fil.7 初デート?
王都の中心の広場。
白亜の大理石の噴水を中心に、多くの人々が行き交う。
その広場に、一際目立つ男女がいた。
女性は金色に輝く長髪を後ろで結び、着ている水色のワンピースとよく合い、その美しさを際立たせる。髪には蝶の形をしたピン止めをしており、凛とした佇まいで立っている。
男性はかっこよく整った短髪で、お洒落な黒と白コーデを着ている。いかにも照れくさそうに頬を掻き、横の女性を見る。
そんな二人を遠目で見ながら、多くの人が彼らを眺めておしゃべりしていた。
「きゃ〜!何あの二人!お似合い過ぎ!」
「王女様!まさにこの国の聖女様だ!」
「英雄様、かっこよすぎる!」
周りの視線を感じ、恥じらう二人。
「ね、ねえ、テルキ。そろそろ行こう?」
「あ、ああ。周りの視線が気になるし」
二人は並んで歩き出す。そんな二人を温かい目で見る王都民。
二十代後半だと言うのに初々しさがある二人は、メアリーとテルキ。この国の元王女と英雄。元勇者パーティーの仲間同士であり、四年前に結婚している。二児の子供を持つ両親である。
そんな二人がデートのような、いや、デートをしている訳とは・・・
六年前から付き合い出した二人だが、デートの度に、メアリーの兄のルイスに邪魔をされ、まともなデートができなかった。それを哀れに思った勇者仲間のグレースやロイが、このデートをセッティングした。
しかし、彼らは夫婦であり子供もいる。気恥ずかしさの方が勝っていた。
「テルキ、私たちこれからどうする?」
「急なことだったから・・・計画なんか全くしていないしね。ハハハ」
二人は顔を見合わせて笑う。いつもの二人に戻っていた。
「行くとこもないし、王都内でもブラブラするか」
「うん、そうしようね」
彼らのデートが始まった。
王都内は思いのほか広く、ここで育っていないテルキにとっては新鮮な発見が多くあった。
「え!こんなところに、こんな大きな教会があったんだ!」
「テルキ、知らなかったの?」
「王城の近くにある大聖堂は何回も行ったことあるけど・・・ここは知らなかった。初めて」
「テルキって意外にこの街のこと知らないんだね(クスクス)」
「し、仕方ないだろ。魔王討伐が終わった後は、育児やらなにやらで忙しかったんだから」
「そうだね〜」
二人は懐かしむように昔を思い出していた。
「そういえば僕が初めて行ったダンジョン、覚えてる?」
二人は木陰のある小さな広場のベンチに腰かけ、昔話を始める。
「ええ。まだみんなと団結力がなくて、上手く行っていかなかった時ね」
「そうそう。メアリー、君なんて俺のこと毛嫌いしてたもん」
「あの頃の話はしないで!今思うと、当時、私はただの世間知らずのお姫さまで、相当わがままだった。私にとっての黒歴史!」
「ハハハ。何で僕はそんなに君に嫌われるのか、当時はまったく分からなかったよ」
「だから、その話はもうやめて!それより、初めてのダンジョンと言えば・・・」
二人は時間を忘れて、昔話に花を咲かせる。
困難な日々、仲間との喧嘩、そして友情。魔王討伐の日々には、多くの経験をした。
日が沈み始め、辺りが暗くなっていく。
「そう言えばこんな時間だったかな。僕たちの初デートの帰り」
突然テルキに言われ、顔を赤らめるメアリー。
「ええ、そうね。たしか、初デートする私を心配して後からこっそりついてきた兄様をまいた後の帰り」
「こうして振り返ると、色々とあったな〜」
「うん。今は私たちは結婚し、かわいい子供もいる。あの時は、想像もしてなかったわ」
苦笑いを浮かべるテルキ。
「そうだな。まさか自分が、今じゃ、みんなを苦しめるこんな厄介者になるなんて」
メアリーは真顔になり、全力で否定する。
「テルキのせいではないわ!それに、私たちの世界があなたを勝手に呼び出したのよ!あなたに関係のない世界に。だからテルキは気にしないで!」
「・・・。呼び出されたことにはなんの不満もないよ。それに、そのおかげで君や、子どもたち、一生の仲間と出会ったんだから!感謝したいのはこっちさ!」
そう言いながら恥ずかしくなり、空を見上げるテルキ。
「天涯孤独だった俺には、地球に家族もいなし、友人もいない。強いて言うなら近所の仲の良かったある人に会えないことぐらいかな。でも、本当にそれぐらいだよ。今回の中毒も俺の責任だ・・・」
「テルキ・・・」
人一倍謙虚なテルキは言う。
「!ごめん、こんな話をして。もう暗いし、そろそろ迎えも来る。帰ろっか」
「うん。そう、だね」
デートを続けたい。子どもたちに会いたい。内心では二人共そう思っていた。しかし、今はそれは不可能だ、ということも、二人はわかっていた。テルキのこの治療が終わらない限り。
長時間、外にいたせいか体調が優れず、ヨロヨロと立つテルキ。メアリーは肩を貸し、二人は寄り添いながら馬車が待つ門に向かった。
「どうだった、メアリー!?」
グレースは帰ってきたメアリーに早速尋ねた。
テルキはすでに体力の限界で、寝てしまっている。
「・・・・・・」
「何か言いなよ!」
黙るメアリーを急かすグレース。
「やっと、普通なデートができた気がした。でも―」
「でも?」
「やっぱりこの歳になるとはずかしぃーよー!」
うずくまるメアリー。それを見てグレースは思わず大笑い。
いつもは凛としている王女が、こんなに純粋で初々しい心の持ち主だなんて、きっと誰も信じないだろう。
「でも、楽しかった?」
「ええ、色々とおしゃべりをしました。姉様、ありがとうございます」
「いや、どうってこと無いよ!」
メアリーにとってその日は、最高の一日となった。
◇
王城にて。
「ヒヒヒ。ヒヒヒ。遂にこの日が来るとは・・・。長生きをするもんだな!」
不気味な笑い声がこだまする。
ドーーッッン!
声の主は、王との謁見の間の扉を勢いよく開けた。
「王よ、吾輩が行ってよろしいんですね。ヒヒヒ」
王はその人物を睨みつけて言う。
「あくまで彼らと連携して行え!勝手な行動はせず、我が娘の指示を―」
「はいはい、は~い!でも、何をやってもいいんですよね!?ヒヒヒ」
王の言葉を遮る、その無礼な男。
恐怖心の無い騎士がいれば、その場でその首を落とそうとするだろう。だが、騎士の全員が知っている。この人物がどれほど危険で、自分たちでは敵わない怪物だということを。
「だが、勇者様への危害は許さないからな!」
「はいはい、は~い。そうですか。それでは、さよなら、さよなら、さよ~なら!ヒヒヒ・・・」
王の言葉に聞く耳を持たず、その男は去っていった。
「マッドマジックティスト、フランケン・オオタ・・・」
王は、その男の名前をつぶやく。
「相変わらず、ぶしつけで得体の知れない男だ。すぐにこのことをアルラスに知らせろ!」
「は!」
使いの者が駆け出す。
その背を見ながら、王は祈った。
テルキ殿、どうかご無事で・・・
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