折れた。


「わーかった、わかった。進めておくよ」

「ありがとうございます!」


メアリーがルイスの部屋を出て行った。

ルイスは執務室の椅子に腰かけ、机の引き出しの奥にあったファイルを取り出して、開いた。


これをやるしかないのか・・・



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