fil.8 マッドマジックティスト
デートの翌日。
メアリーはテルキの隣ですやすや寝ていた。
「メアリー様!メアリー様!」
寝ていたメアリーの耳に、部屋の外からアルラスの声が入った。
「メアリー様!そこにいらっしゃるのなら、返事をしてください!」
叫び声に聞こえるアルラスの声で、ようやく目を覚ます。
「ふぁ〜〜。・・・先生、どうされたんですか?」
状況がわからないまま、メアリーは眠い目をこする。
「そこに、テルキ様はいますか?」
「テルキですか~?テルキならここに・・」
隣に手を置くが、感触がない。
「テルキ〜テル・・!」
目をしっかりと開け、隣を見るが、人の気配がない。
「え、テ、テルキは・・・?」
「メアリー様、どっちなんですか!入っていいんですか?」
許可しようとしたが、自分がパジャマ姿なのに気づいた。
「ま、待って。今着替えるから」
着替えを終わらせ、アルラスを部屋に入れる。
「テルキ様は、いらっしゃらないのですね!?」
「ええ、そうだけど、どうしたの?」
「メアリー様、これをご覧ください。国王様からです」
そう言って、アルラスは一通の手紙を渡した。
「 宰相アルラスよ。そちらにマッドマジックティストのフランケンが向かっている。お前たちと『連携しろ』とは言ったが、勇者様に危害を加えるかもしれないから、いちおう気をつけろ 」
「・・・つまり、もうフランケンは来たの?」
「いえ、それが・・・この手紙を」
アルラスはもう一通の手紙を渡した。
『 どうも、マッドマジックのフランクじゃ。早速じゃが、勇者殿を少し預かった。ほんの少しだけ借りる。よろしく! 』
ワナワナ震え出すメアリー。
「こ、これは一体どういうことなの!?」
手紙を鷲掴みにし、地面に叩きつけようとしたが、抑えた。
「すぐに捜索を!」
「は!」
◇
治療施設から数キロ離れた人気のない廃墟の地下室。
薄暗く、部屋の中には様々な器具や道具が置かれていた。
部屋の中心には拷問椅子があり、勇者テルキが縛り付けられていた。
テルキはうなだれており、見るからに顔色が青い。
「ヒヒヒ。ヒヒヒ」
テルキの顔を下から覗き込む一人の老人。
着古した白衣と中にヨレヨレの薄ピンク色のTシャツを着ている。シワだらけの顔で、頭のてっぺんを囲うように生える逆立った白髪。不気味な笑い声を時々出しながら独り言を言っている。
「まさか、こんな日がくるとはな。ヒヒヒ」
その声で、テルキが目を覚ます。
「ここは・・?」
周囲を見渡し警戒するが、目の前の老人を見て安堵する。
「なんだ、フランケン博士か」
その言葉を聞き、老人―フランケンが驚く。
「な、何だ、とは何だ。貴様は今、拷問椅子に縛り付けられてんだじゃぞ!」
「いや、そうですが・・・、博士なんで、怖がりはしませんよ」
この二人は、初対面ではなかった。
フランケン・オオタ博士は、勇者パーティーのメンバーの一人ロイの大叔父。実は、フランケン自身も魔法中毒者なのだが、自らが開発した薬によってある程度抑えている。魔法中毒者になってからは自分を被験者にした実験ばかりしているので、『地球』のマッドサイエンティストにちなみ、マッドマジックティストと周りから呼ばれている。その過激さから、魔法研究協会からは追放されている。
フランケンとテルキは、実は何回も会っており、大抵はフランケンがテルキを使っての実験をするためにさらいに来るのだが、それをいずれも仲間の勇者パーティーが退けていた。
人一倍好奇心旺盛なこの博士に対して、テルキはひそかに好感を持っていた。だが、博士は大抵の人には嫌われている。もちろん、メアリーもその一人だ。
「博士。また、僕を実験台に使おうとするんですか?」
「ああ、もちろん!今回は貴様は抵抗できないだろうし、ここは他の奴らには気づかれない場所だ。今度こそ貴様を使い、実験をしてやるんじゃ!ヒヒヒ」
そう言って、大きな注射器を手にした。中には緑色に光る液体が。
「そ、それは」
「ククク、興味がそそられるじゃろ。これはな―」
「いえ、そういうことではなく、それ、たぶん僕には効きませんよ」
「・・・は!?」
フランケンは両目を見開き、驚きの声を上げる。
「ど、どういうことじゃ!」
