fil.9 作戦4
「メアリー様〜。これどうすれば〜いいんですか〜?」
「ああ、それはあそこの倉庫に置いて、慎重にね!お願い!」
「わかりました〜」
色々なものが入っている大きな箱を、キャシーは両手で抱えて運ぶ。
離れにある倉庫に入ろうとした時、前が見えずに壁にぶつかる。
カンッ!
何かが落ちる音がした。下を見ようとしたが、箱が邪魔で見えない。
「見えませんね〜」
一旦箱を足元に置き、周囲を見回すが何も落ちているものはなさそうだった。
「まぁ〜、いいですか〜」
◇
「本当にやるの、メアリー?」
グレースが心配そうに言う。
「ええ、本当はやりたくなかったのですが・・・」
うなずきながら、そう答える。
「リスクはあるわよ」
「ええ。でも・・・一応こちらには博士もいますし」
遠くで器具をいじっているフランケンを睨む。
その視線に気づいて、フランケンが言う。
「任せるのじゃ!吾輩は呪いの分野は得意じゃからのう」
「・・・そうですが―」
グレースが言葉を続けようとしたとき、ドアが開きテルキが入ってきた。
「みんな、お待たせー。今回もよろしくお願いします」
全員に頭を下げる。
メアリーが心配そうに聞く。
「本当にいいの?元に戻れなくなるかもよ?」
「いまさら、そんなことは言ってられないよ」
「そう、・・そうよね」
心配そうに答えたが、覚悟を決め、メアリーは今回の治療の作戦を告げる。
「では改めて、今回の作戦を発表します!」
この場にいる、勇者パーティーのメンバー、それに、アルラス、キャシー、フランケン、ライアン、その他呪い専門の魔術師二人の視線がメアリーに集まる。
「今回、私たちは”呪い”について調べました。そこで、魔力の吸収を止める呪いの器具があることが判明しました。こちらです」
そう言って、メアリーは細長い黒いベルトをみんなに見せる。
「これは、あるダンジョンにあった呪いの器具、いわゆる『呪具』です。このベルトをしていれば、魔力が溜まらなくなるのです。ただし、特定のただ一人にしか使えません。その人が付けてしまったら、もう他の人に付けることはできません」
「は〜い!」
キャシーが勢いよく手を挙げる。
「付けられた本人は〜取り外し可能なんですか〜?」
「それについては少し複雑なの。ベルトの取り外しを決められるのはベルトを装着させた本人だけ。だから、もし本人が自分自身にベルトを付けるならば取り外しは可能。でも、他の人にベルトを装着させられた場合は、自分では取り外しができないの」
「なるほど〜」
「しかも厄介なことに、このベルトは1回だけ、一人の人にしか付けれない。つまり、予行練習とかはできないの。今、この国にあるのはこれ一つだけだし・・・。だからぶっつけ本番でやるしかないの。リスクはあるけれど・・・」
テルキをちら見する。視線に気づいたテルキは、元気そうに笑いかける。
「僕の心配はしなくていいよ。博士もみんなもいるから」
「・・・わかった」
メアリーは深く息を吸って、吐いた。
「暴走したときのために、私がテルキに付けます」
メアリーはテルキの背後に回って、後ろからテルキの腰にベルトを装着する。
カチッ!
閉まる音がした。
みんな押し黙って、テルキの様子を注視していた。
見た目はとくに異変はなかった。
「お!何か不思議な感覚がする」とテルキ。
テルキへの魔力の供給が止まり、作戦は成功したようだった。
「成功しましたね〜」
みんなの口火を切って、ロイが言った。
だが、すぐさまそれを否定するメアリー。
「いえ、まだよ。経過を見ないとわかりません。とりあえずここで解―ん?」
ぐったりしているルイスを見て驚く。
「兄様、どうされたんですか?」
ルイスは顔を上げ、答える。
「あー、心配、するな」
見るからに具合が悪そうな兄を本気で心配するメアリー。すると、アルラスが言う。
「大丈夫ですよ、メアリー様。ルイス様は、ここのところ、溜まっていた政務を寝ずになさっていたため、今は寝不足なだけですから」
「そうだったのね」
納得するメアリー。
だからいつも元気な兄様が、今日は静かなのね・・・
「はぁ〜眠い」
あくびしながら一人つぶやくルイス。
「ん?」
ルイスは目の端で、一瞬動くものを確認する。
立ち上がって近づく。そこにはベルトの形をした生物のようなものがじっとしていた。
「何だ、これは?」
触ろうとすると、手に絡みついてきた。そいつは服の中を通り、ルイスの腰に巻き付いた。
カチッ!
