fil.6 可哀想な女性

治療任務を始めて半月が経過した。

成果といえば、中毒症状の暴走が、1日延びたこと。完治にはほど遠い。


ルイスが提案した作戦がなぜ成功したか分からず、調査中。

ただ、過去につながることで、精神的に影響を与えれば治るかもしれない、という見解で一致した。


彼ら勇者パーティーは、次なる作戦を考案していた。


「精神的に、か。難しいな」


机に向かい合い、皆悩んでいた。


「心臓を突き刺して」

「兄様!物理的にはダメです!」


洒落にならない冗談を言うルイスを、メアリーが止める。


 兄様と話していると、子供の頃に戻ったみたいになるわ・・・


過剰すぎる干渉をしてくるルイスだが、それでもやっぱり、メアリーの尊敬する兄なのだ。


「魔王討伐を〜もう一回するのは〜どうですか〜?」


ロイの酷い提案を全員が無視をする。

一人を除いて。


「私も〜、思いました〜」

「キャシーさんもですか〜!」

「はい〜!メアリー様には〜止められましたが〜」

「ロイ、キャシー。その案だけはまじでやめて!」


真剣な表情で言うメアリーを見て、二人は黙る。


「いやー、これしかないよねー」


不安そうに、ボソリと言うグレース。


「グレース姉様!何か思いつかれたのですか?」

「ん、まあ一応。でも、不安でしか無いのよ」

「それでもいいですから、おっしゃってください」

「う〜ん」


渋るグレースだが、ようやく話し始める。


「過去につながることで精神的に、って言ったら、私達の冒険の日々の他にもう一つあるじゃん!」

「ん?」


メアリーは分からず首をかしげる。


「デートだよ。テルキとメアリーの!」

「!!!」


急に顔を赤らめ、うずくまるメアリーを見て、呆れるグレース。


「やっぱり。デートで何かあったんだね!?」

「何?テルキの野郎、デートで何を!?」

「絶対あんたが原因でしょ!このシスコンが!」

「お、俺は何も・・・」

「あんたは黙ってな!ところでメアリー、何かあったの?」


そう尋ねられたメアリーは顔を赤らめたまま、グレースに確認する。


「テルキは、ここに呼んだほうが、いいです・・か?」

「いや、まだ寝てるようだし、それは悪いよ」

「そう・・ですよね」


テルキはその後も中毒症状が続いていた。

この会議の前日にも防壁などを壊し、魔力が底を尽き、疲れて今も寝ている状態だ。


「恥ずかしいが、お話します」


全員が耳を傾ける。


「当時は、それがデートだと思っていました。でも、今考えれば、それはデートとは言えないとわかったんです・・・」


全員「「「???」」」



6年前。


ある戦いにて。

テルキとメアリーは、お互いが両想いなのだと気づき、付き合い始めた。

しかし、当時は冒険の真っ只中。

日々戦いに明け暮れており、二人で遊びに行くことがなかなかできなかった。

また、シスコンであるルイスも目を光らせていたため、『デート』なるものをしたのは、付き合い始めて1ヶ月後であった。


その日は国王の生誕祭であり、国中がお祭り騒ぎとなっていた。

勇者パーティーも久々に休暇をもらい、各々がそれぞれの休日を過ごした。


テルキとメアリーは、ルイスにバレないよう細心の注意を払いながら合流をした。


メアリーは、お気に入りの水色のワンピースを。テルキは密かにグレースから教えてもらったコーデで。二人共、緊張しながらその日を迎えた。


昼食を食べ終わった頃。ここまでは普通のデートだった(昼食を食べただけだが)。

街を歩いていると、奴が現れた。

奴は二人を見つけると、ものすごい勢いで追ってきた。

奴が来るのを確認したテルキは、メアリーの手を取り、こう言った。


「逃げるよ、メアリー!」

「う、うん!」


メアリーは恥ずかしながらも、強くその手を握った。

それは二人が初めて手を握った瞬間だった。


奴は執拗に二人を追いかけてきた。2時間経っても諦めなかった。

奴は自分が持つ権力を最大限に使い、二人の初デートを止めにかかった。


「はぁ・・はぁ・・」