「いや〜、実はあなたの甥っ子のロイからその薬を貰ったんですよ。その中毒症状を抑えるという薬を」
「し、知っているのか?」
「結果は、ほとんど効かなかったんですよ。だから、はい」
「そ、そんな!」
明らかに落ち込むフランケンを見て、テルキは苦笑いする。
「博士、そんな落ち込まないでください。ゴホッゴホッ」
体調が悪く、咳き込むテルキ。
「じゃが、とりあえず実験を続ける」
世間からマッドマジックティストと言われ嫌われていても、やはり根っこは魔法研究者である。フランケンは、落ち込みながらも実験を開始した。
「くそ、全くわからない。どうしてこうなる!くそ!」
実験結果を見ながら、フランケンは苛立ち、つぶやいた。
テルキに適度な休憩をさせながら実験は続けられた。
「あの〜、博士」
「実験に今は集中しとるんじゃ!後でにしてくれ!」
なにやら必死の形相でペンを走らせているフランケンは、怒ったように答える。
その様子を見て、話しかけてはいけないと思い、テルキも黙る。
すでに一日が過ぎ、テルキの容態も悪くなる。
一方メアリーたちは、テルキの暴走が始まる前にテルキを無事に保護したかった。そのため、施設周辺を血眼になって捜索していた。
ただ、この博士は気づいていなかった。いや、忘れていた。
長年の夢がかない勇者を自分の実験に使える喜びにひたるあまりに、テルキが自分と同じ魔法中毒者であり、そろそろ暴走し始めるということを。
だが、そんな博士の欠点も、テルキがフランケンに好感をもつ理由の一つだ。周囲が見えなくても、たとえ自身に危機が迫っていても、それを忘れるぐらい夢中になれる。そこは、尊敬していた。
「う、うう」
さらに三時間後。テルキは、うめき声をたて始めた。
すでに理性はなく、精神力で症状を抑えている状況だった。だが、もう限界は近い。
フランケンもようやくテルキの異変に気づき、状況を把握した。
「わ、吾輩としたことが、とんだミスを!ここまでの症状になっていながら、今の今まで気づかなかったとは。もう、実験どころではない!」
すぐに秘密の倉庫部屋へと移動し、隅に置かれていた大型ロボットに近づく。
「まさか、お前を使う日が来るとは・・・」
大きさは五メートルほど。全身強化された硬い素材で造られ、ガッシリとした大型ロボット。以前、対テルキ用にフランケンが造った彼の最高傑作。ロボットながら魔法も使え、剣術もプログラミングされ、これまで集められたデータから勇者テルキの弱点もインプットされている特殊ロボだ。
必ず止めるんじゃ。
そう願いを込め、ロボットを起動させた。
しかし、・・・
完璧だったはずのフランケンのロボット。テルキに勝利、いや善戦・・・するはずだった。
だが、テルキが暴走してから一時間も経たずして、博士の最高傑作ロボットは完全に破壊された。
そのため、メアリーたちが到着するまで、フランクはテルキと戦闘しなけれならなくなった。
「博士、いい加減にしてください!危うくこの森ごと消滅させるところでしたよ!」
「吾輩のお陰で、皆が助かったではないか・・・」
メアリーたちが助っ人に入ったはいいが、フランケンは終始、メアリーの剣幕に押されっぱなしであった。そんな時、たまたまそこに置いてあった、フランクが作った『魔力吸収機(特)』によって、なんとか半分の魔力を吸い込み、ようやテルキの暴走を鎮めたのであった。
「この惨状を見てください!結構な被害ですよ!」
メアリーの言う通り。たしかに辺り一面は焼け野原で、フランケンたちが先ほどまでいた廃墟も地下室も、すべて跡形もなく消えていた。
「もう、許しません!今からあなたには罰を受けてもらいます。国王にもそのように―」
「お!あれは、テルキではないか!?」
フランケンは、メアリーたちの背後に向かって手を振った。メアリーたちも思わず後ろを振り返った。
「誰もいないじゃない!はーかーせー!」
「ヒヒヒ、さよなら、さよなら、さよ~なら!」
隙をつき、その場を去っていくフランケンの後ろ姿を見て、メアリーは深くため息をついた。
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