大きな音が部屋に鳴り響き、皆がルイスの方を見る。
「兄様、どうされたの―」
「ヒヒヒ、ヒヒヒ!」
突然、不気味な笑い声をするルイス。
「ヒヒヒ、ハハハ、ハハハハハハハ!!!!」
笑いながらルイスが服を脱ぎ始める。
「に、兄様どうしたんですか!」
「ル、ルイス!気でも狂ったの!」
「ヒヒヒ!ハハハ!」
よく見ると、腰に灰色のベルトをしていた。
「博士!これ、な、なんなの?!」
博士は狂ったように踊るルイスの傍まで近づき、ベルトを見る。
「ほうほう、これは色欲狂気の呪いのベルトじゃ。これを巻きつけると対象は狂いだし、服を脱ぎ、踊りだすのじゃ。しかも、こやつらは狂気を吸って繁殖し増えて―イヒ、イヒヒヒ、キャハハハ!!!」
近づきすぎたフランケンに、ルイスのベルトから繁殖したベルトが巻き付いた。
「は、博士ーー!他のみんなは―」
「ブヒ!ブヒ!ブヒヒヒ!!ブヒヒヒヒ!!!」
気色の悪い声を出したのは、ベルトに巻き付かれたライアン。
サポートの魔術師二人も服を脱ぎ始めている。
「ラ、ライアンくんまで」
部屋は混乱状態になる。
「早く取らないと・・・!でも、どうやって? あ、ベルトが今度はテルキの方に!テルキ、逃げて!」
メアリーは忠告するが、テルキは動かない。
いや、先程からテルキの挙動がおかしい。ずっとどこかを掻いている。
「う、うう。あ、ああーー!!」
突然テルキが発狂する。
「テルキ、どうしたの!」
「うゔぶ!!!」
テルキの周りに黒い渦ができ始めている。
「これって、爆発するの!?」
グレースが叫びに近い声を上げる。
「グレース姉様、来ますよ!」
「あ、ああ。私の後ろに隠れて!!」
グレースは盾を構える。その後ろに、まだ正気でいるメアリー、キャシー、アルラス、ロイが隠れた。
ドッッッーーーーガーーーンンン!!!
爆発音が森中を駆け巡る。施設は壊れ、焼け野原となる。
グレースの盾とメアリーのシールド魔法のお陰で、五人は怪我なく無事だった。
すぐさま、テルキや、狂人と化した、ルイス、フランケン、ライアン、魔術師の二人たちを探す。
「博士は無事です!」
「こっちも!」
「こちらもです!」
全員が無事であった。爆発音を聞いて駆けつけた魔法使いと騎士たちは彼らの治療に当たる。
幸いにも、爆発によって呪具のベルトたちは粉々になって跡形もなく消えた。
彼らの回復を待つまで考察をする五人。
「まず、どうしてテルキが爆発したのか」
「それは〜簡単ですね〜」
「ええ。予想はつくね」
ロイが話す。
「抑え込まれた魔力が暴走して爆発し〜、放出をしようとした〜、ですね〜」
「ええ、その通り」
メアリーは同意する。
それについては覚悟をしていた。しかし・・・
「どうしてあんな呪いのベルトがあったの?・・・!たしか呪い系のベルトはキャシーに倉庫に入れるよう指示したよね?」
「は〜い」
「倉庫の鍵はちゃんと閉めた?」
「は〜い、もちろん〜」
「だったら・・何で?」
「!!!」
考えを巡らせるメアリーを見ながら、恐る恐る手を挙げるキャシー。
「あの〜」
「・・・。何、キャシー?」
「いや〜もしかして~そのもしかするかも〜なんですが〜」
「何、キャシー?思い当たることがあるなら、言ってごらんなさい」
「倉庫に入れようとした時〜実は、壁にぶつかりましてぇ〜、その~何かが落ちるぅ〜音がしたような〜しなかったような~」
「!!!それよ!!!キャシー!呪いのベルトは生きてるのよ!!」
「キャシーさんは〜おっちょこちょいですね〜!」
のんびり言うロイに呆れるメアリー。
「キャシー・・・。今回は・・・許さんぞ・・・」
わなわな震えるアルラス。それを見て、キャシーは逃げていく。
「に〜げろ〜!」
「待てーー!!」
今日も騒がしいチームであった。
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