勇者パーティーの一員とはいえ、本来、魔法専門のメアリーは走るのが好きではなかった。

むろん、一般人や冒険者の中ではずば抜けて運動神経はある。ただ、奴と奴の他にも無数にいる手下相手に逃げるのは、さすがに辛かった。


「大丈夫か?」


いまだ息も切れてないテルキは、異常と言っていい。


「もう、だめ・・・かも・・」


テルキは後ろを振り返る。


「いたぞ!!!待てーーー」


奴が近づいてくる。


「ちょっとごめん」


そう言ってテルキは、メアリーの肩と足に手を回し、ひょいと持ち上げる。


「え、ちょっと、こ、これって」

「しっかり捕まっていて!」

「え!?」


テルキは勢いよく飛び上がる。その勢いに、思わず目をつむりテルキの服を掴む。

目を開けるとそこは家々の屋根の上。その上を、テルキは颯爽と駆けていく。

後ろから追いかけてくる奴との距離は、どんどん離れていく。


テルキの顔を見ると、楽しそうな表情をしている。その顔は夕日に照らされ、一段と輝いて見える。

視線に気づいたのか、メアリーの方を向き笑顔で聞く。


「どうした?」


メアリーは顔を赤らめ、それを隠すために、テルキの胸の中に顔をうずめる。

奴から逃げ切るまで、二人はその状態を続けたのだ。


「大丈夫だった?」


メアリーを降ろしながら、テルキが聞く。


「いや、全然。テルキこそ、大丈夫?」

「うん、大丈夫!」

「・・・・・・」


そこで会話が途切れる。先ほどのことを思い出し、二人で顔を赤らめる。


「メ、メアリー!」

「!な、何?」

「その〜、これからもよろしく、ね!」

「うん!よろしく!」


二人は手をつなぎ、帰路についた。




「・・・・・・。・・・・・・」

「なんか言ってよ、グレース姉さん!」


話が終わり、ただ呆然とするグレース。他のメンバーも口をつぐむ。


「くそーー。あのやろ!!!初デートで我の可愛い妹と手をつないで、おまけに、お姫様抱っこをするとは!!!」

「兄様!それ以上言わないで!」

「何が、これからもよろしく~、だ。カッコつけやがって!」

「きゃーーー!!!」

「あの野郎ーーー!」


「いい加減にしろ!!!!!!!くそシスコン!!!!!」


グレースはルイスに一気に体当たりをする。


「グヘッ!」と、ルイス。


壁にぶつかり、倒れ込む。


「あんたが全部悪いわ!兄ならしっかり見守ってなさい!」

「ルイス先輩〜それはやりすぎですよ〜」


ロイにも咎められる。


「メアリー、しっかりして。それもいい思い出なのだから。確かに普通のデートではないけれど、意外にロマンチックじゃない!?だから、元気出して!」

「そうなんですけど、その日だけではなかったのです。これまでデートしてきたうちの半分は兄様に邪魔され、2割は魔物や魔人に襲われました。あと、トラブルに巻き込まれたりして、まともなデートなど、ほとんど経験しませんでした。終いには、ダンジョン(魔物の巣窟)でピクニックデートをしました!帰りは魔物の血で、せっかくのお洋服も汚れるありさまでした!!」

「そう言えば、なんか心当たりあるわ~。あんたたち、時々、異常に汚れてデートから帰ってきたの今思い出した・・・」


羞恥で頭を抱えるメアリーを見て、グレースはため息をつく。


「メアリー、午後からゲートにでも行きな!」

「え?」

「思い出の代わりになるか分からないけど。さ、準備しな!」


キャシーはすぐに弁当や服の準備に入る。グレースの提案に、最初は呆然としていたメアリーだが、我に返り支度をし始めた。


「宰相様。このシスコンを見張っていてください」

「分かっていますよ。王子、王子はここで私共と一緒に。あなたがほったらかしにした政務のお仕事が、たんまり残っていますので・・・」

「み、みんな! ま、待ってくれーー!」


アルラスに引きずられ、ルイスは政務室へと連れ去られてゆくのであった・・・


                          NEXT

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る